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TS転生するときのパートナー選択で種付けおじさんを選んだら割と幸せ  作者: 九束


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魔王!魔王?あ、魔王だわ

私たちの進む道、あたり一帯は既に廃墟になりつつあった。

モッさんが放ったステハゲビームにより魔王城がある前世クレムリンのエリア以外の建物はすべて崩れ落ちている。

先ほどまでは燃え上がっていた都市外縁も、視線の先の都市中心部も、もうすでに燃えるものすらなくただの瓦礫の丘になりつつある。


モッさんの過剰ダメージにより、敵が文字通り死体ごと消え去っているため建物の惨状に比べてほぼ死体は見えないが、これだけの都市だ、詰めていた魔族は数十万といった数ではないだろう。


そして、そこに閉じ込められていた人々も合わせるといくらになるだろうか。


私は今、そんな、考えても仕方がない方向にあえて思考をそらしていた。


無言で俯く私に他の6人の視線が集まっているのが分かる。

「あの、ヴィーさん大丈夫?すっごい顔色悪いけど」

「…………」

「……ヴィーさん?」

「…………モッさんごめん、もうちょっとで落ち着くから。まって」

ふーと深く息を吐いて、聞いてきたモッさんに何とか返答する。


先ほどの強烈な違和感から落ち着くために思考をずらし、少し落ち着いてきた。

視線を荷台後部で失神中の夢魔族四天王に移す。


簀巻きにされた夢魔はまだ意識がなく、ぐったりしている。

白髪で蝙蝠のような翼、角が生えた美女。

見た目は全然知り合いじゃない。


モッさんたちの攻撃によりHPは既に一桁。

ステータスには瀕死と表示されており、すでに無効化はできている。


コイツ自体にはもう脅威はないだろう。

問題は、こいつを撃破する前にこいつが放った言葉だ。


2Pカラーが確かに聞いた『(かおる)義兄(にい)さん』という言葉。

多分、兄さんではなく、義兄さんといったのだろう。


薫、とは私の前世の名前だ。

この世界でこの名前を知っているのはモッさんだけなはず。


そして前世を含めても私の名前を『薫義兄さん』と呼ぶ存在は一人しかいない。

前世では私に兄弟姉妹はいなかった。


私を義兄さんと呼ぶのは、妻の妹ただ一人。


妻とはだいぶ年が離れていたあの子。

妻とは違い整った容姿をしていて、妻に頭が上がらない様子だったあの子。


いや、仮にあの子だとして、なんで私を認識できる?

少なくとも私はあの子がしゃべった情報を元に推測に推測を重ねてようやく「そう、か?」といった感想しかない。


たけどもあちら側は私を一目見て私が『薫』だと認識していた。

つまり何らかの認識できる情報を持っているということだ。


その上で私に接触しようとしてきたわけだ。

会話する前にモッさんたちに撃破されたけど。


私が思考を続ける間にもトラックは高速で幹線道路を進み、目の前には市内で唯一ステハゲビームを受けても瓦解していない建物――魔王城がそびえたっている。


無骨なコンクリートの城壁の内側に増改築を重ねたようにいろいろな様式の構造物が組み合わさり空高く伸びる塔。

近代要塞と中世の城を混ぜ合わせて魔改造したような見た目のその構造物は、モッさんのステハゲビームの直撃にもびくともせず、黒い霧と赤い光を放ちながら私たちを待っているかのようにそこに鎮座している。



魔王城までは数百メートル。

このままでは突破できなさそうなのでモッさんにスペルマロケットを使用してもらおうとモッさんの方を向く。


「モッさ―――――」

「!?皆様正面から攻撃ですわ!!!」

それは2Pカラーの声で中断され、




コッ―――――――




ドゴアァァアアアアアン!!!




「「「「「「うわああああ!?」」」」」」



マッハ5でも何の衝撃もなかったトラックが何かの直撃を受けて大きく揺さぶられる。

そして元の軌道から大きくそれ、瓦礫の中に突っ込み、横転。


耐久力を超えるスキルをぶつけられたのか淡い光のような残像を残して消えるトラック。

「マジックミラートラックが、消えた?」


あまりの衝撃に頭を押さえながらあたりを見回す。


「!?」

正面の魔王城、その前にある広場、誰かが立っていた。


「間男を一瞬で滅するつもりだったのに、なかなか強いじゃないの」

よくとおる声で私たちに言葉を放つ女性。


消滅したトラックのあった場所からよろよろと立ち上がった私たちの目の前にいるその女性は、深紅のドレスに黒いマントを纏い、角が生え、翼を畳んだ状態でこちらを見つめている。

