Re.第一話「なんか増えてますが、異常ありません」
クール系変人と毒舌娘の日常(in宇宙)
2XXX年、
科学技術は進化を続け、なんやかんやで人類は宇宙に進出していた。
【とある薄汚い廃研究所】
半壊した外壁、散らばったガラスの破片、そして棚にはホコリを被った魔法少女フィギュア。
「きったな」
レイが一言だけ呟く。
「やっぱり。今回もロクな場所じゃありませんでしたね」
ミラは周囲をライトで照らす。
2人は人呼んで“宇宙トラブルシューター”…聞こえは良いが、要するにただの“何でも屋”だ。
今回の仕事は、この廃墟に異常がないかを調べる。──よくある仕事だ。
「毎回思うんですけど…公的機関のくせに、か弱いレディをこんなところに放り込むなんて、腐ってやがりますよね?」
ミラが愚痴をこぼすと、レイは足元の破片を軽く蹴りながら、淡々と答える。
「危険生物を素手で気絶させる怪力ゴリラ女のどこが“か弱いレディ”なんだ」
ミラはにっこりと笑った。
「レイ」
「はい」
「黙れ」
「すみませんでした」
鞭でしばかれることを察知したレイは、それ以上からかうことをやめた。
─
…探知機が妙な反応を示したのは、その直後だった。
生体反応でも、機械反応でもない。
けれど確実に“何か”いる。
レイが足を止める。
「何かいるな、姿は見えないが」
「不気味ですわ…」
ミラも周囲を警戒するが、探知機のモニターには何も映らない。
そのとき。
──ガサッ
2人の背後で何かが動く音がした。
「!!…レイ!」
「分かってる」
レイは素早く“何か”の方向へ体を向け、銃を構えた。
次の瞬間。
物陰から、ちょこん、と出てきたそれを見て、ミラは言葉を失った。
「…………」
「……ちっさ」
そこにいたのは、脅威とは程遠い存在だった。
ただ、二人をじっと見上げている。
「……これ、ですの?」
「多分」
2人はしばらく固まっていた。
…しかし数秒後、ミラは風船が萎むように脱力した。
「…ただのハムスターじゃありませんか〜、びっくりさせやがって…」
ミラが一歩近づくと、それは一瞬体を跳ね上がらせ、レイの背後に回り込む。
「うわ…人を選んでますね」
「見る目あるな」
ミラは目線だけをレイへ移す。
「何か言いました?」
「いえ何も」
レイは、ミラの視線から逃げるように顔を逸らし、即答した。
─
数分後。
2人はしばらく様子を伺ってみたが、ハムスター(?)は襲ってこない。威嚇もしない。
…ただ、なぜかレイの服にぶら下がって遊んでいる。
ミラがその様子を横目で見ながら尋ねる。
「この子、本部へ送るべきでしょうか…」
レイは通信機の電源を入れた。
「とりあえず上に報告するか」
今回の依頼人──公的機関の本部に連絡すると、中年男性の立体映像が出てくる。
…慌ててゲーム機を後ろに隠したのを、2人は見逃さなかった。
レイが生きた毛玉の様子を見せると、彼は裏返った声で言った。
《異常反応が消えたなら、後は好きにしてくれ》
「…了解」
レイは返事をすると、通信を切る。
隣でミラが肩をすくめる。
「好きにしてくれ、って…投げやりすぎません?」
「だな」
レイは毛玉を服から引き離し、そっと地面に置いた。
「よかったな、保護施設行きじゃなくて」
小さく首をかしげている毛玉に別れを告げると、2人は廃墟の出口へ向かった。
その頃には、外には夕闇ならぬ宇宙の闇が広がっていた。
─
【ブリッジ号・船内】
ミラが船内で紅茶を淹れていたそのとき。
「!!」
ミラは、レイの背後を見て絶句した。
…なんと、先ほどの毛玉が蝉のようにくっついているではないか。
「…レイ…」
「なんだ」
「……なんか…ついてきてるんですけど…」
操縦席のレイは振り返りもしない。
「そのうち出ていくだろ」
ミラはため息をつく。
「…適当すぎません?」
レイは背中の毛玉に語りかけた。
「なあ?ホムンクルス」
「ホムンクルス!?!?」
「それは分かりますけど!なんでホムンクルス!?」
「なんとなく?」
…ミラはしばらく沈黙したあと、再び口を開いた。
「ところで、探知機の反応は何だったんでしょうか…」
「故障じゃない?細かいこと気にしてると小ジワが増えるぞ」
「なっ…」
ミラはレイの後頭部めがけて紙飛行機を投げた。
「まだそんな年じゃないもん!!」
紙飛行機が命中し、レイの背中に落下したそのとき。
「ァァ゙ァァァァァァ」
紙飛行機の下から得体の知れない声が聞こえてきた。
2人の間に沈黙が流れる。
…数秒後、2人は声を揃えて叫んだ。
「「……鳴き声キモッ!?!?」」
このとき探知機が再び反応した。
…レイの腐った牛乳プリンに。
第一話・完




