天使様、寄せ植えの理でチームを導く
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季節はクリュオス月も終わり。
入学して、はや、3ヶ月。新入生たちの間にも少しずつ余裕が生まれ始めた頃、初等部一年生の教室にある「爆弾」が投下された。
「諸君、静粛に。本日、初等部1年の長期課題を発表する」
教壇に立った初等部の教師が、羊皮紙の束を広げて告げる。
「約半年の期間をかけ、魔法に関する独自の『研究発表』を行ってもらう。これはチーム制だ。5〜6人でチームを組んでもらう。年度末に、全校生徒と保護者の前で成果を披露し、優秀なチームには特別な魔導具や奨学金が授与される」
教室内が騒然となる。貴族の子弟にとって、この研究発表は己の才覚と人脈を誇示する絶好の機会だ。
レオンは、その喧騒をどこか他人事のように眺めていた。
(研究発表か……。和江おばあちゃんも、孫たちの夏休みの自由工作を手伝ってたなぁ。)
そんなことをボーッと考えていたレオンの周りに、自然とメンバーが集まってきた。
「レオン、僕……君と同じチームがいいな。いい、かな?」
隣の席の第二王子エリアスが、おずおずとレオンの袖を引く。
「もちろん、エリアス!一緒に頑張りましょう」
「よっしゃ!レオン、俺も入れてくれよな!面白そうなこと、ぶちかまそうぜ!」
フェリックスが元気よく、レオンの席に飛び込んできた。
「レ、レオン様、私も精一杯お支えいたします!」
フェリクスに続いて、後方から駆け寄ってきたのは、メイド兼生徒のルチアだ。
そして、最後の一人。
「……仕方がありませんわね。わたくしがいないと、あなたたちだけでは規律が乱れる一方でしょうから。お付き合いいたしますわ」
ヴォルフェン公爵家の令嬢、ベアトリクスが扇子で口元を隠しながら、ツンとした態度で加わった。
こうして、エリアス、フェリックス、ベアトリクス、ルチア、そしてレオンという、王族・大貴族・平民・文官貴族が入り混じった、ある意味で学院一「濃い」チームが結成されたのである。
◇
放課後。
中庭の樫の木の木陰に集まった五人は、さっそく研究テーマを決めるための会議を始めた。
ーーしかし、議論は開始早々に暗礁に乗り上げる
「俺は、ド派手な攻撃魔法を研究したいぜ!火球を十個同時に飛ばす方法とか、爆発の威力を倍にする術式とかさ!やっぱり魔法は強くてカッコよくねーとな!」
フェリックスが拳を振り回して熱弁を振るう。
「却下ですわ!」
ベアトリクスがぴしゃりと撥ね退けた。
「そのような野蛮な力業は研究とは呼びません。わたくしたち公爵家と王家が名を連ねるチームなのです。もっと伝統的で、格式高い……例えば、古代の防御結界の再構築や、王宮儀礼魔法の歴史的考察など、品位あるテーマを選ぶべきですわ!」
「えー、そんなの退屈だろ! もっとワクワクするやつがいいって!」
「規律と伝統こそが、魔導の真髄です!ブラウン家の三男には理解できませんの!?」
「なんだとー!?ベアトリクスは、男のロマンとか理解できないのな!」
「なんですって?!わたくしが、男心がわからないとでも言いたいのですか!!」
フェリックスの猪突猛進さと、ベアトリクスの鉄壁のプライドが真っ向から衝突する。
「あ、あの……お二人とも、あまり大きな声を出すと目立ちますよ……」
ルチアがオロオロと二人を宥めようとするが、全く耳に入っていない。
「…………」
エリアスは、言い争う二人を交互に見て、どうにか仲裁しようと口を開きかけるが、勇気が出ずに「もごもご」と唇を震わせるだけだった。
その光景を、レオンはベンチに座って、ニコニコと眺めていた。
「フェリックス、ベアトリクス様。ちょっといいですか?」
