堅物ナイト、乳を絞る
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書庫での密談は続いている。
ルキウスは、協力すると誓ったものの、レオンの次の言葉に再び固まった。
「それで、ルキウス様。お金をあまり使わずに、心がこもったもの…」
レオンが人差し指を立てる。
「手作りのものを贈りたいんです!」
「…てづくり?」
ルキウスの思考が停止する。
(『手作り』…『ハンドメイド』…?)
彼の辞書においてのハンドメイド、それは『手ずから作成した機密資料』『手書きのデータ』しか書いていない。
「貴族が、使用人に命じて作らせたものではなく、自分で作る、ということか?」
「そうです!その方が、気持ちが伝わりますよね?」
「非合理的だ。完成品の質が著しく低下するリスクがある」
「うう、ルキウス様は頭が固い…」
二人が「手作り」の定義について、あーだこーだと議論していると。
ーーーコンコン
書庫の扉がノックされ、メイドのルチアが入ってきた。
「レオン様、ルキウス様。お勉強中失礼します。お茶をお持ちしました」
ルチアは現在、学院入学に備えて、侯爵家の支援で日中(メイドの仕事を免除されて)は勉学に励んでいる。
「あ、ルチア!ありがとう!勉強は終わったの?」
レオンが笑顔で駆け寄り、ルチアを手伝う。
「はい!レオン様、ご不便をおかけしています」
頭を下げるルチアだか、実は、この訪問…
「レオンが堅物と二人きり!偵察してきてくれ!」
という、アデルの半泣きの命令によるものだった。
「それで、レオン様。何かお悩みごとですか?」
ルチアは、アデルへの報告(と自分の好奇心)のため、なにげなく会話に加わってみる。
「…ルキウス様が、『手作り』を分かってくれなくて…」
「手作り?」
「もうすぐ、兄様たちのお誕生日会だから、プレゼントを用意したくて!」
「まあ!」
ルチアは、その健気な悩みに、ほっこりする。
(アデル様、ただの杞憂でしたね…レオン様の一番はやっぱりアデル様ですよー!)
「それでしたら、先日クロノさんと一緒に作った、クッキーみたいなお菓子はいかがですか?」
「お菓子…」
ルチアの言葉に、レオンの頭の中で、和江おばあちゃんの記憶がスパークした。
(そうだ!お祝いと言えば…!)
「『でこれーしょん・けーき』が作りたいです!」
「「でこ…??」」
ルキウスとルチアの声が揃った。
「甘くて、フワフワした『スポンジ』に、白くて甘い『クリーム』を塗って…」
レオンは、おばあちゃんの記憶を頼りに、夢見心地で説明する。
「真っ赤なベリー(いちご)を飾るんです!」
その熱のこもった説明に、ルキウスもルチアも、ゴクリと唾を飲む。見たことも聞いたこともないが、レオンの説明だけで、絶対に美味しいお菓子だと直感した。
「よし、決まりです!厨房へ行きましょう!」
三人は、すぐに厨房のクロノの元へ向かった。
「でこれーしょん・けーき、ですか?」
「ケーキに、ホイップクリームと果物で飾り付けしたケーキです!」
料理人クロノも、首を傾げた。
「その『ほいっぷ・くりーむ』というのは、存じ上げませんね…」
「大丈夫です!僕が知ってます!」
レオンは自信満々に(おばあちゃんの受け売りで)宣言した。
「『ほいっぷくりーむ』は、作るんです!魔牛の乳から!」
「「「魔牛!?」」」
「はい!魔牛のミルクの『乳脂肪』を分離して、冷やしながら空気を混ぜるんです!」
(おばあちゃんのバター作りの知識の応用だ!)
