天使様、魔法のいろはとモリィの温もりを知る
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長兄アデルと次兄ユリウスが、王都の学院へと旅立ってから、数日が過ぎた。
あれほど賑やかだった屋敷は、まるで祭りの後のように、しんと静まり返っている…
レオンは、日々の「カッコいい男計画」を健気にこなしてはいたものの、その小さな胸には、ぽっかりと大きな穴が空いていた。
食事の時間、隣にいたはずのユリウスの席は空席で、もう「つまんねー」というぼやきも聞こえない。訓練場へ行っても、完璧な剣技を見せてくれたアデルの姿はない。
分かってはいたことだが、兄たちのいない毎日は、思った以上に、寂しいものだった。
その夜、レオンは自室のベッドで、どうしても寝付けずにいた。
そんな主の様子を察したのか、足元で眠っていた使い魔のモリィが、むくりと体を起こす。
『レオン様、眠れないの?』
「…ううん、大丈夫だよ、モリィ」
強がってみせるレオンの目に、涙が浮かんでいる…
モリィは、何かを決意したようにベッドを降りると、
『待ってて!』と外へ出ていってしまった。
◇
数時間後。
レオンは、目の前の光景に、呆然としていた。
見るも無残な、まるで羊の毛刈りに失敗したかのような、まだら模様のみすぼらしい姿になったモリィが、得意げな顔で立っていて、その口には、自分の毛を不格好に詰め込んだ、いびつな形の枕がくわえられている。
「モリィ!どうしたの?」
『毛、齧ってとったー!枕作ったの!これで眠れるよ!』
その、あまりにも痛々しく、そして不器用な優しさに、レオンは笑っていいのか泣いていいのか分からず、ただ、まだら模様になったモリィを、ぎゅっと抱きしめた。
「…ありがとう、モリィ。すっごく、嬉しいよ」
◇
翌朝、失敗した五分刈りのような、悲惨なモリィの姿に、両親は絶句する…
「どうした!何がどうしてこうなった!」
『レオン様に、枕作ったの!寂しくて、眠れないみたいだったから!僕の毛で作った!』
答えを聞いて、さらに絶句である。
(え?この生物は、魔犬?じゃなくて精霊だよな?いや、精霊代理か?…僕の毛で…まくら…?)
マルクは、絶賛、混乱中だ。
母エレナは、息子の落ち込み様が、使い魔をみすぼらしい姿に変えてしまうほど深刻だったのだと、少しだけ反省した。
(そういえば、魔法適性検査の後、しつこく『魔法を教えてくれ』って言ってたのに、アデルたちが王都へ行ってから、何も言わなくなってたわね…年末年始で忙しいから「また、時間ができたら」って言い聞かせてたけど…)
「レオン。それでは、母様が、本格的な魔法の授業をしてあげましょう。」
その一言に、レオンの心は、一気に急浮上した。
「本当ですか、母様!?」
「ええ。約束だもの。あなたの寂しさが、少しでも紛れるのなら」
こうして、レオンの本格的な魔法修練の幕が、唐突に、そして使い魔の断腸の思い(?)によって、開かれることになった。
◇
「いいこと、レオン。魔法は、ただ闇雲に力を放てばいいというものではないわ。まずは、その理を、しっかりと学ぶことが大切よ。まずは復習ね。」
エレナの研究室兼温室。机の上には、たくさんの魔法の解説書が広げられていた。
エレナは、大きな系統樹のような図を見せながら、魔法の基本を説明していく。
魔法の源が地脈と精霊にあること、発動には古代語の詠唱が必要なこと、そして、その力は自分の中にある魔核から生み出されること。
「魔法には、大きく分けて、この六つの系統と、それらを補助する魔法があるのは知ってるわね」
エレナは、各系統の初級魔法を、実演を交えながら説明し始めた。
「例えば、火焔系の基本は『火点し』ね」
彼女がそう言って指先に意識を集中させると、ぽっ、と蝋燭の灯火ほどの優しい火が灯った。
「わあ!便利ですね!これがあれば、ロウソクがなくても本が読めます!」
「そうよ。そして、水氷系の『洗浄』は、お洗濯が楽になるわ」
エレナが汚れた布に手をかざすと、綺麗な水流が現れ、あっという間に汚れを洗い流していく。
レオンは、その光景に目を輝かせた。彼の頭の中では、和江おばあちゃんの主婦的思考が、フル回転を始めていた。
(『保温』があれば、ご飯が冷めないようにできる…)
(『埃払い』があれば、大掃除が、めちゃくちゃ楽になる…)
(『修復』で、繕い物が一瞬で終わっちゃうよ…!)
