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天使様、三つ巴の守護者競争に巻き込まれる

読んでいただきありがとうございます!更新日は火・金・日予定です♩

 ロドエル魔導学院の初等部校舎。


 春の陽光が降り注ぐ中庭の特等席――大きな樫の木の木陰には、今日も賑やかな顔ぶれが集まっており、レオンは、ルチアが淹れてくれたハーブティーを飲みながら、平和な昼下がりを堪能していた。……はずだった。


「レオン様! 探しました!」

 ドスドスと地響きを立てるような足取りで現れたのは、ヴァインベルク伯爵家の嫡男、マグナスだ。かつては「勉強嫌いの脳筋少年」だった彼は、今や見る影もない。整った顔立ちは精悍さを増し、制服の上からでも分かるほど鍛え上げられた体躯は、女子生徒たちの間で「演習場の王子様」と囁かれるほどの人気を博している。


「あ、マグナス様。ごきげんよう」

「レオン様、これを見てください! 先日の中間考査の結果です。学年で八位! ついに十番以内に入りました!」

「素晴らしいですね! 頑張りましたね、マグナス様」

 レオンが「よしよし」という雰囲気でニコリと微笑むと、マグナスは顔を真っ赤にして鼻息を荒くした。

「すべては、レオン様をお守りするに相応しい騎士となるため! 困ったことがあれば、いつでも俺を頼ってください。貴方の平穏を乱す不届き者は、このマグナスが叩き伏せてみせます!」


 レオンは、苦笑いを浮かべつつ、

(マグナス様、本当に真面目になったなぁ。和江おばあちゃんも言っていたよ、『恋は盲目、努力のスパイス』って。……でも僕、男なんだけどな…)

 と、相変わらずの致命的な勘違いが継続していることに、レオンは半ば諦めの境地だった。


 そこへ、もう一つの足音が近づいてきた。

「……ふむ。学年八位程度でレオン様の守護者を名乗るとは、笑わせるな」

 冷徹な声と共に現れたのは、初等部生徒会長のルキウス・オーレリアンだ。

 黒髪を端正に整え、銀縁眼鏡を指先で押し上げるその姿は、知的でクールな美少年。彼もまた、学院内では絶大な女子人気を誇る「鉄仮面の君」である。

「ルキウス様!ユリ兄様も」 

 ルキウスの後ろには、面白そうな見世物を見つけたような顔のユリウスが、ヘラヘラと笑いながら付いてきていた。


「レオン様、無事に過ごしていますか?兄君たちには話しづらい『秘密』の悩みや、相談があればいつでも私に。貴方の抱える孤独、私がその盾となって支えてみせましょう」

 ルキウスは、レオンの手を恭しく取ると、騎士のような真剣な眼差しを向けた。

(ぶっ……! ルキウスのやつ、まだ、レオンが『悲劇の男装令嬢』だと思い込んでやがる)

 ユリウスが背後で必死に笑いを堪えているが、ルキウスはいたって大真面目だ。彼はユリウスに吹き込まれた嘘を完璧に信じ込み、レオン(という名の可憐な少女)を陰から支える「秘密の騎士ナイト」を自任しているのである。


「ちょっと待て、眼鏡!誰が『守護者を名乗るな』だと!?」

 マグナスがルキウスの前に立ち塞がり、バチバチと火花を散らした。

「剣を振るうだけの猪に、レオン様の繊細な心を理解できるはずがない。規律と知性こそが、真の守護には必要なのだ」

「なんだと!? レオン様を守るのは、俺だ!」

「いいや、私だ!」

「「…………っ!!」」

 レオンを巡り睨み合う二人の美少年の間に、物理的な魔力圧が発生する。周囲の生徒たちが

「え、何? 決闘!?」

「あの三人が争ってる……!?」

「いやいや、三角関係!?」

と、遠巻きにざわつき始める。


「あわわわ……! 二人とも、落ち着いてください!」

 レオンが慌てて割って入る。

(どうしてこうなった……!? せっかくのお茶の時間が台無しだよ!)

 レオンは、和江おばあちゃんの知恵袋から「喧嘩の仲裁」のページをめくった。

(こういう時は、毅然とした態度で、かつ誰も傷つけない解決策を……!)

