表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/87

天使様、堅物と邂逅する

重めの話は終了。今回から、また馬鹿馬鹿しい話に戻ります。年内にシリアス終了できてよかった!更新日は火・金・日予定です♩

 ソリュス月になり、グレイスフィールド侯爵家には、待ちに待った夏の長期休暇がやってきた。

 長兄アデルと次兄ユリウスの二人が王都のロドエル魔導学院から帰還するのだ。 レオンの誘拐事件で少し落ち込みムードだった邸内は、久々に活気づいている。


 門から城へ近づく馬車の音。 レオンは、いてもたってもたまらず、部屋を飛び出して玄関へ駆けつけた。

「アデル兄様!ユリウス兄様!」

 狙うは、長兄アデルの完璧な胸元。レオンが勢いよくダイブすると、アデルはガッチリとレオンを抱え込んだ。

「レオーン!我が天使!無事だったか!」

 アデルは感涙にむせびながら、レオンを抱きしめる。

「王都でどれほど君を想ったことか!兄のこの胸の痛みが分かるか!」

 涙と鼻水で、大事な弟を汚しかねない勢いである。


「まあまあ、兄さん。レオンが息苦しそうだ」

 ユリウスが、呆れ顔で兄から弟を引き剥がすと、その隙に、レオンはすかさずユリウスに抱きついた。

「ユリ兄様もお帰りなさい!学園、大変だったみたいですね。僕、すごく心配しました…」

「…はは…。モリィまで寄越しやがって…レオンは意外と過保護だな」

 ユリウスは苦笑いを浮かべるしかない。

(モリィに見られた、あの騒動…!)

 ユリウスは、学院での一件を思い出し、恥ずかしさで叫び出したくなった。腐女子が歓喜しそうな、あの一件だ。

(それがレオンに筒抜けとは…!)

 ユリウスは兄の威厳を保つために、必死にポーカーフェイスを貫くのだった。


「お二人とも、ご無事で本当に嬉しいです!僕。寂しかったんです…」

 レオンが心の底から微笑むと、アデルとユリウスは胸を撃ち抜かれる。

 先日の誘拐事件の後だ。母からの手紙で詳細を見て、二人は酷く心配していた。

((まだ傷は癒えていないだろうに…よく頑張ったな…!))

 そんな弟が健気にも、素直に甘えてくる。その事実に、二人の兄は顔がニヤけるのを止められないでいた。

「ふん。まあ、俺がいなくて寂しいのは当然だろ」

 ユリウスは照れ隠しに、懐からアメを取り出した。

「ほら、王都限定のアメちゃんだ」

「ありがとうございます!」


「レオン!私からは、これだ!」

 アデルが意気揚々と馬車の荷台を指差す。 そこには山積みの荷物。そのほとんどがレオンへのお土産だった。

「…アデル兄様…」

 レオンがジト目でアデルを見るが、アデルはレオンのためには妥協しない男。

「だから、もったいないお化けが出ますって…」

 レオンの優しい説教が始まった。だが、その口元は嬉しそうに緩んでいる。


 ――今日もグレイスフィールド家は平和である。

 だが。


 そんな光景を、氷のように冷たい視線で見つめる者がいた。 ユリウスと共に馬車を降り立った、一人の少年。 ルキウス・オーレリアンである。

 黒髪に、銀縁眼鏡の宰相子息。ユリウスの学院での「相棒」である。今回の夏季休暇は、ユリウスに「グレイスフィールド家の書庫には古の錬金術の秘蔵資料がある」と騙されて、一緒にグレイスフィールド領へやってきたのだった。もちろん、そんなものはない。