レオンには、魔法が、戦うための力である前に、生活を豊かにするための、素晴らしい知恵の結晶に見える。
エレナは、そんな息子の純粋な感動を、微笑ましく見守っていた。
「そして、魔法を発動させるには、『魔力調節』が何よりも重要になるわ」
エレナは、魔法ごとに定められた基本的な消費魔力量があるが、実際の消費量は、術者の魔力調節の技術に委ねられることを説明した。
「調節が下手だと、威力が足りなくてしょぼい魔法になったり、逆に、魔力を込めすぎて、大爆発を起こしてしまったりすることもあるの。常に、自分の中の魔力の流れを意識して、必要な分だけを、正確に引き出す。これが、一流の魔法使いへの第一歩よ」
一通りの座学を終え、いよいよ実践の時が来た。
「あなたの適性は、光と風。まずは、この二つの魔法を試してみましょうか」
エレナに促され、レオンはゴクリと唾をのんだ。
まずは、光癒系の初級魔法、『灯り』。
【手のひらに、優しき光よ…『ライト』!】
レオンは、教わった通りに古代語で詠唱し、魔核から魔力を引き出し、手のひらへと送るイメージを描く。
すると、彼の手のひらに、ぽんっ、と大きな音の割には、小さな光が灯っていた。それは豆電球ほどの、頼りない、か細い光だ。
「うーん…魔力が足りないみたいだ…」
「いいえ、逆よ、レオン。魔力を込めすぎているの。光を『大きく』しようと意識するあまり、力が入りすぎて、魔力が霧散してしまっているのよ。もっと優しく、そっと、魔力を送り出してごらんなさい」
母のアドバイスを受け、レオンは再び挑戦する。
今度は、手のひらで小さな精霊を撫でるような、優しい気持ちで。
すると、彼の掌から、ふわりと、部屋全体を明るく照らし出すほどの、温かく、そして力強い光が放たれた。
「わあ!できました、母様!」
得意満面の笑みを浮かべるレオン。
次は、風系の初級魔法、『聞き耳』。
【風よ、遠くの声を運べ…『ウィスパー・ウィンド』!】
レオンが詠唱すると、彼の耳元で、そよ風がさわさわと鳴る音がした。
「どう?何か聞こえる?」
「いえ…ただの、風の音です…」
「これも、魔力の調節よ。風を『起こす』のではなく、風の流れに、自分の魔力を『乗せる』イメージで」
レオンは、再び精神を集中させた。
すると、風の音の中に、微かに、別の音が混じり始めた。
「…今日のレオン様も、本当に天使のように可愛らしかったわねぇ」
「ええ、本当に。あの方がいらっしゃるだけで、屋敷の空気が浄化されるようですわ」
それは、庭で洗濯物を干している、メイドたちの話し声だった。
「ひゃっ!?」
レオンは、思わず顔を真っ赤にして、魔法を解いた。
「ふふ、上出来よ、レオン」
エレナは、そんな息子の姿を、優しく見守っていた。
「あなたの適性は光と風だけど、まずは、全部の属性の初級魔法を使いこなせるように鍛錬しなさいね。」
母から与えられた、新たな課題。
レオンの心から、魔法という新たな一歩に夢中になり、兄たちがいない寂しさは、すっかり吹き飛んでしまった。
「はい、母様!僕、頑張ります!」
レオンの「カッコいい男計画」は、ついに、本格的な魔法修練という、輝かしいステージの大きな一段を上がったのだった。
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