天使様、初めてのお忍びと初めての誘拐
読んでいただきありがとうございます!更新日は火・金・日予定です♩
ルチアの騒動も終わり、 レオンは、長年の悲願だった「普通の男の子の服」を身に纏い、ウキウキとした気分で城の裏門をくぐった。
少し古びてはいるが、丈夫な布地で作られたシャツとズボン。これこそ、彼が夢にまで見た『お忍びスタイル』だ。
(よし!今日こそ、ノブレス・オブリージュを実践するぞ!)
彼の隣には、護衛として騎士のロイが、そして足元には子犬サイズになった使い魔のモリィが付き従っている。父マルクとの交渉の末、ついに勝ち取った、初めての正式なお忍びでの城下町視察だ。
「レオン様、くれぐれも私から離れぬよう。町には危険が満ちておりますので」
ロイは、いつにも増して真剣な表情で周囲を警戒している。
『レオン様ー!おやつ買ってくれる?串焼きがいいなー!』
モリィは、すでに食べ物のことしか頭にないようだ。
「二人とも、一緒にきてくれてありがとう!でも、今日は遊びに行くわけじゃないからね。領民たちの暮らしを、この目でしっかりと見て、僕にできることを探す。それが、今日の僕の使命なのですから!」
レオンは、小さな胸を張り、大人びた口調で宣言した。その姿は、小さな領主のようでなんとも微笑ましく、警戒MAXだったロイも思わず頬が緩んでしまった。
◇
一行は、城下町の正門近くまでやってきた。門の前で、大きな人だかりができており、何やら騒がしい声が聞こえてくる。
「何だろう?」
レオンは首を傾げて、人だかりの中心へと向かう。 そこでは、色とりどりの商品を荷馬車に満載した行商人一座と、領地の役人が、通行税を巡って激しい口論を繰り広げていた。
「規則だ!この額を払わねば、この門を通すわけにはいかん!」
「そんな無茶な!少しはまけてくれたっていいだろう!これじゃあ、商売上がったりだ!」
その光景を見ていたレオンの心に、和江おばあちゃんの声が響く。
(あらあら、喧嘩したって、いいことなんて一つもないのにねぇ。こういう時は、まず、お互いの言い分をよーく聞いてあげるのが一番だよ)
和江おばあちゃんの言葉に従い、レオンは話を聞くべく、ロイの制止を振り切り、ずんずんと二人の間に割って入る。
「まあまあ、お二人とも。少し、落ち着いてください」
その場に響いた、鈴を転がすような、しかしどこか不思議な落ち着き払った声。役人も商人も、声の主が小さな子供であることに気づき、一瞬、きょとんとした。
「なんだ、坊主。大人の話に首を突っ込むんじゃねえ」
「坊主ではありません。レオンと申します。まずは、お話を聞かせてもらえますか?」
役人も商人も、こんな子供に話してもと思いつつも、クールダウンするために、レオンにお互いの主張を話してやった。
すると、レオンはにっこりと微笑むと、まず役人の持つ帳簿を指さした。
「役人さん。あなたの言う税額は、確かに規定通りなのでしょう。ですが、この方たちは初めてこの領地を訪れたとのこと。規定には、『初回の交易に限り、税率の優遇措置を適用する場合がある』という特例条項もあったはずですが?」
「えっ…!そんな条項あったか…!?」
役人が絶句する。それは、ほとんど使われることのない、帳簿の隅に小さく書かれた条文だった。それを見た役人は「…ほんとだ…」と勉強不足に恥じ入るばかりだ。
次に、レオンは行商人の親方に向き直った。
「商人さん。あなたの荷物は、見たところポルトス侯爵領の香辛料ですね。うちの領地では薬草の研究が盛んなので、高く売れる可能性があります。役人さんは、特例で税額を三割引く。商人さんは、その分で、うちの領地の薬草を仕入れていく。そうすれば、お互いに損はなく、新しい商売の道が開けると思いませんか?これぞ、『ウィンウィン』ではないですか?」
レオンの、子供とは思えぬ的確な分析と、双方に利のある完璧な落とし所の提案。 役人と行商人は、顔を見合わせた後、自分たちを丸め込んだのが目の前の小さな子供であるという事実に、わなわなと打ち震えた。
「お、恐るべき童だ…」
「こいつ、本当に子供か…?」
双方から畏怖の視線を向けられながら、レオンは
(よし!ノブレス・オブリージュ、大成功!)
