【番外編】文官子息が見た、天使と仲間たちのこと
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俺の名前は、フェリックス・フォン・ブラウン。アルセリオス王国の伯爵家、ブラウン家の次男坊だ。
伯爵家、なんて言うと、ものすごい金持ちで、広大な領地を持っていて、城みたいな屋敷に住んでいる……なんて想像する奴もいるかもしれないが、うちは違う。
ブラウン家は、いわゆる「領地なし」の貴族だ。代々、王家にお仕えする文官として、王都で真面目に働いている家系だ。父上も、そのまた父上も、王宮の奥まった部屋で書類と格闘し、国の運営を支える歯車の一つとして働いている。
だから、うちは金持ちでもなければ、城も持っていない。王都にある屋敷だって、まあ、そこそこ立派だけど、公爵家なんかと比べたら犬小屋みたいなもんだ。
そんなブラウン家の家族構成は、なかなかに賑やかだ。まず、真面目を絵に描いたような父上と母上。そして、俺を含めて五人の兄弟がいる。
一番上は、兄貴。長男だから、当然家を継ぐ。今は父上の下で文官見習いとして必死に働いている。真面目で優秀だけど、ちょっと胃が弱そうなのが玉に瑕だ。
二番目は、姉上のソフィア。こいつがまた、気が強い。すでに嫁いで家にはいないが、嫁ぎ先も同じく領地なしの子爵家、ミラー家だ。旦那さんは優しそうな文官で、姉上の尻に敷かれているのが目に見えるようだ。
で、三番目が俺、フェリックス。
その下に、まだ小さい双子の弟と妹がいる。こいつらがまた、ギャーギャーとうるさい盛りで、家の中はいつだって戦場みたいだ。
次男である俺の立場は、なかなかに微妙だ。家は兄貴が継ぐ。姉上は嫁いだ。下の双子はまだ手がかかる。
じゃあ俺は? 貴族の次男坊ってのは、基本的に「余り者」だ。自分で身を立てなきゃいけない。どこかの貴族の家の娘婿に入って家を継ぐか、自分で功績を上げて新たな爵位をもらうか、あるいは……平民になるか。
父上は「お前も文官になれば、王宮での仕事は斡旋してやるぞ」と言ってくれるが、俺はどうも、あの薄暗い部屋で一日中書類と睨めっこする自分を想像できない。
どちらかと言えば、体を動かす方が好きだ。剣の腕も、まあ悪くないと思う。だから、騎士団に入って武功を立てるってのも悪くないな、なんて思っている。
ーー文官か、騎士か。
まあ、正直なところ、まだ決めかねている。俺は深く考えるのが苦手なんだよなー。
「なんとかなるだろ」が口癖で、父上には
「お前はもう少し将来を深刻に考えろ」
とよく説教される。
そんな俺が、ロドエル魔導学院に入学して、半年が過ぎた。
そこで俺は、とんでもない連中と出会った。
第二王子エリアス様、ヴォルフェン公爵令嬢ベアトリクス様、グレイスフィールド侯爵家三男レオン、そしてその侍女のルチア。
身分も性格もバラバラな俺たちが、なぜか「チーム」なんて組んで、いつも一緒にいる。 今日は、そんな俺の愉快で、最高に変わった仲間たちの話をしようと思う。
◇
まずは、このチームの中心人物……というか、台風の目みたいな存在、レオン・フォン・グレイスフィールドについてだ。
あいつの第一印象は、そりゃあもう強烈だった。入学式の時、馬車から降りてきたあいつを見た瞬間、俺も含めて全校生徒が固まったからな。 透き通るようなピンクブロンドの髪に、宝石みたいな蒼い瞳。肌は雪みたいに白くて、とにかく「可愛い」。男だって分かっていても、思わず守ってやりたくなるような、そんな天使みたいな見た目をしている。
正直、最初は「こりゃあ、甘やかされて育った典型的なお坊ちゃまだな」って思ったよ。何もできなくて、すぐに泣いて、周りに助けを求めるような、そんな軟弱な奴だと……
ーーでも、俺の予想は、見事に裏切られた。
あいつは、中身が全然「子供」じゃないんだよな。いや、子供らしいところもあるんだけど、なんていうか……妙に落ち着いているというか、達観しているというか。
まるで、日向ぼっこをしているおばあちゃんみたいな雰囲気を纏っているんだよ。
