亜人さん!私たち勇者と巫女の安全を保障して!
「それで、改めてそちらのカードを提示してもらおうか」
私たちを建物内のひときわ大きな会議室に案内し、このアーコロジーの要職らしきエルフやオークの数名が参加した上で仕切りなおしたダークエルフの女性、ヤーラ・レ・ヤクはそう切り出した。
「その前に、この会談の出席者が亜人連合の意思決定権を有しているかの確認をしたい」
「……では名乗ろう。私はダークエルフ族、ヤーラ・レ・ヤク旧大陸州知事。ルテティア・アーコロジー総管理責任者」
「オーク族、モ=ブ・エー陸軍中将。統合作戦本部長。旧大陸の軍最高司令官だ」
「エルフ族、和キャーク高等弁務官。旧大陸州と本国の連絡官をしている。事実上の本国全権と考えてもらって構わない」
亜人側のそれぞれが名乗りを上げる。
私は2Pカラーの方を向き、それぞれの身分に権限者の該当があるかを確認する。
「オークの方は兵器製造管理者権限、エルフの方には新大陸側の輸送管理者権限がありますわね。アカウントの役職も名乗りと相違ありませんわ」
どうやら虚偽ではなくちゃんと全権を代理できる人物を出してきたようだ。
私はモッさんに目配せをする。
「では、改めて人類統一帝国に所属する勇者を代表しキーモ・デ=ブーデスが要求する。内容は亜人連合と人類統一帝国との不可侵条約の締結。不可侵条約は双方の合意以外での破棄ができず、亜人連合が現在人類が次項支配している領域へ侵攻しない限り、人類及び勇者は亜人連合を滅ぼさない」
モッさんは改めて人類側の要求を告げる。
ヤーラはテーブルの上において手を固く握り憤怒の表情でこちらを見ている。
「我々のメリットは?」
それを制止するようにキャークと名乗ったオーク男性が聞いてくる。
「先ほど俺の巫女、オリヴィア・ナント=ホールが言ったように我々は貴国のアーコロジー住民全てを滅ぼせる手段を有している。条約が締結された場合、我々もその行使を制限される」
「バカな、ブラフだ」
「いえ……それは事実よ。巫女ナント=ホールと瓜二つの姿のもう一人、2Pカラーと名乗るそいつが我々の都市の特権管理者なのでしょう」
信じられないといったオークの言葉をヤーラが否定する。
彼女はこの都市の中では最高権限のアカウントを保有しているということだ。2Pカラーことも知っているのだろう。
「なんということだ……つまりは貴様らの手中に我々の都市居住民の生命が乗っているということか」
オークの軍人が頭を抱えてしまう。
まあうん。いきなり生殺与奪を本当に握られてると知ればそうなると思う。
「そういう事だ。我々は即時の回答を望んでいる。どうだろうか?」
そこにかぶせるようにモッさんは亜人側に迫る。
「もし連合内の外交交渉だったらのならば一も二もなく飲んでるでしょうね。ほかに選択肢がないもの」
気の抜けた声で感想を述べるエルフ。
「では」「でもね」
「不可侵条約を受け入れることはできないわ」
「なんで……!?」
「~~~♪」
「2Pカラーステイ」
ニッコニコ顔で立ち上がった2Pカラーを制止し、私は信じられないという顔のモッさんの代わりに亜人側に問いかける。
「……信用ができないから、ですね?」
「よくわかってるじゃない」
「人類に対して強い恨みを持っているであろう知事にしても、それほどでもなさそうな高等弁務官殿にしても、感情よりもキチンと理性を優先させる施政者だと私は分析していました」
「それは良い評価を貰えて光栄ね」
「その上で、我々が生殺与奪を握った上での要求に対しての拒否回答。その真意は―――」
「「どうせ条約を締結したところで、人類側の好きなタイミングで使うのだろう?」」
私とヤーラの声が被る。
それを見てあきらめの表情を浮かべるエルフと頭を抱えたまま動かないオーク。
モッさんの方は呆然としたまま。
そう、人類はやりすぎたのだ。
信用というものが一切使えないほどに。
事実元老院側はスグ使えと迫ってきたしな。
「そういうわけだ。今使われるか、人類が魔王軍を退けた後に使うか、はたまた魔王軍に敗退した人類が避難先とするために使うか。いずれにしても貴様らのその武器は近い将来使う未来しか我々には見えない。で、あれば貴様らがそれを保有しているとわかった時点で報復能力が残っているうちに力を行使する」
冷静な声でエルフが我々に告げる。
そう。人類が使わない保証は確かにない。
だが、それは『人類が』使わない保証がないだけである。
「つまりは、貴殿らが納得できる『条約の有効性が担保され続ける限り都市管理者権限の行使による攻撃行為』が行われない担保があるのであれば、条約の締結はやぶさかではないと?」
「そうだが、そんな条件があるわけが」
