完璧王子と天賦の王子、共闘する
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今回も、第一王子とアデル兄様回です!
「ひっ…!」「お、オークだと!?なぜ、こんな森に…!」
王子の取り巻きたちが、情けない悲鳴を上げる。腰を抜かしてその場にへたり込む者、恐怖のあまり目を固く閉じて祈りを捧げ始める者。彼らは完全に戦意を喪失し、ただ震えるだけの置物と化していた。
しかし、アデルとジークハルトは先程までの険悪なムードは嘘のように消え去り、その瞳には、目の前の脅威を排除するという、共闘する戦士としての、冷徹で冷静な光が宿っていた。
二人は、言葉もなく、ただ視線を交わし、強く頷き合った。王国の未来を担う二人の若獅子が、共通の敵を前に、その牙を剥く。
「全員、私の後ろへ下がれ!私が相手をする!」
王子として、そしてこの場の指揮官として、ジークハルトが即座に前に出た。その声には、先程までの苛立ちはなく、民を守るべき王族としての威厳が満ちている。
アデルもまた、剣を抜き、ジークハルトの側面を固めるように構えた。今は、口論をしている場合ではない。
「グオオオオオオッ!」
オークが、咆哮と共に、その巨体に似合わぬ俊敏さで突進してくる。狙いは、一番前に立つジークハルトだ。
「―――遅い!」
ジークハルトの剣が、白銀の閃光となってオークを迎え撃つ。王家に伝わる、流麗で、一切の無駄がない剣技。
しかし…
ガキンッ!と、硬いものに阻まれるような、鈍い音が響いた。ジークハルトの完璧な一撃は、オークの分厚く、硬質化した皮膚と脂肪層によって、その威力をほとんど殺されてしまったのだ。
「なっ…!?」
「グルアアア!」
浅い傷に怒り狂ったオークが、今度は無造作に棍棒を振り回す。それは、技などというものではない。ただ、圧倒的な質量と腕力による、破壊の奔流。
ジークハルトは、その嵐のような攻撃を、紙一重で避け、受け流し続けるが、その顔には徐々に焦りの色が見え始めていた。オークの棍棒が地面を叩くたびに、大地が揺れ、衝撃波が彼の体力を奪っていく。
一瞬の隙を突かれ、オークの棍棒が、ジークハルトの剣を横から弾き飛ばした。
「しまっ…!」
体勢を崩し、がら空きになるジークハルト。そこへ、オークの、とどめの一撃が、風を唸らせながら、頭上から振り下ろされる…
絶体絶命!誰もが、王子の死を覚悟した、その瞬間。
「―――殿下!!」
アデルが、叫びと共に、ジークハルトの体を、力任せに突き飛ばしていた。
次の瞬間、ゴッ、と。硬い木がへし折れる音と、熟した果実が潰れる音が混じり合ったような、おぞましい音が響き渡った。
オークの棍棒は、ジークハルトの代わりに、アデルの体を、まともに叩きつけていた!
「ぐっ…!」
アデルの体は、まるで木の葉のように宙を舞い、数メートル先の樫の木に激しく叩きつけられると、ぐったりと地面に崩れ落ちた。
「アデル…!?」
ジークハルトは、突き飛ばされた先の地面で、呆然と、その光景を見ていた。
「グレイスフィールド卿が…!」「死んだ…!あんな一撃をまともに食らっては、いくらなんでも…!」
取り巻きたちが、絶望の声を上げる。
オークは、邪魔者を排除したことに満足したのか、ふん、と鼻を鳴らすと、再び、最大の脅威であるジークハルトへと、その醜悪な顔を向けた。
ジークハルトは、動けなかった…
(私のせいで…アデルが…死んだ…?)
その事実に、彼の思考は完全に停止していた。
オークが、勝利を確信し、ジークハルトへと、ゆっくりと歩み寄る。
「…っ…く…」
樫の木の根元で、動かなくなっていたはずのアデルの体から、微かな呻き声が漏れた。
そして、ゆっくりと、ありえないほどの光景が、そこにいる全員の目の前で起こる。
ーーアデルが、軋むような音を立てながら、立ち上がったのだ!
彼は、自分の肩や背中をさすりながら、忌々しげに呟いた。
「…さすがに、衝撃までは殺しきれないか。骨が軋むな…」
彼の体には、おびただしい打撲痕と土埃がついているが、その瞳には、まだ闘志の火が宿っていた。
アデルは、立ち上がると、冷静に状況を分析する。
(このオーク、Cランクの中でも上位個体、変異個体か?殿下の剣技でも仕留めきれんとなると、中級魔法では時間がかかりすぎるな…)
(ここで殿下に万が一のことがあれば…我がグレイスフィールド家の責任問題となる。それ以前に、エリアス王子が悲しむ。そして、レオンたちが生きるこの国の未来が揺らぐ。それは、断じて許容できん)
彼の脳裏に、愛する弟たちの笑顔が浮かぶ。
(…仕方ない。学院の規定違反は承知の上。罰は、後でいくらでも受けよう。だが、今は、最短かつ、最も確実に、この脅威を排除する)
彼の決意は、固まった。その瞳から、感情の色が消える。
そこにいるのは、もはやただの学生ではない。目的のためには、手段を選ばない、グレイスフィールド家の次期当主の顔…
「―――煉獄の壁!!」
アデルの口から、明確な意志を持って、上級魔法の詠唱が紡がれる。
それは、もはや魔法というより、天変地異。地面が裂け、巨大な、深紅と黒の炎の壁が、天を突く勢いで噴き上がった。その壁は、瞬時にオークを囲い込み、逃げ場のない、灼熱の闘技場を形成する。
「なっ…!上級魔法だと!?」
ジークハルトも、取り巻きたちも、そのあまりの熱量に、後ずさるしかなかった。
アデルは、炎の壁の中心で、静かに剣を構えた。
「―――自己燃焼」
その剣に、主の意志に応えるかのように、深紅の炎がまとわりつく。
彼は、走らない。ただ、一歩、前に踏み出した。
その姿が、陽炎のように揺らめいたかと思うと、次の瞬間には、オークの懐に、音もなく入り込んでいた。
オークは、反応すらできなかった。
アデルは、ただ、一閃。
ーーー炎をまとった剣を、水平に薙いだ。
オークの太い首から、すっと、一本の赤い線が走る…
次の瞬間、オークの頭部は、胴体から滑り落ち、煉獄の壁に触れた瞬間に、塵となって蒸発した。
巨体は、主を失い、どしん、と音を立てて、地面に崩れ落ちる…
煉獄の壁が、すうっと、幻のように消えた。
そして、森に静寂が戻った。
アデルは、その中心で、静かに立っていた。
彼は、すっと、ジークハ-ルトの方へ向き直り、何事もなかったかのように、完璧な礼をした。
「殿下。脅威の排除、完了いたしました。お怪我はございませんか?」
その、あまりにも冷静な報告に、ジークハルトは、言葉を失う…
確かに、自分の代わりに、あの鋼鉄でできているかのような棍棒に殴りつけられ、吹っ飛んでいった男…
それが、ゾンビのごとく立ち上がり、上級魔法を二発も使って打ち滅ぼした…
それが、今、自分に向かって、礼をとっている?現実とは思えない…
だが、その完璧な微笑みが、次の瞬間、ふっと霧のように消えた。
アデルの瞳から光が消え、糸が切れた人形のように、ゆっくりと、しかし何の抵抗もなく、前のめりに倒れ込んでいく。
「アデル!」
ジークハルトの、悲痛な叫び声が、静まり返った森の中に、こだました。
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