表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/88

堅物ナイト、乳を絞る

読んでいただきありがとうございます!更新日は火・金・日予定です♩

 書庫での密談は続いている。


 ルキウスは、協力すると誓ったものの、レオンの次の言葉に再び固まった。

「それで、ルキウス様。お金をあまり使わずに、心がこもったもの…」

 レオンが人差し指を立てる。

「手作りのものを贈りたいんです!」

「…てづくり?」

 ルキウスの思考が停止する。

(『手作り』…『ハンドメイド』…?)

 彼の辞書においてのハンドメイド、それは『手ずから作成した機密資料』『手書きのデータ』しか書いていない。


「貴族が、使用人に命じて作らせたものではなく、自分で作る、ということか?」

「そうです!その方が、気持ちが伝わりますよね?」

「非合理的だ。完成品の質が著しく低下するリスクがある」

「うう、ルキウス様は頭が固い…」

 二人が「手作り」の定義について、あーだこーだと議論していると。


 ーーーコンコン

 書庫の扉がノックされ、メイドのルチアが入ってきた。

「レオン様、ルキウス様。お勉強中失礼します。お茶をお持ちしました」

 ルチアは現在、学院入学に備えて、侯爵家の支援で日中(メイドの仕事を免除されて)は勉学に励んでいる。

「あ、ルチア!ありがとう!勉強は終わったの?」

 レオンが笑顔で駆け寄り、ルチアを手伝う。

「はい!レオン様、ご不便をおかけしています」


 頭を下げるルチアだか、実は、この訪問…

「レオンが堅物と二人きり!偵察してきてくれ!」

 という、アデルの半泣きの命令によるものだった。

「それで、レオン様。何かお悩みごとですか?」

 ルチアは、アデルへの報告(と自分の好奇心)のため、なにげなく会話に加わってみる。

「…ルキウス様が、『手作り』を分かってくれなくて…」

「手作り?」

「もうすぐ、兄様たちのお誕生日会だから、プレゼントを用意したくて!」

「まあ!」

 ルチアは、その健気な悩みに、ほっこりする。


(アデル様、ただの杞憂でしたね…レオン様の一番はやっぱりアデル様ですよー!)

「それでしたら、先日クロノさんと一緒に作った、クッキーみたいなお菓子はいかがですか?」

「お菓子…」

 ルチアの言葉に、レオンの頭の中で、和江おばあちゃんの記憶がスパークした。

(そうだ!お祝いと言えば…!)

「『でこれーしょん・けーき』が作りたいです!」

「「でこ…??」」

 ルキウスとルチアの声が揃った。

「甘くて、フワフワした『スポンジ』に、白くて甘い『クリーム』を塗って…」

 レオンは、おばあちゃんの記憶を頼りに、夢見心地で説明する。

「真っ赤なベリー(いちご)を飾るんです!」

 その熱のこもった説明に、ルキウスもルチアも、ゴクリと唾を飲む。見たことも聞いたこともないが、レオンの説明だけで、絶対に美味しいお菓子だと直感した。


「よし、決まりです!厨房へ行きましょう!」

 三人は、すぐに厨房のクロノの元へ向かった。

「でこれーしょん・けーき、ですか?」

「ケーキに、ホイップクリームと果物で飾り付けしたケーキです!」

 料理人クロノも、首を傾げた。

「その『ほいっぷ・くりーむ』というのは、存じ上げませんね…」

「大丈夫です!僕が知ってます!」

 レオンは自信満々に(おばあちゃんの受け売りで)宣言した。

「『ほいっぷくりーむ』は、作るんです!魔牛の乳から!」

「「「魔牛!?」」」

「はい!魔牛のミルクの『乳脂肪』を分離して、冷やしながら空気を混ぜるんです!」

(おばあちゃんのバター作りの知識の応用だ!)