「まあまあ、あなたたち。再会を喜ぶのも結構だけど、お客様を玄関に立たせたままではいけないわ」

 息子たちの様子を、微笑ましそうに玄関ホールから見守っていた母エレナが、客人の存在を思い出させる。

「よく戻った、アデル、ユリウス。長旅ご苦労だった」

 マルクも、威厳のある声で二人を労う。

「ただいま戻りました、父上、母上」

 アデルとユリウスは、慌てて背筋を伸ばし、挨拶を捧げた。

「うむ。二人とも、少し逞しくなったな」


 マルクは満足そうに頷くと、ユリウスの隣に立つ少年に視線を移す。

「そして、君がユリウスの友人、ルキウス・オーレリアン殿だね。ようこそ、グレイスフィールドへ」

「歓迎いたしますわ、ルキウス様。長旅でお疲れでしょう。どうぞ、館でごゆっくりなさってください」

 エレナが完璧な淑女の笑みで歓迎の意を表すと、ルキウスは、当主夫妻の歓迎に対し、寸分の隙もない完璧な礼を返した。

「グレイスフィールド侯爵閣下、並びに奥様。この度の温かいお出迎え、恐悦至極に存じます。宰相オーレリアンが三男、ルキウスにございます」


 その洗練された態度とは裏腹に、ルキウスは心の中でこの一家を断じていた。

(なんだこの馴れ合いは。侯爵家ともあろうものが、玄関先で抱き合い、説教だと?)

 そして、彼の視線は、先ほどから兄たちにまとわりつくレオンに注がれていた。

(言語道断だ!貴族の子息たるものが、かくも軟弱とは!)

「おい、グレイスフィールド」

  ルキウスは、歓迎ムードの空気を無視し、低く、理知的な声でユリウスに話しかけた。

「私は休暇を過ごしに来たのではない。学院の機密情報のデータ整理を、静かな環境で行うためだ。貴様らの家族ごっこに付き合う暇はない」


 ルキウス自身も三男だ。 だが、厳格な宰相の父に甘えなど許されたことは一度もなかった。 自立こそが美徳。規律こそが全て。それがオーレリアン家の教えだった。

「ふぅん。お前んちとは違って、うちは家族仲が良いんだよ、委員長」

 ユリウスが、ルキウスの心中を見透かしたように嘲笑う。


(なんなのだ、あの可憐さは…)

 ルキウスは、改めてレオンを値踏みする。白磁の肌。光が反射するピンクブロンドの髪。宝石の瞳。

(まるで令嬢ではないか。そのくせ男とは…)

 その事実に、どうにも居心地の悪さを感じていた。


「ルキウス様!ようこそグレイスフィールド領へ!」

 そんなルキウスに、レオンが無邪気に話しかけてきた。

「僕はレオンです!ユリウス兄様のお友達ですよね。モリィから聞いてます!とっても仲良しだって!」

『うん!すっっごく仲良しだったの、見た!ふごっ!』

 余計な口出しをしたモリィは、ユリウスに口を抑えられ、笑顔で威圧を受けるのだった。 世界樹の精霊とは思えない口の軽さと、扱いである。


「…っ!」

 ルキウスは、ユリウスを鋭く睨んだ。

(あれは精霊か!?監視されていたとは!)

「もしよろしければ、この庭園には精霊さんがたくさんいます。一緒に散策しませんか?」

 アデルの相棒と、どうしても仲良くなりたいレオンは、グイグイとルキウスを誘う。

「結構だ」

 しかし、ルキウスは、氷のような声で一蹴した。

「私は、貴様のような子供と遊ぶために来たのではない」

「あっ…」

 その辛辣な態度に、レオンはさすがにしょんぼりするのだった。


 ◇


 ルキウスは、挨拶もそこそこに、すぐに書庫へこもった。

 ユリウスの言葉が嘘か真か。「古の錬金術資料」とやらを、一刻も早く確認するためだ。

 一方、レオンはまだ諦めていなかった。

(ユリ兄様の大事な相棒だもの。あの塩対応には、きっと、何か事情があるんだ。絶対、仲良くなるんだ!)


「よし、おばあちゃんの知恵袋、発動」

(『客人は、まず胃袋から掴むべし』だ!)

