恫喝外交は最初が肝心
「あー懐かしのパリ・アーコロジー到着ですわー。とりあえず都市区画に一酸化炭素の散布でよろしくて?」
「よろしくないわスットコドッコイ!」
「交渉に来たんだからね?お願いだから俺が言うまで都市機能には何もしないで!?」
「了解ですわ~~~わたくし、管理者様の意に沿わないことはやりませんもの。ご安心くださいませ!」
殺意マシマシな2Pカラーをたしなめつつマジックミラー付きトラックの荷台から降りる。
キ=タナイ地下廃都市遺跡ダンジョンとは異なりタワー型のアーコロジーのルテティア・アーコロジーの最上部。
どこか宮殿を思わせる広場を持つ階層にマジックミラー付きトラックで横付け(広場にめり込んでいるが)した私たちはおそらく庁舎と思われる宮殿の方を向く。
今回は私とモッさんと2Pカラーによる短期交渉だ。
宮殿のエントランスからは複数の護衛に守られたダークエルフの女性が息を切らせながらこちらをにらんでいた。
その容姿は、どこかキ=タナイ地下廃都市遺跡ダンジョンの第三階層で2Pカラーに一方的にボコられていたダンジョンボスの容姿にそっくり。
「あの女、多分わたくしが排除したわたくしのダンジョンの不法滞在者の頭目の近親者みたいですわ」
私の疑問に答えるかのように私に耳打ちをして衝撃の情報を開示してくる2Pカラー。
いやなんでお前それ分かるの?
「わたくし、都市管理権限を持っている者のステータスをみることができますの。あの女の名前はヤーラ・レ・ヤク。わたくしのアーコロジーに居た当目の名はハ・ヤク。氏族名はヤクのようですわ。戸籍データ上は母娘のようですわね」
「一番私たちに絶許な人じゃん……」
「そうなのですか?」
うん、2Pカラーはそういう人間の機微まだ理解できないんだったね。
だって人類が民族浄化した都市の責任者が目の前のダークエルフの娘で、多分ここに代表っぽい雰囲気で出てきてるってことはあの人相当えらい立場でしょ?
交渉……できるか?
「我らの神聖な居住地に許可なく侵入した人類よ!!名と目的を名乗れ!!!」
拡声器を持っているのだろうか。
大音量でこちらに対して問いかけてくるダークエルフ。
「俺は人類の勇者、キーモ・デ=ブーデス伯爵!!後ろに控えるは我が巫女オリヴィア・ナント=ホール子爵夫人並びに2Pカラー!人類統一帝国の使者として参った!!!目的は亜人連合との不可侵条約の締結!!!」
モッさんが一歩前に歩み出て大声で口上を述べる。
素で拡声器並みの大声が出てる。すげえな。
身体がでかいからそれでスピーカー代わりになってんのか?
その口上の内容は当然相手側にとって受け入れがたいもののようで、護衛のダークエルフ・エルフ・オークの混成兵たちが一斉に武器を構える。
代表のダークエルフ。
2Pカラーがヤーラ・レ・ヤクといった女性がそれを制止した。
しかし当然のごとく、彼女の目にも恨み満載の意思が宿っている。
それはそうだ、私たち人類は彼女にとって娘の直接の仇なのだ。
私たち関係ないのにとは思うが彼女にとってはそんな情報は知らないし、まあ当然と言ったら当然。
「人類の使者?不可侵条約?……ふざけるな!」
モッさんの口上に怒りを爆発させるヤーラ。
「お前たち人類が今頃になって不可侵だと!?ニザヴェッリルを滅ぼし、だまし討ちで我らが大地を奪い!娘を殺したお前らと、条約など締結できるものか!!次はどんなだまし討ちをするつもりだ!?騙されんぞ!!」
一言で言うと信用できないということだろう。
ごもっともな言い分だ。
しかしそれは想定通り。
モッさんに目配せをして私に交渉人交代の合図をする。
私はゆっくりと前に歩み始め、私の声が相手に聞こえるであろう近さまで距離を詰める。
両手でスカートをつかみ、何もしないという意思表示をしながらの接近に、ヤーラは兵士たちの制止を続けてくれた。
私の後ろに2Pカラーも続く。
距離はおよそ30メートルだろうか。声を張り上げれば聞こえる距離まで近づいた私は息を吸い込んで声を張り上げる。
「交渉の席にはつかないということか!」
「そう言っている!!!早急に立ち去れ」
「我らが何の材料も持たずにここに現れたと、そう思うのか!」
「何を持っている!言ってみろ!」
「この交渉が破断した場合、私たちは貴国のすべてのアーコロジーの住民を1時間以内に滅ぼす準備がある!!」
「な!?」「ちょっとヴィーさん!?」
私の宣言に驚きの声を上げるヤーラ。
周りの兵士にも動揺が走る。
それはそうだ。彼ら視点だと人類はあらゆる悪逆な手口を保有してる災害なのだ。
実績がある以上、やるといえばやる。
やりかねない。負の実績がある。
そしてヤーラの声と同時に私の後ろでも驚きの声。
そう、またしても何も知らないモッさんだね。
モッさん交渉が苦手みたいなので、私がやるとは言ったけど、内容はその場の雰囲気で臨機応変にってぼかしたから知らないんだよね。
だって初手これカードにするって言ったら難色示しそうだったから。
多分モッさんの中では一部の権限停止(即死ではなく徐々に崩壊する手段を持っているぞ)とかのカードを見せた後に、相手の出方によって徐々にカードを開示していく方針だったのだろう。
すくなくとも初手「断ったら即時民族浄化するぞ」は考えていなかったと思う。
考えがちょっと甘いよモッさん。
戦略兵器カードは使って楽しいおもちゃじゃないけど、みせびらかさないと意味のないおもちゃなんだよ?