レオンの号令の元、前代未聞のプロジェクトが始まった。
◇
まず、城内の牧場へ。
グレイスフィールド家が誇る魔牛が、そこにいた。
その名も、『ミルキー・ミノタウロス』。見た目は立派な牛だが、角が少しイカツイが、大人しい魔獣(家畜)である。
「じゃあ、さっそく搾りましょう!」
レオンはやる気満々で、袖をまくった。
「「「…………」」」
クロノは料理人、ルチアはメイド、ルキウスに至っては宰相子息だ。
当たり前だが、誰も、牛の乳を搾った経験などない。
牧夫を呼ぶのが普通である。
「あれ?どうしたんですか?」
レオンは、困った顔の三人を見回し、ルキウスに向かって、にっこりと微笑んだ。
天使の笑顔(無茶振り)である。
「ルキウス様!お願いします!」
「……なぜ、私が」
ルキウスは、宰相子息のプライドと、本能的な嫌悪感で抵抗する。
「非合理的だ。専門の牧夫に頼むのが筋だ」
「えー、でも」
レオンは、手作りにこだわり、自分達でなるべく頑張りたいと思って、ちょっと考える。
(そうだ!おばあちゃんが言ってた!こういうのは『コツ』があるって!)
「だって、ルキウス様が、一番『正確』そうですから!」
「は?」
レオンは、思いついた(おばあちゃんも言っていない)理屈を並べ立てた。
「乳搾りは、ただ搾ればいいんじゃないんです!(たぶん!)一定のリズムと、正確無比な圧力で搾らないと、美味しいクリームが取れないんですよ!」
おばあちゃんが、孫と行った牛の乳搾り体験の時の記憶を引っ張り出し、牧場の人のアドバイスを何となく、自分なりにアレンジしてルキウスを説得にかかる。
「僕やルチアじゃ、力が不均等で…クロノさんは料理人ですし…」
レオンは、キラキラした瞳でルキウスを見つめる。
「この精密作業は、ルキウス様にしかできません!」
「…っ!」
ルキウスは、眼鏡をクイッと上げた。
(精密作業…私にしかできない…そうだ…レオン様は、私の能力を正しく理解して、頼ってくれているのだ!)
レオンの無茶振りを、よくわからないが、良いように解釈し始めるルキウス。
(兄ではなく、私を!やはり、レオン様が頼れるのはわたしなのだ!)
「…ふむ。確かに、精密作業は専門外の者には難しいタスクだ」
((イヤイヤ、宰相子息も、乳搾りなんて専門外では?))
クロノとルチアの心の声は、ルキウスには届かない…
「しょうがない。私がやろう!」
「やったー!ありがとうございます!」
((チョロい…))
ルチアとクロノの心が、完全に一致した。
こうして、鉄面皮の宰相子息は、人生初の乳搾りに挑むことになった。
ルキウスは、魔牛の前に立ち、決闘に挑むかのように厳しい目で見つめる。
『モ~~?』
魔牛が不思議そうにルキウスを見ている。
「非合理的だ…非合理的だ…」
ルキウスは、マントラのように唱えながら、桶を構える。なんせ、大人しいとはいえデカい魔牛。その乳に、生まれて初めて触れるのだ。
「ルキウス様!リズムです!データです!」
レオンが、無責任な応援を送る。
「わかっている!正確な、乳への圧力と、時間のデータはインプットした!完璧に実行する!」
恐る恐る、魔牛の乳に手をかけて、乳搾りを始めた。
ーーーカク、カク、カク…!
まるで機械仕掛けの人形のような、恐ろしく正確なリズム。
だが、なぜか乳は、チョロチョロとしか出ない。
「おかしい…私の計算では、毎秒50ccは出るはずだ!」
「ルキウス様!心がこもってません!」
レオンが叫ぶ。
「心!?それは、どのパラメータだ!」
「え、えーっと…優しさ、とか?」
「『優しさ』の数値を定義しろ!」
『モ~~…』
魔牛が、ルキウスの返答に若干引いている。
結局、最後は見かねた牧夫がやってきて、
「坊ちゃん、貸してみな」
と交代し、無事に大量のミルクを確保できた。
ルキウスは、
(パラメータ『心』『優しさ』…未知の変数だ…レオン様に付いて学ぶしかなさそうだな…)
と、鉄面皮の下で真剣に悩みながら、厨房へ戻るのだった。
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