顔立ちは美しく、ルビーを思わせる真っ赤な瞳が私たちを冷たく射貫く。

胸元を大きく開いたドレスは戦闘服とは程遠いが、モッさんと同じくスキルで戦うタイプなのだろう。

まさにRPGのラスボスといった体だ。


そしてモッさんのスキルを貫通するような攻撃をできる者はこの場に一人しかいない。


「魔王」

すぐに臨戦態勢に移行した私たちはモッさんが先頭に立ち、その後ろでケイさんと翔太さんが私たち巫女を守る構図で魔王に対峙する。


「私と旦那の仮住まいになるはずだった都市をよくもまあ好きに荒らしてくれたわね。愚妹も役に立たないし。困っちゃうわねぇ。ねえ?」

モッさんに話しかけていると思いきや、なぜか途中で私に同意を求める魔王。


何かの策略か?

スキル発動まで時間がかかるとかか?


「ステハゲビーム100%!」

モッさんも同じ考えのようで魔王との問答を行わずにそのままスキルをたたきつける。


両手で光を集中させ、魔王にたたきつけるモッさん。


そのまま光は魔王に一瞬で集約され、

「ちょっと私話してるんだけど?」

魔王に光を蹴られて斜め後方に躱された。


ドガァァァァアァァアアアアアン!!!


バリアーらしきものは解除されていたのか、光が当たって崩壊する魔王城の一角。


「なっ!?」

「モッさんのスキルが、かわされた!?」

初めての事態に驚きの声を上げるケイさんと翔太さん。


それを気にする様子もなく魔王は続ける。


「これだから間男は……浮気現場って認識あるのかしら?」

手を頭に当て、やれやれといった表情をする魔王。


しかし攻撃をする様子はない。

どうやら語り終えるまでは魔王側から攻撃してくる気はないらしい。


一定距離を保ったまま話をつづける魔王にモッさんは種付けプレスをお見舞いするタイミングを見計らう。


「浮気現場?」

私も魔王の隙を見つけるために魔王の問答に付き合うことにした。


私の言葉が何か気に障ったのか、魔王の眉がピクリと動く。

そしてモッさんから私に視線が移される。


……な、なんだ?

なんか猛烈に違和感が襲ってくる。

何か数日前に感じた怖さだ。


「あなた。他のを一通り滅した後は折檻だからね」

目を細めてあきれ顔で言ってくる魔王。

その表情は似ても似つかない人物の姿を思い起こさせる。


「いったい何罪なんだい?生憎と私は魔族の法律には詳しくなくてね」

だんだん早くなる心臓の鼓動を無視して私は魔王との問答を続ける。


私の質問に視線が厳しくなる魔王。

「浮気したら妻に折檻されるのは当たり前でしょう?」


「妻?」

心臓の鼓動がドドドドドドと急にデスメタバンドのドラムみたいな動きをする。


数日前と同じ。恐怖。


科地理かちりとパズルがはまる。

妹を名乗る四天王。初見で私のことを薫と言ったあいつ。


転生者。


女神がこの世界を救うためにこの世界の居放り込んだ存在。

なぜ転生者が勇者だけだと私は思っていた?


当事者の意思の確認さえ確認しない女神がなぜ勇者だけを転生させると無邪気に信じていた?

女神が犯人でないにしても、想像の範囲外のことが起こったのに、なぜ敵に同様のことが起こらないと思っていた?


勇者に転生者がいるんだ。

敵のTOPが転生者でもおかしくない。


おかしいのはそれが知人ということ。


「そうよ。パ・パ★私、言ったわよね?『死がふたりを分かつても、私は貴方を逃がしはしない』って」

魔王の放った言葉に背筋が凍る。


これは魔王の気配に押されているわけではなく、純粋に魂に刻まれた反応。

確か依然、妻の誕生日プレゼントを義妹ちゃんと選んでいた時に浮気と疑われた時と同じ感覚。


あ、これ理屈じゃなく間違いないわ。




「………………ママ?」




前世の妻だこれ。

何ぜ魔王になってるんだとかどうやって来たんだとか突っ込みどころが多すぎるけど間違いなく前世の妻だこれ。

時々魔王みたいだなーって思うことは前世であったが、本当に魔王になっちゃったか―ママ。


私の言葉に、魔王は満足げに満面の笑みになる。

その笑みは本気でブチ切れてる時のそれと同じだった。


「ようやく気付いた。さっさと世界滅ぼして折檻するから覚悟してね、パパ」

そう言って魔王は手を天に掲げる。

100メートル台はあろうかという巨大な赤黒いエネルギーの塊のような球が頭上に形成されているところだった。

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― 新着の感想 ―
新年でも変わらず2Pちゃんがスキです! 展開が良すぎる 今年もよろしくお願いします
明けましておめでとうございます。 こちらは元日から割とホラーみの強い展開で ゾクゾクさせていただいております。 ありがとうございました。
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