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天才様、魔力圧縮理論で凍りつく

読んでいただきありがとうございます!更新日は火・金・日予定です♩

 レオンが鼻から血を流し、気を失って倒れたという知らせは、すぐに屋敷中を駆け巡った。


 原因は、魔力制御の訓練中の無理がたたったことによる、魔核のオーバーヒート。侍医からは「数日安静にしていれば問題ない」との診断が下された。

「レオンに万が一のことがあったら!」

 アデルは、こんこんと眠るレオンを前に半狂乱。

 そして、父マルクは新たな胃痛の種に深くため息をつき、母エレナは

(あの子、一体どんな無茶な理論を組み立てていたのかしら…)

 と、研究者として目を輝かせていた。母には、3兄弟がルチアの魔力圧縮に挑んでいることは、バレバレなのだ。


 そんな騒動を、ユリウスは、少し離れた場所から冷静に観察していた。

(まったく、馬鹿だな、レオンは。自分の魔核のスペックも考えずに、無茶をするからだ。)

 ユリウスは、レオンの失敗を分析しながら、自身の魔力圧縮法を模索する。

(レオンはどうゆうアプローチをしたんだ?ルチアの魔力は、明らかに『普通』とは違う。そこを見据えないと、レオンのように自滅しそうだな…)


 ユリウスには、レオンの性格上、何らかの術式を使ったことは間違い無いと思っているが、術式の内容は不明だ。しかし、直接、魔核に取り込まれた魔力に何かしらの術式を使えば、レオンと同じ轍を踏みそうだと考えていた。

(ルチアの魔力圧縮は、何か、根本的な質そのものが変質している気がするんだよな…)


 ユリウスの脳裏に、ルチアのドジな姿が浮かぶ。あのドジっぷりは、もしかして、他の人と同じ容量で魔法を使って、容量過多による失敗なのかもしれない…そして、彼女が言った、あまりにも単純で、しかし核心をついているであろう一言。

『死ぬ気でやる』。

(ただの根性論なわけがない…言葉にできない、『死ぬ気でやった』何かがあるはずだ…)


 ユリウスは、言葉の裏にあるものを探り当てようとする。天才の悪い癖。

 しかし、ルチアにそんな言葉の裏などあるわけもなく…ただ単に「死ぬほど大変でしたー」というだけの意味である。

(死ぬほどの極限状態。尋常ではない精神状態が、体内の魔力に何らかの化学変化を起こした…?ありえるな。まるで水が蒸発して気体になったり、凍って固体になったりするように…)


 天才は、何でもない一言に、ここまで飛躍して考えるのだから、恐れ入る。

 ユリウスは、自室に戻ると、一人、静かに思索にふけり始めた。彼は、自分の得意とする風と氷の魔法のように、魔力を常に「流体」として捉えていた。気体のように拡散し、液体のように流動する、形のないエネルギー。

「普通のコップ(魔核)に、無理やり水を詰め込んでも、溢れるだけだ…」

 では、どうする?

「…そうだ!」


 ユリウスの口元に、面白いゲームを見つけた時のような、不敵な笑みが浮かんだ。

「水を『氷』に変えてしまえばいいんだ!」

 液体よりも固体の方が、同じ質量でも体積を小さく、そして安定させられる。

 得意の氷魔法からの連想で、彼はとんでもなく大胆で、そして危険極まりない荒業を思いついた。


 体内に取り込んだ、流動的な魔素。それを、一度、自身の魔法によって極低温状態にまで冷却し、「凍結」させる。そして、相転移を起こすことで、高密度の『魔力結晶』へと変質させるのだ。

 液体である魔力を、一度「固体化(結晶化)」させてから、魔核に保存する。

 それは、この世界の魔法の歴史のどこにも記されていない、前代未聞のアプローチだった。

(いける!魔力を結晶化させて魔核に取り込み、取り出す時に液体に戻すことができれば完璧じゃないか?)

 ユリウスは、自らの天才的な発想に、満足げに頷いた。


 ◇


 翌日の午後。ユリウスは、誰にも邪魔されないよう、自室に鍵をかけると、ベッドの上であぐらをかいて座った。

 一歩間違えれば、自分の魔核を内側から凍結させ、再起不能どころか、命に関わるかもしれない超危険な自己実験。だが、彼の辞書に「恐怖」や「躊躇」という言葉はない。「退屈」よりは、遥かにマシだった。

「まずは、指先の魔力からだ」


 慎重に、右手の指先に集めたごく微量の魔素に、氷の魔法をかけるイメージを集中させる。

 ちりり、と。指先が、鋭い冷気に刺されたように痛む。体内の、温かい川のようだった魔力の流れが、指の先で急激に温度を失い、動きが鈍くなるのが分かった。

(…くっ、痛えな。だが、確かに、魔力が凝縮していく感覚がある…!)

 指先の皮膚の下で、魔力がシャーベット状に固まっていく、奇妙な感覚。彼は、その感覚を頼りに、少しずつ、少しずつ、凍結させる魔力の量を増やしていく。

 それは、繊細で高度な魔力制御を要求される作業だった。体内の魔力を凍らせるための氷魔法と、凍らせた魔力を安定させるための風魔法。二つの系統を、彼は同時に、完璧にコントロールしなければならない。


 数時間、彼は食事も忘れて、その危険な遊びに没頭していた。

 そして、ついに…

(できた…!)

 彼の指先で、米粒ほどの大きさの、完全に固体化した『魔力結晶』が生成されたのだ。それは、彼の体内にありながら、まるで小さな宝石のように、硬質で、安定した存在感を放っていた。

「ははっ、やっぱり俺は天才だな!」


 成功に気を良くしたユリウスは、徐々に大胆になっていく。今度は、腕一本分の魔力を、一気に結晶化させてみようと試みる。

 ーーーしかし


「―――ぐっ…!」

 腕に集めた膨大な魔力を、一気に冷却しようとした瞬間、凄まじい悪寒が、彼の背筋を駆け上がった。

 まるで、体の芯に、直接氷の杭を打ち込まれたかのような、激しい痛みと冷気。自分の血液が、急速に凍りついていくような錯覚に陥る。

(まずい…!制御しきれない…!)

 暴走した冷気が、魔力の奔流を逆流し、彼の魔核へと向かっていく。魔核が、凍傷を起こしかけていた。呼吸をするたびに、吐く息が真っ白に凍る。


(面白いじゃ…ないか…!これが、ルチアの言ってた、『死ぬ気』ってやつか…!)

 朦朧とする意識の中、ユリウスは、不敵に笑おうとした。

 だが、彼の体は、もはやその意志に応えることはできなかった。

 視界が、急速に暗転していく。

 彼は、ベッドの上で、静かに、そしてゆっくりと、横向きに倒れ込んだ。その体は、まるで冬の朝の窓辺のように、白い霜で薄く覆われていた。


 兄アデルが、弟の気配が長時間動かないことに異変を感じ、部屋に駆けつけてくる、数分前のことだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩

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