惚れてやろうじゃねえかこんにゃろめ!
視界がぼんやりと開く。
「……ん」
頭が重い。
なんか変な夢を見た気がするけど……いや、夢じゃない。
確かに女神とあっていた。
その前は……。
ここは、どこだ……?
周りを見回す。
電車の車内の様だ。
そうか……魔王から逃げるためにこれを使ったんだ。
痴漢専用車両(特別快速)とかいうクソみたいなアイテム。
使用後も消えない仕様なのか……意外に便利だ。
「あ、ヴィーさん目が覚めた?ウチらのこと、わかる?」
「サフィさんに……リバさん……ここは?」
振り向くとそこにはサフィさんとリバさん。
「2Pさんが言うにはヴャジマ郊外の森の中らしいわ」
私の疑問にリバさんが答える。
窓の外を見直す。
電車の窓からは木々が密集した森の景色が見える。
遠くには雪化粧した山影。
「モスクワからの離脱には成功。アイテムは効果切れでもう動かないけど、今晩の宿にはなりそう。2Pさんが運転席で警戒してるけど、半径10キロ圏内に敵影は無しだって……とりあえず今日の所は、安全みたいね」
「ありがとうリバさん。大体状況は把握した」
「急に倒れたからびっくりしたわよ。……何かあった?」
「うん、あとで説明する……それよりも、モッさんたちは?」
「……隣のグリーン車の方」
そう言って、次の車両への接続部を指さすリバさん。
心なしかその顔は暗い。
グリーン車へ続く貫通扉は開いたままになっており、私は立ち上がってグリーン車の方をのぞき込む。
「ぐすっ……ひっく……」
グリーン車の席を2席占有し、うなだれながら顔を両手で覆い嗚咽を漏らしているモッさん。。
その姿はデコイを作ったときの比ではないレベルで弱々しい。
「俺……俺のせいで……世界が……」
モッさんの呟きが、グリーン車の車内に重く響く。
視線を隣に移すと、通路を挟んで座席を対面にして頭を抱え座っているケイさんと、席の上で体育座り状態の翔太さん。
「勝ち筋が見えない……。カンストのモッさんで歯が立たないとなると、運よく人類領に撤退できたとしても、デコイとアイテム量産でも勝つのは難しいぞ……あんまりにも魔王のステータスが想定外すぎだ……どうなってんだよ……」
ケイさんはぶつぶつと呟きながらため息をつき、メイン武器の剣に至っては座席の下に放り投げられている。
「ここから入れる保険はさすがになさそうだなぁ……はは、はははは」
翔太さんに至っては既にあきらめモードだ。
みんな、絶望のどん底に沈んでる。
そりゃそうだ。
魔王が私の前世の妻で、しかもなんらかの自力チートでパワーアップしてるなんて想定外すぎる。
カンストモッさんですら苦戦する状態。
こんな詰みゲー状態で、士気が上がるわけない。
元々一般人なのだ。
別に不屈な訳でも何でもない。
詰みの状態でひたすら勝利のためだけに思考を回せるようなバケモノはそうそう居ない。
グリーン車でぐずっている勇者を巫女の二人が止めていないもの、この詰み状態での打開策を出せないことが原因だろう。
今、希望の情報を持っているのは私だけだった。
……女神の言葉を思い出す。
転生空間でクソみたいな説明を垂れ流した女神。
「女になれ、か」
グリーン車へ続く貫通扉をそっと閉め、そこにもたれかかりながら私はつぶやく。
メス堕ちしろ。女になれ……。
種付けおじさんを種付けおじさんとして確立させれば強くなる……。
考えろ。……いや、そのままの意味だろう。
考えないようにしていただけだ。
今まで私は快楽度がカギだと思っていた。
考えが甘かった、ということだろう。
私を含め全員の考えが甘かった。
覚悟が足りなかった。
このディストピアに余裕なんざないことは薄々わかっていたのに、デコイは避けるわモッさんに落とされるのを避けるわ……そりゃあ、負けるか。
前世の妻がチートで魔王のステータスを上げたとかそういう問題じゃない。
つまるところ、私たちは世界の構造をナメていたわけだ。
どこかで「ゲーム由来だし」というナメた感覚があったわけだ。
この世界の由来がなんであれ、私たちには現実な訳だ。
それを見てなかった結果がこれな訳だ。
世界の法則で、種付けおじさんは「役割」を果たせば強くなる。
色々あるが、要は女を性的に落として自分の女にするのが前世の知識の範囲での種付けおじさんだ、
そう、「自分の女にする」が種付けおじさんの役割だ。
つまりモッさんを100%覚醒させるには、私がモッさんに惚れればいいわけだ。
……きっつっっっっ!!!!
……いや、もうそれはもういいや。何回やるんだよ、私。
覚悟が足りないってわかったばかりだろうが。学習しろ。
男だった私。死ね。
はい今死んだ。
男だった私死んだ。
ゴミ箱にポイだこんなもん。
「ふー……」
深く深く、息を吐く。
…………………………………………うん。
切り替え完了。
やってやろうじゃねえかこのやろう!
幸いモッさんのありようは私にとっては好ましい部類に入る。
容姿とかホモとかもうどうでもええわ。
快楽でつなぐ関係?
馬鹿野郎上等じゃねえかこの野郎お前俺は快楽堕ちして溺愛して人生勝つぞお前!
もう男だった前世とか知るか。前世の妻も知るか!
あ、あとでなんか仕返しはする。ムカつくから。
あわよくば女神も私と同じ境遇に引き摺りこんじゃる。ムカつくから。
覚悟を決めた。
まだ希望はある。
希望のために邪魔なものは捨てた。今捨てた。
なに、簡単なことだ。
人間として好ましいと思ってる相手に快楽ぶち込まれて好意を愛情に全力で誤認してそのまま本物にしてしまえばいいんだ。
ゆっくりと立ち上がり、サフィさんとリバさんの方を見る。
私の目があきらめてない人の目ということをすぐに悟った二人は、私に駆け寄ってくる。
「まだ、策はあるの?」
サフィさんがすがるような目で聞いてくる。
「ある。今から試す。ついでに二人も相方に喝入れよう」
「なにをすればいいの?」
「サフィさん。思い出して?私たちの役割は?」
「勇者の、巫女」
「勇者にセックスで力を与えるのが巫女の役割。そうだろう?じゃあ腑抜けてるグリーン車の連中にやることは?」
私はあえてグリーン車に向けて獲物を見定める猛獣のような目線を流す。
「なぐさめックスを装ってヘタレてる男どもを赤玉出るまで搾り取る」
「正解☆」
二人の回答を待たずに私は一人二役で回答を行う。
おちゃらける私に目を丸くする二人。
私の意図を察したのか、先ほどの暗い表情が少し和らぐ二人。
「そうだね。ウチらは戦えないけど、だからこそこの役割は最後まで放棄しちゃいけないね」
「アタシら巫女の役割、忘れてたわ。こういう時こそ、だね。オーケーオーケー。じゃあ襲いに行きますか」
なんか納得する二人。
まあ特に二人は気合入れる必要はないんだけど。
私だけが覚悟決めるのもムカつくのでグチャグチャ乱交で気を紛らわせようとかそう言うあれです。
まあ私も全力でモッさんに惚れに行くのでその雰囲気作りということでここはひとつ。
二人の行為も参考にしたいしね。
そんな感じで心の中で言い訳をし、私たちは勇者どもの居るグリーン車へ勢いよく突入していった。




