三位一体、新たな魔法理論と母の逆鱗
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レオン、ユリウス、そしてアデル。 グレイスフィールド家の誇る三兄弟は、三者三様の「魔力圧縮」へのアプローチで見事に自爆し、母エレナから「薬草の整理と研究レポートの清書」という、地獄のような罰を言い渡された。
よーーく見ないと、どこが違うのかわからない、大量の薬草の山の分類、何が書いてるのかわからない殴り書きのような大量のメモ帳を、整理し、レポートに起こす作業。目と脳を酷使して、ヘロヘロの3人だった。
罰を終え、ようやく自由の身となった日の夜。 三人は、母に怒られたことに全く懲りておらず、誰が言い出すでもなく、アデルの部屋に集まり、秘密の作戦会議を再開する。
「…で、結局、どうだったんだよ、お前らは」
ベッドに寝転がったユリウスが、勢い込んで切り出す。
アデルは、腕を組み、真剣な顔で自身の失敗を報告した。
「私の『器を鍛える』というアプローチは、確かに魔核の耐久値を上げる効果はあった。だが、魔力の質そのものは何ら変わらなかったな。ただの、頑丈になっただけだ。完全に燃え尽きた」
レオンも、しょんぼりと肩を落とす。 「僕の『術式』は理論的には、完璧だったはずです。でも、僕の魔核が、その高負荷な処理に耐えられませんでした…。術式を実行しようとしただけで、鼻血が出て倒れてしまって…」
「俺は、魔力を『氷(固体)』に変えることで、高密度化させることには成功した。だが、こいつを自分の魔核でやったら、魔核を凍らせてしまう、危険すぎる技術だ。実用化は無理だな。危うく全身凍傷になるところだったぜ」 ユリウスが、忌々しげに付け加える。
それぞれの研究成果と、華々しい失敗談。部屋に、重い沈黙が流れた。 その沈黙を破ったのは、レオンの、ふとした呟きだった。
「…器…密度…」
レオンは、兄たちの顔を交互に見つめる。和江おばあちゃんのプログラミング知識を応用し、三つの独立した事象を、一つのシステムとして再構築し始めていた。
「もし…アデル兄様の、頑丈な『器』があれば、僕の『理論』の高負荷にも、耐えられるかもしれない…」
「なるほど…」
ユリウスの目が、カッと見開かれる。
「レオンの完璧な『理論』があれば、俺の危険な『技術』を、暴走させることなく、安全に制御できるかもしれない…!」
最後に、アデルが、二人の弟の言葉をまとめ上げ、結論を導き出した。
「つまり…俺の鍛え上げた『器』に、レオンの『理論』で安全に制御しながら、ユリウスの『技術』を使って魔力を取り込む…ということか」
そう、発想の転換だった。 魔核の中にある既存の魔力を圧縮して、空いた容量に新たな魔素を取り込む、という内向きのアプローチではない。
そもそも、体内に取り込む前の、外部の魔素そのものを、レオンの術式イメージで超高効率に圧縮し、それをユリウスの技術で安全に結晶化させ、アデルが鍛え上げた強靭な魔核へと取り込む。
外から、完成された『圧縮ファイル』をダウンロードするような、外向きのアプローチだ。そうすれば、死ぬ気で頑張る必要もなく、それぞれの負担も少なく、安全に成果が出せるかもしれない。
三人の天才の頭脳が、一つの完璧な解へと収束した瞬間だった。
こうして、三兄弟の才能が融合した、全く新しい魔法理論―――『グレイスフィールド式・三位一体魔力圧縮法』が、静かに産声を上げた。
◇
それからの数週間、三兄弟は、母の目を盗んでは、秘密の合同訓練に励んだ。 そして、ついに三人は、それぞれの魔核内で、安定した高密度の魔力結晶を生成することに、成功したのだった。
嬉しくて仕方がないレオンは、早速、その新しい力を使ってみたくてたまらない。 いつもの調子で、談話室のティーカップに、初級魔法『浮遊』をかけてみると…
ビュンッ!
ティーカップが、まるで砲弾のように天井に向かってすっ飛んでいき、ガシャン!と音を立てて砕け散った。
「レオン、大丈夫か!?」
アデルが慌てて、レオンの怪我の心配をしつつ、壊れたカップに、『修復』の魔法をかける。すると、砕け散った破片は元通りになったものの、なぜか以前よりピカピカに輝き、妙に硬質なカップになってしまっていた。
ユリウスが、そのカップを手に取り、面白半分で床に叩きつけてみるが、カキン!と甲高い音を立てるだけで、傷一つつかない。
「…おい、これ、やばいぞ。今までの感覚で魔法を使ったら、とんでもないことになる」
「「………」」
母の怒り顔を思い浮かべて、引き攣る三兄弟…自分たちが手に入れた力の、規格外の効率の良さと、それに伴う制御の難しさを、改めて認識したのだった。
◇
ユリウスは、これは面白いことになったとばかりに、悪戯心が疼くのを抑えきれずにいた。この、圧縮された魔力を全開に使うと、どれくらいの効果が出るのか試したくてしょうがない。
その夜、彼は父マルクの執務室の窓の外に忍び寄ると、圧縮した魔力を全力で解放し、上級魔法『氷像創造』を発動させる…
「ーーーうひゃっっ!!」
翌朝、執務室に入ったマルクは、窓の外からこちらを覗き込む、やけにリアルな、妻エレナの氷像を見て、悲鳴を上げる。
(なんだ、これは!氷像?しかしリアルだな…氷像創造か!?であれば、ユリウスだな!)
