天使様、魔力圧縮理論で鼻血を出す
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グレイスフィールド家の屋敷では、メイドのルチアが発見した「魔力圧縮」という未知の技術が、三人の兄弟の間で一大ブームとなっていた。
「すごい!すごいですよ、ルチア!もう一度、あの木の幹を駆け上がってみてください!」
レオンのキラキラした瞳のリクエストに応え、ルチアは
「え、ええと…こうですか?」
と、再び凄まじい身体強化で庭の樫の木を駆け上がってみせる。その人間離れした光景を、アデルとユリウスも興味深そうに見つめていた。
「なるほどな…。魔核に蓄えられた魔素を高濃度に圧縮することで、消費魔力に対する魔法効果を飛躍的に高める、か…。理論は分かるが、実際にどうやるんだ?」
ユリウスが、顎に手を当てて唸る。
「ルチア。どうすれば、君のように魔力を圧縮できるんだ?コツを教えてくれ」
アデルの真剣な問いに、ルチアは枝の上で困ったように首を傾げた。
「こ、コツですか…?ええと…その…『死ぬ気でやる』、ですかね…?」
「「「…………」」」
子供の頃、魔素過多症で死にかけていた彼女は、文字通り、生きるために無我夢中で魔力を圧縮する術を身につけた。そのため、彼女自身も、その具体的な方法論を全く理解していなかったのだ。
「参考にならねーよ!」
ユリウスが、ばっさりと切り捨てる。
「どうやら、これは我々自身で、それぞれの方法を見つけ出すしかなさそうだな」
アデルの言葉に、兄弟たちの探究心に火がついた。
「俺たちの場合、ルチアと違って、体に取り込める魔素の量は、魔核の大きさに比例しているのが普通だ。つまり、今ある魔核の中の魔力を、まず圧縮する。そうすれば、魔核の中に空きができる。そこに、さらに外部から魔素を取り込んで、また圧縮する…。この繰り返しで、魔核内の魔力総量を増やせるはずだ」
ユリウスが、天才的な頭脳で理論を構築する。
「よし!では、それぞれで試してみようじゃないか!誰が一番最初に、この新技術をマスターできるか、競争だ!」
アデルが、弟たちへの対抗心を燃やす。
こうして、グレイスフィールド家三兄弟による、「魔力圧縮」への挑戦が始まった。
◇
レオンは、ただ闇雲に力を込めて魔力を圧縮しようとはしなかった。レオンは、和江おばあちゃんから受け継いだ、プログラミングの知識をフル回転して、圧縮方法を考える。
レオンは、この世界の魔法の理を、無意識のうちにコンピュータのシステムに置き換えて理解していた。
(魔力の流れは、プログラムコードのようなものだ。そして、僕たちの魔核は、その情報を蓄えるためのデータストレージ…記憶装置みたいなもの。そうすると、ルチアの魔力は、まるで超高効率で圧縮されたZIPファイル!)
レオンは、自室で羊皮紙を広げ、独自の理論を書き連ねていく。
「今の僕たちの魔力は、たくさんの無駄な情報…例えば、余白や重複したデータを含んだまま、大きな容量を使ってしまっている状態。だから、魔核がすぐにいっぱいになってしまう」
「でも、ルチアの魔力は、その無駄が極限まで削ぎ落とされ、必要な情報だけが綺麗に整列している。だから、同じ魔核の大きさでも、何倍もの情報…つまり、魔力量を保存できるんだ!」
レオンは、魔力そのものの『構造』を、ソフトウェア的に書き換えることを思いつく。
(魔素の粒子と粒子の間にある、無駄な隙間をなくす。そして、同じ構造を持つ魔素の配列があれば、『魔素A×3』『魔素B×5』みたいに、最も効率的な形で整列させる…)
レオンの頭の中で、独自の「圧縮アルゴリズム(術式イメージ)」が、猛烈な勢いで構築さえていく。それは、もはや魔法の訓練というよりは、高度なプログラミング作業に近かった。
数時間後。
レオンは、完璧な「魔力圧縮理論」を完成させた。
(よし、できた!この術式イメージを使えば、僕の魔力も、ルチアさんみたいに、高効率で圧縮できるはずだ!)
目を閉じ、完成したばかりの圧縮アルゴリズムを実行に移してみる。体内の魔力を、構築した術式イメージに従って、再配列させていく。
しかし。
「―――うっ!」
理論通りに魔力を圧縮し始めると、レオンの鼻から、つーっと、一本の赤い線が流れ落ちる…
(あれ…?鼻血…?)
同時に、頭を内側から万力で締め付けられるような、激しい頭痛が彼を襲った。
(もしかして…!僕の魔核が、この圧縮処理術式の高負荷に、耐えきれない…?)
レオンの理論は完璧だった。しかし、それを実行するための「器」である、彼の8歳児の魔核は、あまりにも未熟だったのだ。
「もう少しだけ…あと、少し…!」
それでも、レオンは諦めない。痛みに耐えながら、彼は最後の力を振り絞り、魔力の圧縮を続けようとする。
しかし、その無茶が、彼の小さな体の限界を超えて、視界が、ぐにゃりと歪む。
「あれ…」
彼は、短い声を漏らすと、椅子から崩れ落ち、そのまま意識を手放してしまった。
静まり返った部屋に、ぱた、ぱたと、彼の鼻から落ちる血の滴の音だけが、小さく響いていた。
『レオン様!?』
足元で丸くなっていたモリィが、主の異変に気づき、悲鳴のような声を上げたのだった。
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