レオンが、鈴を転がすような優しい声で割って入る。
その瞬間、火花を散らしていた二人の動きが、ピタリと止まる。
「レ、レオン……」
「な、何かしら、レオン様……」
二人は、可愛らしいのにただならぬ、そう、なんだか『怒られるんだろうなー、なんか逆らえないよなー』という気配を感じ、警戒とちょっと子供っぽかったことへの羞恥をMAXにして、レオンの次の言葉を待つ。
レオンは、足元の地面に自生している小さな花たちを指差した。
「ほら、あそこのお花を見てください。真っ赤な薔薇も綺麗ですが、その足元に咲いている小さなパンジーや、清楚なマーガレットがあるから、お庭全体が美しく見えると思いませんか?」
「え……? まあ、それは……そうですけれど」
ベアトリクスが戸惑いながら頷く。
「お花も人も、同じなんです。以前、リリアン侯爵領でお花屋さんを手伝った時に教わったのですが、『寄せ植え』という考え方があります」
レオンは、かつて花の精霊たちを仲裁した時のことを思い出しながら語り始めた。
「背の高い薔薇は中心で全体を引き締める。色とりどりのパンジーは華やかさを添える。マーガレットはみんなを優しく包み込む。それぞれが自分勝手に咲き誇るんじゃなくて、お互いの色を引き立て合うことで、一つの鉢の中に『最高の美しさ』が生まれるんです」
レオンは立ち上がり、四人の顔を一人ずつ、慈愛に満ちた蒼い瞳で見つめた。
「フェリックス君の『ワクワクする力』。ベアトリクス様の『気高い規律』。ルチアの『ひたむきな努力』。エリアス殿下の『深い思慮』。どれか一つが欠けても、最高の研究にはなりません。みんなで一緒に、自分たちだけの『寄せ植え』を完成させましょうよ。きっと、一人で考えるよりずっと面白い魔法が見つかるはずです」
――静寂。
中庭に、春の風がさわさわと吹き抜ける。
フェリックスは、ポカンと口を開けてレオンを見つめていた。
(なんだよ……。ただの美少年だと思ってたけど、今の言葉……めちゃくちゃ……おばあちゃんじゃね!?)
ベアトリクスは、扇子で赤くなった顔を隠した。
(お互いの色を引き立て合う……。わたくしの規律を、否定するのではなく、必要な『色』だと言ってくださるなんて……。なんて器の大きなお方なの……!)
ルチアは感動で目を潤ませ、エリアスは「レオン……」と、その言葉を宝物のように心に刻んでいた。
レオン自身は、「ちょっと良いこと言っちゃったかな?」と照れ隠しに、制服のポケットからキラキラした飴玉を取り出した。
「はい、会議の休憩にアメちゃんどうぞ。これ、母様が作ったイチゴ味なんですよ」
その、あまりにも「おばあちゃん的」な自然な流れに、先ほどまで張り詰めていた空気は一気に氷解した。
「……レオン様がそこまで言うなら、折れてあげてもよろしくてよ、フェリックス。例えば、あなたの『攻撃性』を、わたくしの『防御陣』で制御する理論……。組み合わせれば、画期的な『安全な魔法訓練システム』の研究になるかもしれませんわ」
「おっ、それ面白そうじゃん! ベアトリクス、いいこと言うな!」
「様を付けなさい、様を!」
「はいはい。よし、ルチアもエリアスも、アイディア出そうぜ!」
「は、はい! 私、資料集め頑張ります!」
「僕も……古代語の文献から、テーマを探してみるよ」
さっきまでの対立が嘘のように、五人の心は一つにまとまった。
レオンは、賑やかに議論を始めた四人を見守りながら、心の中で満足げに頷く。
(うんうん、みんな仲良くするのが一番だね!)
天使様の無自覚な教育的指導によって、学院の歴史に残る「伝説の研究」が、今ここに本格始動したのである。
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