 レオンは厨房へ向かい、クロノに声をかける。

「クロノさん!昨日、一緒に作ったクッキー!お茶と一緒にください!」

「レオン様、もうお茶の時間か?」

「いや、ルキウス様に持っていくんです!」

「…クッキーは、アデル様とユリウス様のために、レオン様が一生懸命つくったんじゃないか…。それをあの坊ちゃんにくれちゃうのか?」

 玄関ホールでの態度を見て、グレイスフィールド使用人たちの、ルキウスへの評価は底辺なのだ。

「レオン様!あの方、レオン様に結構、失礼な態度でしたよね!」

 レオンのそばに控えていたルチアも怒り心頭だ。

「…うん…でも、ユリ兄様の相棒だもの!きっといい人だと思うんだ!何かの行き違いがあるのかも知れない」

「でも…」

「たくさん話をして、分かり合えなくても何度も話をするって、それが『カッコいい男』だって、僕、思うから!」

「「レオンさま〜!!」」


 前回の誘拐事件で学んだ、自分なりの『カッコいい』を聞かせると、あまりにも健気な天使に、クロノもルチアも感涙である。


 ◇


 レオンは特製のお茶とクッキーを盆に乗せ、書庫の重い扉を、そっとノックする。

「ルキウス様。お茶をお持ちしました」

「…入れ」

 中からは、不機嫌そうな声が返ってきた。

 部屋の中では、ルキウスが険しい顔で資料をめくっている。

「そこに置け」


「あの!このクッキー、僕が焼いたんです」

 レオンは笑顔でアピールする。

「とっても美味しいんですよ!」

「…毒見は?」

「え?」

「貴族の基本だろう」

 ルキウスは、クッキーを一瞥だにした。

「初めての場所で出されたものに、安易に口をつけるなど、警戒心がなさすぎる。そんなものより、資料の場所を教えろ」

「し、資料ですか?」

「そうだ。『古の錬金術』に関する秘蔵資料だ」

 ルキウスがレオンを睨む。

「ユリウスは、ここにあると言った」

(そんなもの、あったかな…?)

 レオンは首を傾げる。

「すみません、僕は、聞いたことが…」

「チッ。やはりあの男の戯言か」

 ルキウスは苛立たしげに舌打ちした。


「用がないなら下がれ。子供の馴れ合いは時間の無駄だ」

「うっ…」

 レオンは、盆を持ったまま追い返された。

(つ、冷たい…)

 レオンは落ち込むが、へこたれない。

(ユリ兄様が『委員長、面白いやつだからよろしくな』って言ってた。僕が頑張らないと!)


 ◇


 次の日。

 レオンは、再び書庫へ向かった。

(今日は、領地の案内図を持ってきたんだ。これなら!)

 だが、書庫の扉は固く閉ざされていた。

『集中する。誰も入るな』

 そう、扉に張り紙がしてある。

「どうしよう…」


 レオンが扉の前で途方に暮れていると、

「お、レオン。まだやってんのか?」

 ユリウスがニヤニヤしながら通りかかった。

「ユリ兄様!ルキウス様、なんだか怒ってるみたいで…」

「あー、アイツ、ああ見えて完璧主義だからなー」

(ああ見えてって…いえ、完璧主義にしか見えないです…)

 ユリウスが面白そうに弟を見る。

「目的のモンが見つからなくて、イラついてんだろ」

「僕、仲良くなりたいのに…」

「ははっ!無駄だ無駄だ」

 ユリウスは笑い飛ばす。

「アイツは『規律』と『データ』で生きてる鉄面皮だ。レオンみたいな『天使』とは、生息地が違うんだよ」

 そう言って、ユリウスはレオンの頭を撫でた。

(まあ、せいぜい頑張れよ。面白い化学反応が起きるかもしれねえしな)


 そう、ユリウスがルキウスを騙してまで領地に連れてきた目的。それは、ポヤポヤした家族と、規律の堅物男が絡んだ時に、どう変化していくのかが見たかったから!

 完璧な堅物は、実際には天才ユリウスの手のひらの上で転がされまくっているのだった…

ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩

もし少しでも『面白いかも』『続きが気になる』と思っていただけたら、↓にあるブックマークや評価(☆☆☆☆☆)をポチッとしてもらえると、とってもうれしいです!あなたのポチを栄養にして生きてます… よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