 レオンの号令の元、前代未聞のプロジェクトが始まった。


 ◇


 まず、城内の牧場へ。

 グレイスフィールド家が誇る魔牛が、そこにいた。

 その名も、『ミルキー・ミノタウロス』。見た目は立派な牛だが、角が少しイカツイが、大人しい魔獣(家畜)である。

「じゃあ、さっそく搾りましょう!」

 レオンはやる気満々で、袖をまくった。

「「「…………」」」

 クロノは料理人、ルチアはメイド、ルキウスに至っては宰相子息だ。

 当たり前だが、誰も、牛の乳を搾った経験などない。

 牧夫を呼ぶのが普通である。


「あれ?どうしたんですか?」

 レオンは、困った顔の三人を見回し、ルキウスに向かって、にっこりと微笑んだ。

 天使の笑顔(無茶振り)である。

「ルキウス様!お願いします!」

「……なぜ、私が」

 ルキウスは、宰相子息のプライドと、本能的な嫌悪感で抵抗する。

「非合理的だ。専門の牧夫に頼むのが筋だ」

「えー、でも」

 レオンは、手作りにこだわり、自分達でなるべく頑張りたいと思って、ちょっと考える。

(そうだ!おばあちゃんが言ってた!こういうのは『コツ』があるって!)

「だって、ルキウス様が、一番『正確』そうですから!」

「は?」

 レオンは、思いついた(おばあちゃんも言っていない)理屈を並べ立てた。

「乳搾りは、ただ搾ればいいんじゃないんです!(たぶん!)一定のリズムと、正確無比な圧力で搾らないと、美味しいクリームが取れないんですよ!」


 おばあちゃんが、孫と行った牛の乳搾り体験の時の記憶を引っ張り出し、牧場の人のアドバイスを何となく、自分なりにアレンジしてルキウスを説得にかかる。

「僕やルチアじゃ、力が不均等で…クロノさんは料理人ですし…」

 レオンは、キラキラした瞳でルキウスを見つめる。

「この精密作業(ミッション)は、ルキウス様にしかできません!」

「…っ!」


 ルキウスは、眼鏡をクイッと上げた。

(精密作業…私にしかできない…そうだ…レオン様は、私の能力を正しく理解して、頼ってくれているのだ!)

 レオンの無茶振りを、よくわからないが、良いように解釈し始めるルキウス。

(アデル)ではなく、私を!やはり、レオン様(彼女)が頼れるのはわたしなのだ!)

「…ふむ。確かに、精密作業は専門外の者には難しいタスクだ」

((イヤイヤ、宰相子息も、乳搾りなんて専門外では?))

 クロノとルチアの心の声は、ルキウスには届かない…

「しょうがない。私がやろう!」

「やったー!ありがとうございます!」

((チョロい…))

 ルチアとクロノの心が、完全に一致した。


 こうして、鉄面皮の宰相子息は、人生初の乳搾りに挑むことになった。

 ルキウスは、魔牛の前に立ち、決闘に挑むかのように厳しい目で見つめる。

『モ~~?』

 魔牛が不思議そうにルキウスを見ている。

「非合理的だ…非合理的だ…」

 ルキウスは、マントラのように唱えながら、桶を構える。なんせ、大人しいとはいえデカい魔牛。その乳に、生まれて初めて触れるのだ。

「ルキウス様!リズムです!データです!」

 レオンが、無責任な応援を送る。

「わかっている!正確な、乳への圧力と、時間のデータはインプットした!完璧に実行する!」

 恐る恐る、魔牛の乳に手をかけて、乳搾りを始めた。

 ーーーカク、カク、カク…!

 まるで機械仕掛けの人形のような、恐ろしく正確なリズム。

 だが、なぜか乳は、チョロチョロとしか出ない。

「おかしい…私の計算では、毎秒50ccは出るはずだ!」

「ルキウス様!心がこもってません!」

 レオンが叫ぶ。

「心!?それは、どのパラメータだ!」

「え、えーっと…優しさ、とか?」

「『優しさ』の数値を定義しろ!」

『モ~~…』

 魔牛が、ルキウスの返答に若干引いている。


 結局、最後は見かねた牧夫がやってきて、

「坊ちゃん、貸してみな」

 と交代し、無事に大量のミルクを確保できた。

 ルキウスは、

(パラメータ『心』『優しさ』…未知の変数だ…レオン様に付いて学ぶしかなさそうだな…)

 と、鉄面皮の下で真剣に悩みながら、厨房へ戻るのだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩

もし少しでも『面白いかも』『続きが気になる』と思っていただけたら、↓にあるブックマークや評価(☆☆☆☆☆)をポチッとしてもらえると、とってもうれしいです!あなたのポチを栄養にして生きてます… よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