逃走者の話
下界に降りた。
そんなことを母に行ったらどうなるだろう。神に母なんていないが。
そんなことよりもだ。天界の連中が汚れていると散々バカにしているが、これはバカにできない。
空気も澄んでいる。降り立った先のビルから見下ろす街は絶景だった。
これが夜になれば、月明りなんて関係ないほど明るくビル内の光が街を照らすのだろう。
その景色はどれほどきれいだろうか。これからはそれがいくらでも見れる。
そんな生活に心躍らせ、俺は人がいなさそうな路地裏へと身を投じた。
風が頬を撫で、服をなびかせた。
そして、着地した。
「初めて踏んだ下界の地面だ。」
俺はその記念すべき一歩を踏みしめ、そのまま路地裏を歩き始めた。
路地裏は街の喧騒とはかけ離れていて、暗く、静かで、じめじめとした様子だった。
だが、それもいい。明るく美しい場所だけでなく、暗く汚い場所もあってこそ人間といえよう。
なんだか、下界に来てテンションが上がっているようだ。
いつもは考えないようなことにまで考えを巡らせている。
俺は、それをおかしく思いながら暗い場所を歩いた。
「やっぱ暗い場所も乙なものだな。」
明るければいいわけではない。美しければいいわけではない。
昼が好きな奴もいれば夜が好きな奴もいる。俺は後者だ。
俺は、とにかく天界のどこに行っても明るい場所とはかけ離れた場所に新鮮な気持ちで楽しんだ。
「抵抗なんてするんじゃねぇぞ?」
だが、そんな楽しき気持ちに水を差す輩がいた。
天界ではまず聞かない欲望にまみれた来たねぇ輩の声だ。
俺はこれでも神だ。欲望にまみれてるかどうかなんて声を聴けばわかる。
嗚呼、放置すればせっかくの気分が台無しだ。
ならどうするか。
俺は戸籍なんてない。金なら作り出せばいい。
つまり。
「天界とは違う。何やっても咎められない。」
俺はそう独り言をつぶやくと、声の方向に向かって歩いた。
近づいていくと分かったことがある。
おそらく男性が3名。そこまで年も取っていない。そして女性が1名。
明らかに男性が女性を脅している状況だ。
恋愛漫画みたいな展開だ。まぁ、現実はあんな風にはいかないんだけど。
とりあえず急がないと止められないだろう。
少しだけ歩調を速めた。
そして、その現場を目でとらえた。
予想は間違っていなかったらしい。
泣き顔の女性を三人で男性が囲っている。
「いやぁ、そんなか弱い女性を3人がかりで追い詰めるなんてねぇ。……自分がすげぇだせことやってるって自覚してる?自覚してできるならすげぇけどな。恥知らずがよぉ。」
とりあえず、喧嘩腰で話しかける。
こういうやつには喧嘩吹っ掛けたほうが速いからね。
「あぁ?なんだクソガキ。お前は黙ってろ。痛い目にはあいたくないだろ?」
………クソガキ?俺、多分お前らよりも400年ぐらい長く生きてるよ?
「……いやぁ。クソガキじゃないっすよ。どちらかといえば暴力でしか自己主張できないお前らの方がクソガキじゃないっすか。」
「あぁ?一発わからせねぇといけねぇみたいだな。やるぞお前ら。」
「あっれぇ?こんなクソガキに3人でかかるんですかぁ?ビビってんすかぁ?だっせぇすよ。」
それなりに煽ってやると、そいつはかなりイラっと来たらしい。
「いいだろう。度胸だけは認めてやろう。お前ら手出しするなよ。」
そういい、さっきから俺と話しているリーダー?が前に出てきた。
………手加減しねぇとな。銃は絶対だめだ。
そいつが構えても俺は楽に力を抜いて立っておく。
それが挑発とそいつはとらえたらしく、おらあああ!みたいな声を出しながらこっちに走ってきた。
近づいたときに拳を振りかぶってきたが、それを少しかがんでよけると、足を引っかけた。
走った時のスピードもあり、そいつはぶっ倒れた。
「こ、こんのやろう!」
そいつはまた殴りかかってきたが、頭に血が上っているらしい。
「知ってるか?みぞおちって人間の急所らしいぞ。」
そういい、がら空きのみぞおちに思いきり蹴りをかましてやった。
そいつは相当痛かったのか、ぐふっみたいな声出して倒れた。
かなり強くやったせいか、ほぼ気絶寸前みたいになってる。
「いやぁ、急所は守らないとダメだよね。」
そう、あざ笑うように地面に倒れたそいつを見下ろす。
「お、お前!よくも!やるぞ!」
「おう!」
そういって、さっきのやつの取り巻きみたいなやつらがこちらに来た。
………めんどくさくなってきたな。
俺は殴り掛かってきた奴の拳を片手で受け止め、思いきり押し返した。
蹴りをしてきた奴はそいつの足を自分の足で思いきり蹴り返したやった。
そいつらは一気にバランスを崩し、倒れた。
「どうした?1対2だぞ。かかって来いよ。」
そう挑発すると、さっきのやつと同じように頭に血が上ったようだ。
さっきのやつの二の舞を演じた。
もちろん俺もさっきのやつを再現してやる。
回し蹴りみたいにすれば案外行けるものだ。
そいつらはさっきのやつみたいに倒れた。
……ちょっとやり過ぎたかもな。
やっちまったなぁ!
まぁ、しょうがない。
と、ここで俺は今更ながら女性の存在を思い出した。
「あ、怪我…ないですか?」
とりあえずこういう時はこの言葉をかけるのが恋愛漫画では定石だ。
「あっ。はい。助けてくださりありがとうございます……。」
「いえ、今後は気を付けてくださいね。」
多分、さっきので俺は怖がられただろう。
そう思い、その場を離れようと思った。
「あ、あの。ちょっと待ってください。」
「えっ。」
「えっと……な、名前教えてください。」
……困ったな。
本名で名乗ろうか。それとも、名乗るほどのものではありませんといって颯爽と去ろうか。
後者は圧倒的に男子の夢、あこれがれだ。
……少し悩んで俺は本名を名乗ろうと思った。
現実で言えばただの痛い奴だ。
「えっと、桜玲って言います。」
「玲…さんですか。あ、あの、こんどよろしければお礼を……。」
「えっ。えっと。あ、ありがとございます?」
こういう時どう返事すればいいんだろう。
俺がそう返事すると、その女性はうれしそうに笑い、時刻と場所を指定し、お願いしますといって離れて行った。
下界に降りて早々女性の知り合いができるとは。
……………というか俺、彼女の名前も聞いてないし、顔も恥ずかしくて直視できなかったんだけど。
なんとなくしか顔知らないからやばいな。
……まぁ、相手から見つけてくれるか。
そう思い、次は今日の寝床だなぁ。と考えていると。
小さな、小さな銃声が聞こえた。
嫌なものだ。覚悟はしていたが、やはり嫌だ。
そう思い、銃弾が届く前に発砲者の背後を取った。
そして。
「あのねぇ。俺は今、ただ生きているだけだ。邪魔しないでくれ。」
そう、言った。
この物語はこんな感じで主人公が二人、逃走者側と殺害者側で毎回変わります。逃走車視点と殺害者視点って感じです。少し変かもしれませんが、頑張っていきます。評価等お願いします。




