天使様、チート能力を疑われる
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誕生日から数日後の、よく晴れた日。
グレイスフィールド家の馬車は、領内にある最も大きな教会へと向かっていた。
レオンが、正式な魔法適性検査を受けるためである。
「レオン、緊張しているか?」
向かいの席に座るアデルが、心配そうに声をかける。
「いいえ、アデル兄様。どちらかと言えば、武者震いがします!」
レオンは、小さな拳を握りしめ、目を輝かせた。
(ついに、この時が来た…!僕の属性が分かれば、『組紐屋のリョウ』への道が、はっきりと見えるはずだ!)
馬車の中は、家族それぞれの思惑が渦巻いていた。
父マルクは、「(また何か、規格外な結果が出なければいいのだが…)」と、早くも胃のあたりをさすっている。
母エレナは、「(あの子は、一体どんな輝きを見せるのかしら。興味深いわ)」と、研究者の目で息子の検査を楽しみにしていた。
ユリウスは、「(まあ、面白そうだから見に行ってやるか)」と、窓の外を眺めながら退屈を紛らわしている。
そして、レオンの足元では、使い魔のモリィが『お出かけ!お出かけ!』と、幸せそうに尻尾を振っていた。
やがて、一行は、精霊たちを祀る、荘厳な石造りの教会に到着した。
白髪の温和な神官長に迎えられ、一行は教会の最も奥にある『洗礼の間』へと通される。部屋の中央には、祭壇が置かれ、その上に、赤子ほどの大きさの、完璧な球体の水晶玉が鎮座していた。あれが、魔力に反応して、持ち主の属性を色で示すという『鑑定の水晶』だ。
「さあ、レオン様。恐れることはありません。水晶に、そっと両手を触れてごらんなさい」
神官長に促され、レオンはこくりと頷いた。
彼は、家族が見守る中、一歩、また一歩と祭壇へ進む。そして、深呼吸を一つすると、その小さな両手を、ひんやりとした水晶玉の表面に、そっと置いた。
その、瞬間だった。
水晶玉が、カッ、と目も眩むほどの光を放った。
赤、青、緑、茶、金、紫―――火、水、風、土、光、闇。
六つの属性全ての色が、凄まじい勢いで水晶玉の中を渦巻き、混ざり合い、まばゆいばかりの虹色の光となって、洗礼の間全体を照らし出したのだ!
「こ、これは…!なんと…!」
神官長は、あまりの光景に、持っていた聖書を取り落とした。
「ぜ、全属性だと!?そんな馬鹿な!伝説の中にしか存在しないはずの、『万物の愛し子』が、今ここに…!おお、精霊よ!」
その場は、大騒ぎになった。
「ぜ、全属性…?また、面倒なことに…」
マルクが、頭を抱えて崩れ落ちそうになる。
「まあ、素晴らしいわ!あの子の魔核の構造は、一体どうなっているのかしら!ぜひ研究してみたいわ!」
エレナが、目を爛々と輝かせている。
「やはりだ!我が弟レオンこそ、この時代を導く光!全属性に愛されるとは、なんと完璧な存在なのだ!ああ、レオン!」
アデルが、その場でひざまずき、感動の涙にむせび泣いている。
ユリウスだけが、その熱狂の輪から一歩引いて、冷静に状況を観察していた。
ユリウスは、すっと立ち上がると、祭壇へと近づき、騒いでいる神官長の足元を指さした。
「ねえ、あれ」
全員の視線が、その指の先へと集まる。
祭壇の、水晶玉が置かれた台座の影。そこに、白いモフモフの塊…モリィがいた。
彼は、祭壇に置かれたきらきら光る大きな玉を、最高の遊び道具だと思ったらしい。その湿った黒い鼻先を、水晶玉の表面に、ぐりぐりと、それはもう楽しそうに押し付けていたのだ。尻尾は、喜びのあまり、ちぎれんばかりに振られている。
「「「…………」」」
熱狂に包まれていた洗礼の間に、気まずい沈黙…
神官長が、瞬きを繰り返す。マルクは、安堵なのか絶望なのか分からない、深いため息をついた。
「…あー、神官長殿。申し訳ないが、一度、あの…犬を、水晶から引き離してから、再度、確認いただけるかな」
『えー、この玉、遊べないのー?つまんないのー』
レオンが「モリィ、後でアメちゃんあげるから」と説得し、不満げな使い魔をなんとか水晶玉から引き離す。
「…で、では、レオン様。もう一度、お願いいたします」
気を取り直した神官長に促され、レオンは再び、水晶玉に手を置いた。
今度こそ、水晶玉は静かだった。
レオンの手が触れた場所から、二つの、しかし強く、鮮やかな光が、ゆっくりと水晶玉の内部に満ちていく。
一つは、太陽の光のように、温かく、清らかな黄金の光。
もう一つは、晴れ渡る空のように、どこまでも澄み切った翠の光。
そして、その二色の光の縁に、他の属性の色が、ほんのりと、おぼろげに揺らめいていた。
「(あ、普通…)よかったですな!光と風!二つの属性に、非常に高い適性をお持ちです!そして、他の属性にも、微弱ながら反応がある。これは、初級魔法であれば、修練次第で全ての属性を扱えるようになる可能性をも秘めた、大変に恵まれた才能ですぞ、レオン様!」
その結果に、マルクは「(全属性でなくて、本当に良かった…)」と、心底安堵の息を漏らした。
アデルも、「光と風…!なんと、我が弟に相応しい、高貴な属性なのだ!」と、すぐに立ち直って再び感動している。
レオン自身も、その結果に大満足だった。
(光は、癒やしの力!風は、素早さ!これなら、『組紐屋のリョウ』みたいに、人知れず素早く悪の元へ駆けつけて、傷ついた人を癒やすことができるかもしれない!完璧だ!)
こうして、レオンの魔法適性検査は、一時の大混乱を経て、無事に幕を閉じた。
帰り際、神官長が、畏敬の念のこもった眼差しで、レオンの足元で欠伸をするモリィを見つめ、マルクにそっと囁いた。
「侯爵様…あちらの神獣殿こそが、『万物の愛し子』だったようですな…」
マルクは、何も答えず、ただ、また痛み出した胃をさするしかなかった。
グレイスフィールド家の真のチート能力保持者が、お菓子をねだって尻尾を振っている…
レオンの『カッコいい男』への道は、ついに、魔法という新たな、そして広大な扉を開いたのであった。
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