俺とベアトリクス様が、研究テーマのことで言い合いになった時。
「俺はド派手な魔法がいいって言ってるだろ!」
「野蛮ですわ! もっと格式高いものになさい!」
お互いに譲らなくて、空気が最悪になった時だ。
レオンは、オロオロするわけでも、泣き出すわけでもなく、ただニコニコと笑って、懐からアメ玉を取り出したんだ。
「はい、休憩にアメちゃんどうぞ。甘いものを食べると、イライラも治まるよ」
その時のあいつの顔、忘れられないな。
昔、俺が家で悪戯をして、母上にこっぴどく叱られたことがあった。しょんぼりして庭の隅に座っていた俺に、今は亡きばあちゃんが、そっとお菓子を差し出してくれた時の顔。
「フェリックス、元気をお出し。失敗は誰にでもあることだよ」
しわくちゃの手で頭を撫でてくれた、あの温かさ。
レオンの笑顔には、それと同じ種類の、不思議な包容力があったんだ。俺とベアトリクス様は、毒気を抜かれたみたいになって、素直にアメを受け取った。舐めてみたら、イチゴ味で凄く美味くてさ。気づいたら、喧嘩なんてどうでもよくなってた。
あいつは、ただ可愛いだけじゃない。周りのことをすごく良く見ていて、誰かが困っていたら、自然に手を差し伸べることができる。「寄せ植え」の話をしてくれた時もそうだ。俺の「攻撃性」も、ベアトリクス様の「規律」も、どっちも否定せずに、「みんな違って、みんないい」ってまとめてくれた。
あんなこと、普通の9歳児が言えるか?
レオンは、本当に不思議な奴だ。見た目は天使、中身はお婆ちゃん。でも、間違いなく、最高にいい奴だ。
◇
次は、エリアス・フォン・アルセリオス殿下。この国の第二王子だ。
本来なら、俺みたいな下級貴族が、気安く「友達」なんて呼べる相手じゃない。
でも、エリアス殿下は、王族特有の威圧感みたいなものが全くない。
なんていうか、いつも自信なさげに眉を下げて、おどおどしていて、誰かの後ろに隠れようとする。俺から見た殿下の印象は、「雨の日に捨てられた子犬」だ。
入学当初、周りからは「出涸らし王子」なんて陰口を叩かれていた。完璧超人の第一王子ジークハルト様と比べられて、萎縮しちゃってたんだろうな。
ある日の放課後、図書室の隅で、殿下が一人で本を読んでいるのを見かけたことがあった。
俺が声をかけようとしたら、上級生たちが通りかかって、わざと殿下にぶつかったんだ。殿下が持っていた本が床に落ちた。
「あ、すいませーん。気づきませんでしたよ、影が薄いもので」
なんて、嫌味なことを言って去っていく上級生たち。あいつら、王太子派だからか、エリアスに対する当たりが強いんだよな。
でも、殿下は、何も言い返さずに、震える手で本を拾おうとしていた。その背中が、あまりにも小さくて、寂しそうで。
俺は思わず駆け寄って、一緒に本を拾った。
「よお、エリアス! こんなとこにいたのか! 探したぜ!」
わざと明るく声をかけたら、殿下はびっくりした顔をして、それから、ほっとしたように笑ったんだ。
「あ、ありがとう、フェリックス君……」
その笑顔を見たら、守ってやりてえな、って本気で思ったよ。
殿下は、弱虫じゃない。ただ、優しすぎるんだ。争いを好まなくて、自分が我慢すればいいって思ってる。でも、最近はレオンのおかげか、少しずつ自信を持てるようになってきたみたいだ。 七不思議の研究でも、
「僕、古代語の文献なら読めるから」
って、自分から役割を買って出た時は、俺まで嬉しくなっちまったよ。エリアスは、これからもっと強くなれる。俺はそう信じてる。
◇
それから、ベアトリクス・フォン・ヴォルフェン様。公爵家の令嬢で、エリアス殿下の婚約者だ。
最初は、「ザ・貴族のお嬢様」って感じで、正直苦手だった。いつも扇子で口元を隠して、「規律」だの「伝統」だのってうるさいし、俺のやることなすことに
「野蛮ですわ!」
って噛み付いてくる。顔はめちゃくちゃ綺麗なんだけど、近寄りがたいオーラが凄かったんだ。
でも、チームを組んで一緒に過ごすうちに、印象が変わってきた。
