種付けおじさんを強要されるモッさん
亜人連合との条約締結後、私たち3人は一人のダークエルフを連れてニザヴェッリル・アーコロジーへ向かい、彼女をそこで下ろした。
移動中にすでにアーコロジーは攻略され、現在はモンスターと化した元住人はいないことを伝えると、彼女は一人だけで最深部まで行くことを私たちに伝えてきた。
モッさんは帰りはどうするのかと聞こうとしたが、私がそれを止めた。
答えは聞くまでもないからだ。
彼女、ヤーラさんは娘が終わったところで、自らの人生も幕引きを図る予定なのだろう。
そうでなければ、わざわざ即決ですべての役職を辞してまで、私たちに頼み込むわけがない。
彼女を送った帰り、帝都に戻るまでの間、私たちはほとんど会話をしなかった。
重い空気がマジックミラー型トラックの中を支配する。
例外は2Pカラーのみ。
役目を果たしたご褒美のモッさんとのセックスに目を輝かせている。
こいつは本当に平常運転だな。
ガワは私と同じ絶世の美少女でも所詮鉄くず由来な訳だし致し方なくはあるが……。
そして帝都に戻った私たち。
そんな鬱一歩手前なモッさんにケイさんが輪をかけて重い話題をぶっこんできた。
「ヴィーさんモッさんお疲れ様。亜人連合との交渉、うまくいったようだね」
私たちが重い雰囲気なのに交渉が成功したと判断しているのは2Pカラーを見たからだろう。
2Pカラーはこの交渉が成功したらモッさんからご褒美に要望のプレイをしてもらえることになっている。
そして2Pカラーは超ご機嫌=交渉は成功した、という見立てだ。
「うん、無事締結完了。やっぱりケイと違って俺には交渉事は無理だわ。大体ヴィーさんがまとめたようなもんだよ」
「まあそれはそうだけど、圧倒的な武力を背景にしたごり押し恫喝だからなぁ……落とし所をどう見つけるかレベルの話だったと思うよ」
実際、明確な理と利を圧倒的な力の元で提示したからこそ、こんな即決で話がまとまったわけで、同じ条件用意してくれないと私が話纏めるのははっきり言って無理。
今回はラッキーヒットみたいなもんだ。
「それで? 何かあったの?」
私はソファに腰掛けながら尋ねた。
明らかにそわそわしてるというかものすごく言いづらい話題を出そうとしている雰囲気がある。
私が察しているのに気付いたケイさんは視線を左右に泳がせた後、ため息をついて答える。
「うん。ちょっと言いづらいんだけど、デコイに関する案件」
「よし、元老院滅ぼすか」
ケイさんの発した単語に、私は即座に首謀者にあたりをつけて決断する。
あのクソボケども痴態を脅迫材料にするだけだと足りなかったか。
もう派兵の許可は出てるんだしモッさんにステハゲビーム使わせて全員観客席に移動してもらうか。
あぁもう元老院議員の内若い女性議員全部デコイにするのもいいな。
どうせあの世に行くなら有効活用しなきゃな。そうしよう。
「ヴィーさんステイステイ!ヴィーさんが想像してる内容じゃたぶんないから!」
そんな算段を高速で回す私を、焦った声でケイさんが止める。
「うん?元老院方面じゃないの?」
「まぁ、ある意味そこに所属している層の話ではあるんだけど」
「とりあえず議員の内、モッさんが好きそうな若い女性議員のリストを――――」
「あぁもう!とりあえずヴィーさんはこれを見て!」
ケイさんは説明を取りやめて私に釣書のような写真と文書の書かれた冊子の束を押し付けてくる。
「……これは?」
ぱらぱら何冊か中身を見てみると、どれも見目麗しい美女。
侯爵や伯爵の正妻または側室であることを示す情報。
その多くはまだ幼いながらも子供のいる人たちがほとんどだった。
「デコイになることを名乗り出た占領地に領地を持つ亡命貴族の未亡人たちの釣書。爵位――領地のある場所を見てくれる?ほとんどが、自分たち転生者が来る直前の大侵攻で失陥した領土の亡命貴族の未亡人たちだよ」
ケイさんの言葉で私は一瞬で現状を理解する。
……元老院が暴走してた方がましだった。
そっちだったらデコイにすることに何の罪悪感もなかったのに。
「え?どういうこと?本人がデコイになることを希望してるって」
「……私の想像が当たっていると、一切救いがない動機になるんだけど」
「聞きたくないけど、教えて。ヴィーさんの予想は?」
頭を抱えながらもモッさんが私に促す。
「ケイさん。この希望者たち。多分娘や息子が領地に取り残されてるでしょう?」
「正解」
ケイさんは苦悶の表情で私の回答が当たっていることを告げる。
今までの話を聞くに、魔王軍は人類領の占領後、人類のように即時で民族浄化とかは人類に比べるとそれほどやってないようだ。
ただ、鬱イベと呼ばれるような残虐行為の限りは行っている。
