完璧王子、魔力圧縮理論で燃え尽きる
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レオンが鼻血を出して倒れ、その翌日にはユリウスが自室で凍りついて倒れていた。
グレイスフィールド家の屋敷は、ここ数日、立て続けに起こる次男三男の奇行と、それに伴う騒動で、てんやわんやの状態だった。
幸い、二人とも命に別状はなく、数日の安静を言い渡されただけだったが、アデルの心は穏やかではない。原因は、それぞれが魔力圧縮法を独自に展開して、事故を起こしたのは明白だ。
(レオンも、ユリウスも、一体どんな無茶をしたのだ…!)
『競争だ!』などと弟たちを煽ってしまったことを、今更ながら後悔するアデル。
(私が、弟たちを守らなくてはならないというのに…。私が、誰よりも強くあらねばならないというのに…!)
弟たちが、自分の知らない領域へ、危険を顧みずに突き進んでいる。その事実は、アデルの完璧なプライドと、弟たちへの過剰なまでの庇護欲を、激しく刺激した。
(レオンが倒れ、ユリウスが倒れた。次期当主として、そして何より兄として、私が魔力圧縮法を、早急に確立させなければ!また、弟たちは無茶をしてしまう!)
彼は、弟たちとは違う、自分だけの「正解」を見つけ出し、誰よりも先にこの新技術をマスターしてみせると、固く決意したのだった。
◇
自室に戻ったアデルは、弟たちの失敗の原因を冷静に分析し始めた。
(レオンも、アデルも魔力そのものをどうにかしようとしたのだろう…)
二人とも、魔力の「中身」をどうにかしようとして失敗した。ならば。
「答えは一つだ」
アデルは、すっくと立ち上がった。その瞳には、これから過酷な戦場へと赴く騎士のような、ストイックな光が宿っていた。
「中身が駄目なら、『器』そのものを鍛え上げればいい!」
ルチアの『死ぬ気でやる』という言葉を、彼は誰よりもストレートに、「肉体と精神の限界を超える、死ぬ気でのトレーニング」だと解釈したのだ。
彼は、魔力を溜める「器」である魔核そのものを、物理的に鍛え上げるという、あまりにも脳筋で、しかし彼らしい結論に至った。
具体的には、魔力が完全に空っぽになるまで魔法を使い続け、魔力枯渇で倒れる寸前の極限状態から、さらに無理やり魔力を絞り出す。筋肉を限界まで追い込んでから回復させることで、より強く、大きくする『超回復』の理論を、彼は自らの魔核に応用しようと考えたのだ。
(この過酷なトレーニングを繰り返すことで、私の魔核は自己防衛本能として、より効率的に、より高密度に魔力を蓄えようと、その構造自体を変化させていくはずだ。いわば、魔核の筋力トレーニング!)
頭は良いはずなのに、その発想は、完全に筋肉のそれであった。
◇
その日の午後、アデルは一人、訓練場に立っていた。
「―――炎よ、我が敵を穿て!火炎槍!」
彼の掌から放たれた炎の槍が、訓練用の的を次々と正確に撃ち抜いていく。中級魔法の連続行使。常人であれば、数発で魔力切れを起こすほどの高負荷訓練だ。
だが、アデルは休まない。
額に玉の汗を浮かべ、呼吸が荒くなり始めても、彼はひたすら、自らの魔核が悲鳴を上げるまで、魔法を放ち続けた。
(まだだ…!まだ、足りない…!)
脳裏に浮かぶのは、愛する弟たちの姿。聖域で、自らの全魔力を放出して世界樹を救った、レオンの儚い姿。学院で、脅威を前に一歩も引かなかった、ユリウスの気高い姿。
(私が、この手で、二人を守るのだ。そのためには、これしきの苦痛、乗り越えられずして何とする!)
視界がかすみ、立っているのもやっとの状態…それでもアデルは魔力を使い続け、とうとう膝を折り、立ち上がるのも困難になる。魔核の中の魔力が、完全に空っぽになったのだ。
激しい頭痛に見舞われるも、アデルのトレーニングは、ここからが本番だった。
「…ぐっ…!」
彼は、歯を食いしばり、空っぽのはずの魔核から、さらに魔力を、雑巾を絞るように、無理やり、一滴残らず絞り出そうとする。
魔核が、ぎりぎり、と物理的に軋むような、凄まじい痛みが彼を襲う。
だが、彼はやめない。その痛みの先にこそ、弟たちを守るための、新たな力が眠っていると信じて。
そして、ついに。
(レオン…ユリウス…)
弟たちの名を呟いたのを最後に、彼の意識は、ぷつりと途切れた。
完璧王子は、その場に、静かに、そして完全に燃え尽きたかのように、崩れ落ちたのだった。
◇
「―――それで?言い訳は、それだけかしら?」
数時間後。
グレイスフィールド家の医務室には、仲良く三つのベッドが並べられ、そこに、三人の兄弟が、それぞれ神妙な顔つきで座っていた。
レオンは鼻に詰め物をし、ユリウスはまだ少し青白い顔で、そしてアデルは、全身を疲労感に包まれながら。
その三人を、腕を組み、般若のような、しかし完璧に美しい微笑みを浮かべた母エレナが、見下ろしていた。
「レオン。あなたは、自分の魔核の許容量を考えずに、無茶な理論でオーバーヒート。ユリウス。あなたは、自分の体を実験台に、魔核を凍傷寸前まで追い込む。そしてアデル。あなたは、ただの根性論で、魔力枯渇を起こして倒れる。…三人揃って、大馬鹿者なの?」
その静かな声には、地獄の業火よりも恐ろしい、絶対零度の怒りがこもっていた。
「「「申し訳…ございませんでした…」」」
三人の眉目秀麗、頭脳明晰な貴公子たちは、母の前では、ただの悪戯がバレた子供でしかなかった。
「あなたたちの探究心と向上心は、素晴らしいものよ。母さんも、一人の研究者として、誇りに思うわ。ですが!」
エレナの声が、一段と低くなる。
「自分の命を危険に晒してまでやることではありません!あなたたちに何かあったら、父様や、私や、この屋敷の皆が、どれだけ悲しむと思っているの!?」
エレナは、ふう、と一つ深呼吸をすると、少しだけいつもの優しい母親の顔に戻った。
「今回の件は、全員、罰として、私の新しい薬草の整理と、研究レポートの清書を手伝ってもらいます。いいわね?」
「「「はい…」」」
三人は、しょんぼりと頷くしかなかった。その罰が、魔力圧縮の鍛錬よりも、遥かに過酷なものであったとしても、イエスしか許されない状況…
遠くの執務室では、息子3人が立て続けに倒れたという報告を受けた父マルクが、またしても胃を押さえ、静かに天を仰いでいた。
(もうだめだ…私の胃が、もたない…ウチの子達は、賢いと思っていたのに、実は3人ともバカなのか!?)
こうして、グレイスフィールド家三兄弟による「魔力圧縮」への挑戦は、三者三様の盛大な自爆と、母からのこっぴどいお説教をもって、一旦の幕を下ろしたのであった。
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