あいつ、根はすごく真面目で、正義感が強いんだ。
俺が廊下を走って先生に怒られた時も、
「フェリックス、あなたはチームの一員なのですから、恥ずかしい真似はしないでくださいまし!」
って小言を言ってきたけど、その後にこっそり、
「先生にはわたくしから説明しておきましたから、処分はありませんわ」
ってフォローしてくれたことがあった。
ーーなんだよ、いい奴じゃねえか。
それに、エリアス殿下のことを、本気で大事に思ってる。
最初は、王家と公爵家の政略結婚だから、義務感で一緒にいるだけかと思ってた。でも、殿下が元気がない時は、誰よりも心配そうな顔をしてるし、殿下が笑うと、自分も嬉しそうにしてる。扇子で隠してるけど、耳が赤くなってるからバレバレだ。
素直じゃないんだよな、あいつは。
まあ、俺とは相性が悪いのか、未だに顔を合わせれば言い合いになるけど、それも最近は一種のコミュニケーションみたいになってきた。
「脳筋!」
「堅物!」
なんて、言い合える相手がいるってのも、悪くないもんだ。
◇
最後は、ルチア。レオンの家のメイドで、特例で学院に通ってる平民の女の子だ。
最初は、貴族だらけのクラスの中で、いつもビクビクしていて、見ていて危なっかしかった。自己紹介で噛みまくって泣きそうになってた時は、思わず声をかけちまったよ。
でも、彼女は強い。
レオンのためなら、どんなことでも頑張れるっていう、芯の強さがある。
ベアトリクス様が
「お茶の温度が違いますわ」
なんて厳しく言っても、めげずに
「申し訳ありません!次は完璧にします!」
って、必死に食らいついていく。その健気さには、頭が下がるよ。
それに、根が明るくて、面白い奴だ。
この前も、魔法の実験で失敗して、顔中煤だらけになったのに、
「アフロヘアになっちゃいましたー!」
って笑ってた。あんな風に笑える子は、貴族の令嬢にはなかなかいない。
俺にも姉がいるけど、ルチアを見てると、「うちの姉貴も、こんな子だったら良かったのになあ」って、しみじみ思うことがある。
俺の姉上は、まあ、典型的な「姉」ってやつだ。
家にいた頃は、
「フェリックス、肩揉んで」
「フェリックス、買い物行ってきて」
「フェリックス、私のドレス褒めなさい」
って、俺のことを便利な下僕か何かだと思ってたんじゃないかってくらい、こき使われたもんだ。
口答えしようものなら、
「あんた、お姉様に向かってそんな態度とっていいと思ってんの!あぁ?!」
と恫喝された……。
それに比べて、ルチアはどうだ。 レオンのことを「レオン様!」って慕って、甲斐甲斐しく世話をして、レオンが笑えば自分も幸せそうにする。
ーーああ、癒される。
俺も、あんな風に慕われてみたいもんだぜ。まあ、俺にはレオンみたいなカリスマ性はないから、無理だろうけどな。
◇
そんな五人で、俺たちは、夏休みを過ごすことになる。
普通なら、夏休みは実家に帰るもんだ。俺も、本当なら王都の狭い屋敷に帰って、双子の弟妹の面倒を見たり、父上の小言を聞いたりして過ごすはずだった。
でも今年は、「七不思議の研究をする」って名目で、学院に残ることになった。実家に帰らなくていいってだけで最高なのに、このメンバーと一緒だ。毎日、学院中を探検して、馬鹿やって、笑い合って……絶対に、楽しい夏休みになるに違いない!
レオンが
「みんなで協力すれば、きっと面白い研究になると思うよ」
って言ってたけど、本当にその通りだと思う。
俺の力、ベアトリクスの知識、エリアスの古代語、ルチアの努力、そしてレオンの発想力。これらが組み合わさったら、どんな凄いことができるのか、ワクワクして夜も眠れないくらいだ。
将来、騎士になるか文官になるか、まだ迷ってるけど、今はとにかく、この仲間たちと一緒にいたい。この夏、俺たちはきっと、何かデカイことを成し遂げる気がするんだ。
あー、この夏休みが楽しみで仕方がない!俺らが力を合わせたら、なんでも出来るような気がするぜ!
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