「あぁ、言い忘れていましたが、貴国のアーコロジー管理者権限を保有しているこの2Pカラー。元はニザヴェッリル・アーコロジーの管理システムであり、勇者キーモ・デ=ブーデスのスキルにより、私の遺伝子情報を元に受肉した存在となります。いわば貴国の管理者権限を有しているのは勇者側の人物となります」
私の言葉にエルフとヤーラがピクリと眉を動かす。
「魔王軍に負けた場合はともかく、魔王軍に勝利した際、我々勇者と巫女の安全を保障するのはこの条約――ひいては貴国になると私は考えている。これは、この条約に対して実行力を持たせる根拠にはなりませんか?」
「勝利した際に貴様ら勇者と巫女の安全を我が国が保証する存在になるだと?それはどういうことだ?」
安全保障上の話題になった事でオークの軍人が興味を示してきた。
そう、今回の交渉、迅速な締結のために元老院側の同行を一切許さずにそのまんますっ飛んできた理由はこの交渉を勇者・巫女と亜人連合との交渉に持ってきたかったからだ。
「考えるまでもないでしょう。人類統一帝国の上層部側に立って考えてください。魔王軍を退け、亜人連合を滅ぼした人類。すでに脅威は去り、次の季節は?」
「……政治闘争だろうな」
私の問いにヤーラが答える。
「ご名答。私たちは戦略兵器だけど、別に政治的に強い立場じゃないわけです」
そうだ。
勇者が魔王を倒し、敵対する蛮族も滅ぼし、めでたしめでたし。
おとぎばなしならばそのまま勇者は幸せに暮らしましたでハッピーエンドだけど、現実はそうもいかない。
ハッピーエンドのあとも物語は続くのだ。
そしてハッピーエンドのあと、国の上層部から見た勇者と巫女の立場を見てみよう。
悪を滅ぼして自ら以上に民衆の支持を集め、強大な力を持つ少数。
そうだね、脅威だね。
排除したくてたまらないね。
一応ケイさんという政治担当や翔太さんという経済担当がいるにしても多勢に無勢、政治的には長期で見ると劣勢に立たざるを得ない。
そして最終的には排斥される未来があるだろう。
え?共存共栄できる未来?
微粒子レベルで存在してるかもしれないけど私そこまでこの世界の人類の民度信じきれないわ。
なんなら推定味方になるだろう民衆だって元老院とかに煽られてこっちに石投げてくるんじゃない?くらい思ってる。
最悪周りを人質にとられたらじり貧になるビジョンしかない。
じゃあどうするか?
そうだね、適度に敵対的で絶対自分たちからは人類と緊張緩和しない丁度良い存在が近くにいるね。
「そんなわけで、人類が色気を出しても我々実行者たる勇者と巫女の死刑執行書になる条約やぶりは私たち勇者と巫女は認めない。これは相互牽制体制として機能するのでは?」
私たちぃ~勇者と巫女ぉ~勝っちゃうと粛清されかねないからそういうのは拒否するんでプロレスしつづけなーい?
というのが本命の交渉だ。
「我らを滅ぼせは勇者と巫女が次の人類の敵になり、我らを滅ぼせるのは勇者と巫女だけということ、か。そして勇者と巫女がいなくなってしまえば人類は単体で我らと対峙しなければならなくなるため我らが手を出さない限りは人類は勇者と巫女を排斥できない、ということか」
「もちろん、我々は人類側にいる際はあくまで人道的な観点から大義名分のない先制攻撃を行えないという立場を崩しませんが、実質としては3者がいるうちは成立する相互牽制体制になりませんか?」
「人類が単体で我話に侵攻してきた際は?」
「無視します。場合によっては妨害します。非殺傷のスキルも我々は保有しているので」
こちらをにらみつけながら問いを放つヤーラに対し、私は理路整然と返答する。
そして私の回答を聞いているもう二人のキーマン。エルフの高等弁務官とオークの軍人に視線を向ける。
「軍としては相互牽制体制は成立しているように思える。妥協は可能だと思う」
「……高等弁務官として勇者に要求します。秘密文書でも構いません。勇者側の約束として文書を残すことは?」
「モッさん」
「あ、うん。ヴィー……じゃなかった。オリヴィア・ナント=ホールの述べた内容を勇者代表として文書に残しても構わない」
「で、あれば高等弁務官権限で条約締結には同意できます」
3人の亜人側責任者の内、2人は同意した。
あとは……。
ダークエルフの知事、ヤーラに私たちと亜人側出席者の視線が集まる。
私をまっすぐ見つめていたヤーラは視線を机に落とし、手を震えるほどに強く握りしめ……数秒経った後にゆっくりと息を吐いた後に私の横にいるモッさんをまっすぐと見つめて言った。
「一つ……一つだけ条件があります」
「どうぞ。勇者として条件を吟味します」
「条約締結後、私はすべての職を辞し、遺族代表としてニザヴェッリル・アーコロジー最終災害回避施設を訪問したい。しかしながら、我々亜人連合は貴国と国交を締結するつもりはない。故に、勇者へ要求します。私をニザヴェッリル・アーコロジー最終災害回避施設、娘の最期の地へ連れてって」