すでに上級魔法を使いこなす、次男に感嘆しつつ、呆れつつ…
(まあ、天気もいいし、半日もすれば溶けるだろう。…後で、ユリウスには上級魔法を無許可で使った罰を与えねばな)
マルクは、そう高を括っていた。
しかし、その氷像は、二日経っても、溶ける気配すら見せない…
(なんだ、これは!まさか、毎日、夜中に作りにきてるのか?それにしても、溶けていく気配すら見せないとは、変だな…)
あまりのことに、専門家であるエレナに、見てもらうことにした。
マルクに呼ばれて、氷像を見にきたエレナ。
「まあ、ユリウスが作ったの?なかなか見事な芸術品じゃない。よくできているわね」
「ああ。しかし、普通であれば2時間もすれば氷像なんてなくなるだろう。魔力を多くしたところで、溶けてなくなるものではないのか?」
「そうね。でも、高出力の魔力で作れば、溶けずに長時間置いておく事も可能よ。それでも、半日が限度かしら…」
最初は感心していたエレナだったが、氷像をぐるりと一周し、その造形を細かく観察するうちに、その完璧な微笑みが、すうっと消えた。
「……でも」
彼女の声の温度が、数度下がる。
「…ちょっと、この体型は少し太すぎないかしら…それに、私の鼻は、こんなに低いかしら…」
「(そっち!?)いや、エレナは素晴らしいプロポーションに、かわいらしい鼻だぞ?いや、そうではなくて、この氷像の魔力をだな…」
「そう…あなたは…この氷像に違和感はないのね…?」
「いや!おかしい!この氷像はおかしいぞ!よし、3人を呼ぼう!」
◇
「ユリウスッ!!これは母さんへの挑戦と受け取ったわ!今すぐここへ来なさいッ!」
3兄弟は母の前に呼びつけられ、キョトンとしていた。凄まじく怒っているのはわかる…
でも、なぜなのかがわからない…
「ユリウス、私の執務室の外にある氷像は、お前が作ったもので間違いないか?」
「…はい」
「あの氷像は、いまだに外にあるのだが、なぜ残っているのか説明しなさい」
その件か!と納得する3兄弟。ユリウスから全力で作ったとは聞いたが、まだ残ってるとは思ってもいなかった。それは作ったユリウスも含めて。
「普通、全力で作って半日が限度だそうだ…どういうことだ?」
「それは…」
アデルが代表して、渋々、『グレイスフィールド式・三位一体魔力圧縮法』の全てを白状する。 話を聞き終えたマルクは、静かに胃を押さえる。
「…お前たち、自分たちが、どれだけとんでもないことをしてしまったのか、分かっているのか?」
マルクは、その新理論がもたらすであろう、世界の変革について、静かに語り始めた。
個人の戦闘能力は飛躍的に向上し、魔法の燃費は劇的に改善される。今まで上級魔法を使えなかった者でも、一流の魔法使いになれる可能性が生まれる。それは、この国の、ひいては大陸全体の軍事バランスを、根底から覆しかねない、超重要機密なのだと。
「この理論が公になれば、ヴァリウス公爵や、ヘイムダール侯爵のような輩が、喉から手が出るほど欲しがり、グレイスフィールド家は、彼らの標的となる」
息を吸い、父から最後通告が叫ばれた。
「よいか!こんな危険な方法は、即刻禁止だ!」
父の言葉に、三兄弟は、自分たちが生み出した「力」の、本当の重さを知った…
しかし、もう鍛錬を始めてしまい、短期間で結果も出てしまっている3兄弟はすぐにYESと言うことが出来なかった…
「父上、重大さは重々承知いたしました。しかし、この画期的な方法をこのまま埋もれさすおつもりですか?」
「父上!もっと魔力制御を学んで、イタズラには使いません!」
「父様!僕も、絶対、内緒にします!」
「「「鍛錬を続けさせてください!」」」
アデルの言うことはもっともだ。このまま埋もれさすにはあまりにも勿体無い技術ではある。間違いない、重要機密となる情報なのだから…しかし…
「……ならば、絶対に他言無用とせよ!」
「「「はい!」」」
そこに、痺れを切らした母の一声。
「そんなことより…!」
重い話の中、母エレナは、びしっと、息子たちを指さした。
「それよりも問題なのは!あなたたちから見た母は!こんなにもふくよかで!こんなにも鼻が低いということですか!?これは、母への反逆ですわ!許しません!」
(((そっち!?)))
その後、母から、女性の心理やら、女性への扱いやらの講義が延々と続く。
それと共に、父のお説教が遠い昔の事のように思えてしまう不思議…
三人は、母の怒りのポイントが致命的にズレていることにホッとし、両親二重のお叱りにならなかったことに安堵する。いや、別の意味では2回しかられているけれど…
「まあ、でも、とにかく、あなたたちが無事でよかったわ!」
死にそうになりながらも魔法を探求する我が子たちの姿に、「研究バカは、自分の子供だな」と、思わず3人まとめて抱きしめてしまうエレナであった。
マルクだけが、政治的な危険性と、妻の怒りポイントと、息子たちの能天気さ翻弄されて、
(もうだめだ、私の胃が、もたない…)
と、またしても、静かに天を仰ぐのであった。
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