しかし普通に考えればそんなことをすればそこに住む人類は離散する。
それをやっていないのは統治機構が残っているからだ。
といっても鬱イベの内容を見るに支配層も相当に鬱イベの被害に遭っているようだけど。
とにかく、占領後まだそれほど年月が経っていない以上、領地に取り残された彼女たちの娘や息子はまだ無事な可能性はある。
一刻も早く解放をしたい。
しかし今までは手段がなかった。
少し前にモッさんがデコイを作れることが判明した。
その時点では、まだ反抗作戦の成功率が分からなかったため踏ん切りがつかなかった。
今、圧倒的な力をもって魔王領反攻作戦が可能になったという情報を、貴族である彼女たちは知ってしまった。
自分たちが犠牲になれば、愛しい我が子を助けられる可能性がまだある。
もちろん踏ん切りがつかないものが大半だろう。
しかし、踏ん切りをつけてしまったものも出てきてしまった。
それが、今。
「ケイさん。その未亡人たちはデコイになる手段も、デコイになった後どうなるかも知っててデコイになることを名乗り出たんだよな?」
「うん。デコイ戦術はナレ死した勇者でも使っていた者がいたからね、モッさんと違って無理やり廃人にするやり方だったけど、とにかく貞操を犠牲にして廃人になり、最後に行きつくところは敵との相打ちってところも彼女たちは理解しているよ」
貴族として、親として自らを犠牲にしてでも一刻も早く領地の開放をということか。
私は腕を組んで考える。
モッさんから聞いた原作情報では、モッさんに犯されて使い潰され、アイテム生成後の廃人の最期の使い道がデコイだった。
だまし討ちで現実でそんなことをするのは良心が摩耗する。
断固拒否。倫理的にアウトだ。
だから元老院を脅してでも拒否をした。
でも、本人たちが強く希望する場合は……?
受け入れるべきだ。
私はモッさんに向き直り軽い声で告げる。
「モッさん未亡人好き?」
「ジャンル的には好き!」
うん。性癖的には大丈夫そうだな。
「良かったなモッさん。なんか私と会ってからあんまり種付けおじさんっぽくないと思ってたけど、ようやく種付けおじさんっぽいシチュ回ってきたぞ」
「いや待ってヴィーさん!?デコイ戦略なしって言ったのヴィーさんじゃん!?俺やだよデコイやるの!?」
全力でイヤイヤと首を振るモッさん。
「でも初めは想定以下だった時はデコイも検討に入れてたろ?」
「入れてたけど!でもヴィーさんも良心摩耗させないために絶対嫌だって言ってたじゃないか!どうしたの!?」
「それは同意ない前提だったから。同意ある場合、本人の意思をきっちり確かめてだが受け入れる選択肢もありだと私は思う」
「いや、待ってよ。いくら希望でも、可哀想すぎるだろ。廃人化なんて……。俺は『可哀想は抜けない』派なんだよ!そもそも主目的のアイテムだって生成できないじゃないか」
「それは私ができますわ~~~。巫女デコイには劣りますけどちゃんとアイテムも作れますしデコイ活用も可能ですわよ」
「そうなの!?」
モッさんが驚きの声を上げる。
うん、リバさんサフィさんとあったときになんか知ってそうな風だったから行けそうだとあたりをつけていたが、やっぱり2Pカラーが生成できるみたいだ。
「じゃあアイテムも得れる、本人も強く希望してる、デコイとしての戦線活用も可能。決まりだな」
「あの、俺の性癖的に無理って言いますか」
「お前の性癖はどうでもいいんだよ」
「でも……」
「今の希望者、軽く目を通したけど『可哀そうな人』じゃない。『覚悟してる人』だ」
釣書の中に本人の書簡もあり、そこには誰に強制されたでもない、一刻も早く大切な存在を助けるために自らの命を差し出す覚悟がつづられていた。
それは文章だけでも迫真に迫る内容。
誰かに強制されて書ける文じゃない。
「っ!」
私の言葉にモッさんは言葉を詰まらせる。
そう、この希望者は私たちが想定していた犠牲になる可哀そうな人じゃない。
自分たちの大切な人を自らの命を対価に取り返そうとしてる『覚悟してる人』だ。
そんな人たちの覚悟を、可哀そうな人と同様のカテゴリーに入れるのは、傲慢じゃないか?
「そういうわけで、モッさんの性癖とかはどうでもいいから、本人と面談後、覚悟してる人はマジチンで犯りつぶして」
「こんな、こんな思いをするために種付けおじさんになったわけじゃないのに……!!!!!もっとこう、種付けおじさんって『ぐへへセックスだー!』って感じじゃないの???なんでこんな思いのセックスを俺が強要される側なの????こんなのってないよ……おかしいよ!!」
モッさんが叫びながら膝から崩れ落ちる。
うん、まぁ。言いたいことはわかる。
でも役目だからな。
受け入れてくれ。すまない。




