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戦略級魔法使いの日常  作者: 氷河久遠
第一部

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45/62

貴族と仕事09

 導師が作ったゲートで家に帰ってきた。

 最初に僕たちを見たのは門番だった。普段は外を向いているが異様な気配を感じて門の中を見たようだ。

 門番はコールの魔術で執事を呼んだようだ。

 玄関から執事があわてて出てきた。

「お早いお帰りですね」

 執事は焦りながら身なりを正した。

「ああ。トラブルがあった。それで、残してきたノーラと荷物がある。それを運んでくれ。臨時で手伝いを雇っても構わないから」

 導師は答えた。

「はい。わかりました」

「お前がいない間は私に任せろ。ノーラを頼む」

 そういうと導師は僕の手を引っ張って中に入った。

 導師は僕の手を離さずにリビングにいった。そして、僕の手を離してソファーに座った。

 導師はコールの魔術を使った。

 お茶を催促したようだ。

「何をしている。隣に座れ」

 僕は導師の横に座った。

「今回はすまなかったな。あのように貴族を使い捨てにするとは思わなかった。……いや、私の浅慮でお前を危険にさらした。すまない」

 貴族を使い捨てとは何のことかわからない。だが、誘拐された一件と関係があるようだ。

「いえ、父と会えましたから。相変わらず、元気そうでした。でも、敵同士になりました」

 僕はそういいながら、父を捨て切ることはできなった。

「そうか。お前の父はお前を捨てたのだな?」

「わかりません。ですが、切り離せないのは同じです。僕を売っておきながら、自分の子と認識しています。僕には父が理解できません」

「そうだな。人の心は理屈で動いていない。お前が父親につながりを感じているのは仕方ないのだろう」

「……はい。導師の養子になったのに切り離せません。申し訳ありません」

 僕はそういってから再び、父とのつながりは切れていないと感じていた。

「それを含めて養子にした。気に病むな」

「はい。でも、決着がつきそうです。父は僕を殺すといいました。僕も父を殺さなければなりません。そうでないと、他人を巻き込みます」

 導師は僕の方に身を寄せた。そして、僕を抱え込む。

「その仕事は私に任せろ。お前には笑っていて欲しい。無駄に手を汚すことはない」

「ですが、僕の問題です。導師に全部を任せるほど、厚かましくありません」

「我が子の問題だ。親の手をわずらわせるのは子供の仕事だ。気にするな。お前は大人の知識はあるが、まだまだ子供だ。心は育っていない」

「……はい。情けないけど……」

「なら、甘えてくれ。そうでないと親として心配だ」

「……はい」

 僕は導師に寄りかかった。


 僕のダンスとカリーヌの無詠唱の練習にジスランの屋敷に訪れた。

 練習はお茶の次なので、静かに紅茶を飲んでいる。

 このゆったりした時間だけが、気を休める貴重な時間だった。

「そういえば、伯爵家が一つ消えたの知っている? 何でも人をさらったらしいわ」

 カリーヌは思い出したかのようにいった。

「ええ、聞いているわ。子供一人さらうのに貴族の力を使ったらしいって」

 レティシアは答えた。

「うん。それで、バランスが崩れているんですって。王位継承権にも関わってきたみたいよ」

「子供一人で、何でそうなるの?」

 レティシアの疑問は当然だった。僕でも理解できない。

「何でも、第一継承者が力を持ち過ぎたのが問題らしいわ。戦略級魔術師が傘下に現れたかららしいの」

 カリーヌはいった。

 戦略級魔術師といえば、僕しか知らない。他にもそのような大規模魔術を使う人のウワサは聞かなかった。

「それなら、地位が盤石になっただけでしょう? 争う必要なんてないでしょう? 第一王子なんだから」

 レティシアは答えた。

「でも、第二継承者の王子と第三継承者の王子が手を結んだらしいわ。それで、第一継承者の王子より影響力が強くなったらしいの」

 カリーヌの言葉にレティシアはあからさまに嫌な顔をする。

「それって、私たちの家にも火の粉が降りかかるの?」

 レティシアの私たちの範囲には導師の家も入っているのかわからない。だが、僕が誘拐された理由の一つかもしれない。

「ええ。息子を誘拐された貴族もいるらしいわ。そういえば、シオンは以前、誘拐されたのよね」

 カリーヌにきかれた。

「ええ。二度目ですけど」

 僕は何も考えず紅茶を楽しんでいた。

「え?」