と、一人で満足げに頷いていた。
◇
一件落着し、ほっと一息ついた、その瞬間!
「―――っ!」
レオンの背後から、ぬっと伸びてきた手が、甘い香りのする布をレオンの口と鼻に強く押し当てた。
(まずい、薬…!)
そう思った時には、もう遅い。レオンの意識は、急速に遠のいていく。隣にいたモリィも、同じように眠らされてしまったようだ。
「レオン様!」
異変に気づいたロイが、叫びと共に剣を抜く。しかし、彼の周囲は、いつの間にか、黒装束の男たち数人に、完全に包囲されていた。
「くっ…貴様ら、何者だ!」
ロイは、地属性の防御魔法を展開しながら、果敢に応戦する。しかし、敵はただのチンピラではなかった。統率の取れた動き、無駄のない剣筋。明らかに、手練れの集団だ。
多勢に無勢。ロイは、レオンを守ろうと奮戦するが、背後からの一撃を受け、その場に崩れ落ちた。男たちは、眠ってぐったりとしたレオンを担ぎ上げると、人混みに紛れ、あっという間に姿を消してしまった。
◇
どれくらいの時間が経っただろうか。 ロイは、頭から流れる血の温かさで、意識を取り戻した。
「…っ…レオン、様…!」
最後の力を振り絞り、彼は隣でぐったりと眠っているモリィの体を、必死で揺り起こした。
「モリィ…!起きろ、モリィ…!レオン様が…連れ去られてしまった…!」
『ん…んー…?レオン様…?』
ようやく目を覚ましたモリィは、主の姿がないことに気づいた。すると、いつもは呑気な瞳が、今まで誰も見たことのない、真剣で、鋭い光が宿っていた。
『分かった!ロイ、乗って!』
モリィは、一瞬でその体を巨大な魔犬へと変える。そして、まだ朦朧としているロイを、まるで荷物のように器用に背中に乗せると、
『城へ戻る!しっかり掴まってて!』
白い閃光のように、モリィは石畳を蹴って駆けだした。その速さは、もはや馬車など比較にならない。あっという間に城門を駆け抜け、グレイスフィールド城へと一直線に向かう。
城に到着するなり、モリィはロイを背負ったまま、侯爵の執務室へと乗り込んだ。
「何事だ!」
「ロイ!?その怪我は…!レオンはどこだ!」
マルクと、報告を聞いて駆けつけたエレナが、血まみれのロイの姿に絶句する。
「申し訳…ございません…!レオン様が…何者かに…!」
ロイが、途切れ途切れに状況を説明する。
マルクの顔から血の気が引き、エレナは静かに、しかし燃えるような怒りのオーラを放ち始めた。
そして、モリィが低く唸って言った。
『僕、レオン様の匂いを追う!』
彼は、くん、と一度地面の匂いを嗅ぐと、レオンの匂いを辿って、連れ去った者たちの跡を追うという。
『先に行く!大丈夫、僕、途中で目印にアメちゃんを落としておくから!それを辿って、みんなで応援に来て!』
モリィの言葉には、いつもの軽薄さはない。ただ、主を救うという、絶対的な決意だけが満ちている。それが一層、レオンの今の状況が不味いと浮き彫りにさせる…
モリィはロイを降ろし、再び白い閃光となって、城下町の方角へと飛び出していった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩
もし少しでも『面白いかも』『続きが気になる』と思っていただけたら、↓にあるブックマークや評価(☆☆☆☆☆)をポチッとしてもらえると、とってもうれしいです!あなたのポチを栄養にして生きてます… よろしくお願いします!