「二人とも! 僕のために争うなんて、感心しません! 『カッコいい男』は、自分の力を誇示するために使うのではないのです!」

 レオンは、胸を張って、凛とした声で宣言した。

「みんなの笑顔を守るのが、僕の……いえ、グレイスフィールドの者の使命です! 守られるばかりが僕じゃありません。必要なら、僕が皆さんをお守りします!」

 天使のような美少年が放った、あまりにも勇ましく、かつ「カッコいい男」(?)宣言。それを聞いたマグナスとルキウスは、同時に衝撃を受けた。

((な、なんて高潔で美しい……!!))

「素晴らしい……。自らも戦う意志をお持ちとは。ですが、それでは私の立場がありません。ならば、どちらが守護者に相応しいか、ここで白黒つけようではないか!」

「望むところだ! 決闘だ!」

「だから決闘はやめてってば!」


 レオンのカッコいい男宣言も虚しく、事態はさらに悪化していく。そこへ、待ってましたとばかりにユリウスが口を出した。

「はいはい、そこまで。学園内での私闘は禁止だぜ?……まあ、どうしても勝負したいなら、魔法の腕比べでもしたらどうだ? 平和的にさ」

 ユリウスが悪戯っぽく提案したのは、非常に単純な勝負だった。

「一番基本的な光系の『灯り(ライト)』を、自分の魔力だけでどれだけ長く、明るく灯し続けられるか。魔力が切れた方の負け。これなら怪我人も出ないだろ?」

「……合理的だな。受けよう」

「俺の気合、見せてやるぜ!」


 こうして、中庭で奇妙な「ライト耐久レース」が始まった。

 マグナスは「ぬおおおおお!」と気合を入れ、巨大な光球を作り出す。出力は高いが、燃費が最悪だ。

 ルキウスは、理知的な魔力制御で最小限の光を、寸分狂わぬ光量で維持し続ける。流石の腕前だ。

 そして、なぜか巻き込まれたレオンも、二人に付き合って光を灯した。

「……僕は、皆んなを守る「守護者」です!負けません!」

 レオンは、『グレイスフィールド式・三位一体魔力圧縮法』で培った濃密な魔力で、最小限の出力、かつ省エネ術式でライトを維持する。


 ーーー 数十分後。

「はぁ……はぁ……、くそっ、俺の魔力が……っ」

 最初に脱落したのはマグナスだ。筋力と身体強化には長けているが、繊細な魔力維持には向いていなかった。


 ーーー 一時間後。

「……信じられん。私の魔力計算では、あと三分は持ったはずだが……っ」

 ルキウスの眼鏡が曇り、指先から光が消えた。彼もまた、限界だった。

 しかし、その中央で。 レオンの掌の上には、まるで太陽の欠片のような温かい光が、勝負を始める前と全く変わらない輝きで灯り続けていた。

「あれ?もう終わりですか?僕、まだ全然大丈夫ですよ。これ、朝まででもいけます!」

 涼しい顔で、天使が微笑む。

「「………………」」

 完敗……魔力量そのもの以上に、「制御」と「効率」の次元が違いすぎる。


「……レオン様。俺は、自分が恥ずかしい」

 マグナスがガックリと膝をついた。

「守るなどと大口を叩きながら、貴方の足元にも及ばないとは……」

「私もだ……。自らの研鑽が足りなかった。……レオン様、今回は私が身を引きましょう」

 ルキウスも、悔しそうに眼鏡を直した。

「え? あ、はい。……えーっと、仲直りしてくれたら嬉しいです!」

 レオンの無邪気な一言に、二人のライバルは顔を上げ、互いを見つめ合った。

「……ルキウス殿。貴殿の魔力制御、認めよう。だが、俺は次は負けん。もっと鍛えて、レオン様を本当にお守りできる男になって戻ってくる!」

「マグナス殿。その愚直な熱意、データ外の脅威だった。私も、理論の先にある強さを手に入れる。……さらばだ、レオン様!」

 二人は、何やら熱い友情(?)と決意を勝手に燃え上がらせ、颯爽と去っていった。


「…………」

 一人残されたレオンは、遠い目をする。

「……僕は、守る側のカッコいい男として認められたのかな?いや、そんな感じじゃなかったよね……」

「ははは! いいじゃないか。あいつら、明日からもっと必死に修行するぜ。お前のおかげで学園のレベルが上がるな、レオン」

 ユリウスが、残っていたクッキーを口に放り込みながら笑った。


 守護を巡る三つ巴の戦いは、レオンの「圧倒的な無自覚無双」によって、二人の少年の新たなる向上心を爆誕させて幕を閉じた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩

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