天使様、舞踏会で誓われる
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グレイスフィールド家が主催する新年のパーティー。
子供用のタキシードに身を包んだレオンは、壁際で息を潜めている。
そして、レオンと同じく広間の柱の影で、一人の少年が苦悩に満ちた表情でグラスを握りしめていた。
ヴァインベルク伯爵家の嫡男、マグナスである。
彼の視線は、一点に…デザートテーブルの近くに立つ、レオンの姿に釘付けになっていた。
(あれは…昨日の女神様…?でも、タキシードを着ている…?一体、どういうことなんだ…?)
昨日、サンルームで見た、天上の美しさ。そして今、目の前にいる、天使のような少年。同一人物であることは分かる。だが、その性別が、彼の頭を混乱の渦に叩き込んでいた。
そこへ、彼らの父親たちがやってきて二人を引き合わせた。
「マグナス、こちらがグレイスフィールド侯爵家の三男、レオン様だ。ご挨拶なさい」
「レオン、こちらはヴァインベルク伯爵家のご嫡男、マグナス様だよ」
三男。その言葉が、マグナスの頭に突き刺さる。 レオンは、「カッコいい男」として完璧な挨拶をすべく、練習通り、少しだけ低い声で、堂々と名乗りを上げた。
「お初にお目にかかります、マグナス様。グレイスフィールド家三男、レオン・フォン・グレイスフィールドです」
その完璧なお辞儀、その美しい所作。しかし、その全てが、マグナスの混乱を加速させる…
(三男…?男の子…?嘘だ、そんなはずはない…!この可憐さが、男であるはずがない…!)
彼は、しどろもどろに挨拶を返しながらも、何も聞けず、ただレオンの顔を凝視することしかできなかった。
◇
そんな中、パーティーの主役の一人であるアデルは、うんざりしていた。
次期侯爵にして、ロドエル魔導学院の首席。完璧な容姿と経歴を持つ彼を、若い令嬢たちが見過ごすはずもない。
「アデル様、私と一曲、踊っていただけませんこと?」
「まあ、お姉様ったら。次は私の番ですわ!」
四方八方から伸びてくる、甘い声と、誘いの手。
(やかましい…)
アデルの内心は、その完璧な微笑みとは裏腹に、冷え切っていた。
(この者たちの下らないお喋りは、私の貴重な時間を奪うだけでなく、愛すべき弟の姿を、私の視界から遮ってしまう…!)
その、カオスな光景の一部始終を、少し離れた場所から、最高の笑顔で見つめている男がいた。ユリウスである。
(アデルも大変だなぁ。それに、レオンのやつ、すごい顔で壁の花になってるよ。せっかくのパーティーなのに、退屈そうだ)
彼の天才的な頭脳が、この状況を最大限に面白くするための、最高のシナリオを瞬時に弾き出した。
(そうだ。兄さんをあの蠅の群れから救出し、レオンの退屈を紛らわせ、ついでに、あのマナー教師に叩き込まれたダンスとやらを、皆の前で披露させてやろう。一石三鳥じゃないか!)
ユリウスは、獲物を見つけた猫のように、にやりと笑うと、レオンの元へと歩み寄った。
「やあ、レオン。『カッコいい男』になるんじゃなかったのかい?そんな壁際で、しょぼくれていてどうするんだ」
「ユリ兄様…だって、僕はまだ…」
「いいかい?本当の『カッコいい男』ってのはな、どんな状況でも、スマートに楽しむものさ。ほら、僕が手本を見せてやる。一曲、付き合えよ」
ユリウスは、レオンが断る隙も与えず、その手を掴んだ。
「え、ええ!?でも兄様、僕たちは二人とも男ですよ!?」
「はは、固いこと言うなよ。兄弟の余興さ。それとも、怖いのかい?」
挑発するような兄の言葉に、レオンのプライドがちくりと刺激される。
(怖いなんてこと、ない!『カッコいい男』は、挑戦から逃げない!)
「…分かりました。お受けします!」
レオンがそう答えると、ユリウスは満足げに頷き、弟をダンスフロアの中央へと導いた。楽団が、新たなワルツを奏で始めた。
ユリウスのリードは、軽やかで、少しだけ挑発的な、しかし完璧なものだった。
レオンは、戸惑いながらも、あの二ヶ月間、体に叩き込まれたステップを、無意識のうちに踏んでしまう。そう、忌まわしき、女性パートのステップを!
その光景は、周囲の目には、奇跡のように映った。
完璧なエスコートを見せる、美しい兄。
そのリードに、まるで羽のように軽やかに、そして流れるように合わせて舞う、天使のように愛らしい弟…
寸分の狂いもなくシンクロし、まるでずっと昔から踊り続けてきた、運命のパートナーのような、二人の舞に、誰もが、うっとりと見惚れている。
その光景を、マグナスは、柱の影から、打ち震えながら見つめていた。
(―――やはりだ!!!)
彼の心の中で、全ての疑念が、一つの、あまりにもロマンチックな確信へと変わった!妄想とも言う。
(男の子のわけがない…!あんなに可憐に、あんなに美しく舞うことができるなんて…!)
(そして、あのステップ…!あれは、間違いなく女性パートの動きだ!なぜ、男の子として育てられている彼が、あれほど完璧に女性パートを踊れるというのだ!?)
(答えは一つしかない…!彼は、本当は女の子なのだ!何らかの、深く、悲しい事情…!ああ、なんという悲劇の姫君なのだ!)
そして、アデルは、ユリウスとレオンのダンスに夢中になった令嬢の群れから解放され、ホッと胸を撫で下ろすと同時に、二人のダンスを、複雑な表情で見つめていた。
(…美しい。我が弟たちの舞は、まさしく芸術だ。だが…!)
(ユリウスめ…!私の天使のその手を取り、腰に手を回し、リードするとは…!…うらやましい!)
彼の内心では、弟たちの舞への感動と、ユリウスへの嫉妬が渦巻いていた。
曲が終わり、万雷の拍手の中、ユリウスとレオンが優雅にお辞儀をする。
その瞬間を狙い、マグナスは、決意を固めた足取りで、真っ直ぐにレオンの元へと進み出て、レオンの手を、両手で、ぎゅっと握りしめた。
「…!」
レオンも、ユリウスも、そして少し離れた場所から殺気を放つアデルも、突然の乱入者に驚き、目を見開く。
マグナスは、真剣な、そして少しだけ涙ぐんだ瞳で、レオンを真っ直ぐに見つめると、はっきりとした声で宣言した。
「君が、どのような事情を抱えているのかは、今は問わない。だが、私は、君の本当の姿を知っている!もう、一人で悩むことはない!」
彼は、一度息を吸い込むと、はっきりと、こう告げた。
「―――君は、僕が守る!」
レオンは、ただただ、呆然である…
(守る?誰が?誰を?何から?)
その宣言に、アデルの眉がぴくりと動き、その手は静かに剣の柄へと伸びていく。
(私の天使を、私以外の誰が守ると?この虫けらは、一体何を言っているのだ?)
そして、全ての元凶であるユリウスは、口元を手で覆い、必死で笑いをこらえるのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩
この後、マグナスは、父親にメチャメチャ怒られますが、あまりに真剣に父が怒るので、
「なるほど、これは公然の事実だから、公の場で、女神が女性だとわかるような言動はしてはいけなかったのだな…やはり、彼女には悲しい事情が…俺が、守る!」
と再度、思っています。要するに、誤解は解けませんでした。
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