 カリーヌとレティシアの言葉が止まった。

「……二度目って、また誘拐されたの?」

 レティシアにいわれた。

「え? 変なことをいいました?」

 僕はきき返した。

「シオンはあれからまた誘拐されたの?」

 カリーヌは確認するようにきいてきた。

 僕は余計なことをいったのをいったようだ。だが、もう遅い。素直に答えるだけだった。

「……はい。睡眠薬を盛られました」

「お父様ー」

 カリーヌはテラスから家の中に走って行った。

 レティシアは驚いている。

「本当に?」

「はい」

 僕は帰ったら導師に怒られると思うと冷や汗が出てきた。

「はー。外も気楽に歩けないわね。でも、同情するわ。運が悪かったって」

「ええ。同じ貴族でも、簡単にお菓子をもらって食べてはいけないと覚えました」

「それで、何でシオンは誘拐されたの?」

「ここだけの話にしてくれますか?」

 僕は確認した。

「ええ。いいわよ」

 レティシアの返事は軽い。信用していいかわからなかった。

「約束ですよ」

「もちろん」

 僕は念押ししたがレティシアの覚悟は軽そうだった。

 レティシアはまだ九歳である。秘密を守れるかわからなかった。

「僕は導師の養子です。それで、実の父が犯罪に手を染めていまして、僕を所有物のように思っているんです。それで、奴隷という商品としてさらわれました」

「何よ、それ。その父親はおかしいわよ。奴隷として売って、またさらって売る。普通ではないわ」

 レティシアは僕が奴隷だったことを知っている。

「まあ、そんな父なのですが、縁が切れなくて困っています」

「ランプレヒト公爵に相談したの?」

「ええ。もちろんしました。僕の親ですから」

 レティシアは言葉が続かないのか沈黙が流れた。

 レティシアは難しい顔をして僕を見る。

 僕は逃げるように紅茶に口を付けた。

「シオン。あなたって戦略級魔術師だったわね」

 帰ってきたカリーヌは大きな声でいった。

 僕は紅茶を吐いた。

 レティシアさえ忘れていたことなのに、父であるジスランはカリーヌに思い出させたようだ。 

「だからなの?」

 カリーヌに詰め寄られた。

「……わかりません。ですが、男爵になった理由ではあります」

「そうだったわね」

 カリーヌは喜んでいた。先の誘拐されたことなど記憶にはないようだ。

「シオン。実の父の話はウソだったの? 戦略級魔術師だから誘拐されたの?」

 レティシアは少し怒っているようだった。

「ウソではないですよ。二度目の時も父はいましたから。だから、困っています」

 僕は答えた。

「何の話?」

 カリーヌは僕とレティシアを見比べる。

「シオンが誘拐された話。実の父親が二度の誘拐に関係していたのよ。それも、シオンを物としか見ていないって」

 レティシアは不快な気持ちを隠さずにいった。

「そうだったの。あの時はごめんなさい。お父さんが犯人だと知らなかった。知ったようなことをいってごめんなさい」

 一度目に誘拐された話だろう。その時、カリーヌには慰められた。

「謝る必要はないですよ。触れて欲しくないところを触れられませんでしたから。だから、今でも感謝しています。それより、もっと問題があります」

「何?」

 カリーヌにきかれた。

「カリーヌ様とレティシア様が、僕と遊ぶ仲だと知られたら危険があると思います。貴族の家に生まれたとはいえ、危険は少しでもない方がいいかと……」

「それはしないわ」

 カリーヌの声は低く威圧感があった。

「私の友達は私が選ぶ。それを邪魔するのなら、何を使ってでも排除する。それだけよ」

 僕はカリーヌの覚悟を見た気がした。

「私はね。シオンだから友達になったの。だから、そんな理由でやめないでね」

 カリーヌに押される形で僕はうなずいた。

 情けないことにカリーヌの気持ちを考えていなかった。それに、覚悟は僕よりもある。まだ、九歳でありながら、貴族の片りんを見た気がした。

「シオンは貴族ってものを知らなすぎ。平時も戦争中なのよ。私たちは怖いのではなく、面倒なだけ。勘違いしないでね」

 レティシアはいった。

「……うん。また、ここに来ていい?」

 僕は人とのつながりはわからなかった。

「当たり前よ。というか、もっと時間を作って来なさい」

 レティシアは怒るかのようにいった。

「シオン。怖がらないで。私たちは友達よ」

 カリーヌは微笑んでいた。

「……うん。ありがとう」

 僕は二人には感謝しかなかった。

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