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天使様、初めての森と聖域の伝説

読んでいただきありがとうございます!火・金・日更新予定になります♩

 長兄アデルがグレイスフィールド領に帰還し、屋敷が賑やかさを取り戻して数日が過ぎた頃。

 

 レオンは、機は熟したと判断した。

 夕食後の談話室。家族全員が揃っているのを見計らい、彼は兄という名の最強の援軍を伴って、再び両親に直談判を敢行した。

「父様、母様!森へ連れて行ってくださるというお約束、覚えていらっしゃいますでしょうか!」

 その隣では、アデルが「その通りです!弟との約束、果たしていただく時が来ましたな!」と、よく知らないくせに、完璧な笑顔で力強く援護射撃をする。


 マルクは、「うっ…」と顔を引きつらせた。まだ渋るそぶりを見せたが、もはや彼に逃げ場はない。

「私がレオンの護衛を務めます!このアデル・フォン・グレイスフィールドの全てを懸けて、弟の安全は保証いたします!ご心配には及びません、父上!」

「レオンは、約束通り、森で生きるための知識をしっかりと学んでいますわ。危険を学ぶだけでなく、それをどう避けるかを実践で教える良い機会です。あなたも、そう思いませんこと?」


 長男と妻からの二重の圧力に、マルクはついに白旗を上げた。

「…わ、分かった。だが、絶対に無茶はしないこと。ロイも護衛につける。いいね?」

「はい、父様!」

「面白そうだから、僕も行く」

 いつの間にか、ユリウスもちゃっかりと参加を表明していた。


 こうして、レオンの念願だった森への探検は、アデル、エレナ、ユリウス、レオン、そして護衛の騎士ロイという、ある意味、グレイスフィールド家の最強戦力を集めたパーティで決行されることになった。


 ◇


 翌朝。

 森の入り口に立ったレオンは、期待に胸を大きく膨らませていた。

 鬱蒼と茂る木々が、天蓋のように空を覆い、地面には木漏れ日がまだら模様を描いている。ひんやりとした湿った土の匂い、鳥や虫たちの鳴き声、そして、未知の気配。彼の五感を、初めて体験する本物の森の空気が優しく包み込む。

 そして、城内より遥かにたくさんの下級精霊たち。キラキラとした光がそこかしこに飛んでいる。レオンは森でもお話のできるお友達精霊ができるかも?と期待をどんどん膨らませていった。


 彼の背中には、薬草図鑑や採集用の小ナイフ、水筒などが入った、小さな背嚢が揺れていた。

「いいこと、レオン。森では、決して一人で行動しないこと。常に私の側を離れないように」

 エレナが、研究者の顔で厳しく注意を促す。

「レオン、私の後ろにいろ。どんな魔獣が出ても、この兄が全て斬り伏せてやる」

 アデルが、すでに抜き身の剣を手に、レオンの守護騎士気取りで周囲を警戒している。


 一行は、エレナを先導に、ゆっくりと森の奥へと足を踏み入れていった。

「レオン、見てごらんなさい。これが、先日教えた陽光花よ」

「わあ、本物は、図鑑で見るよりずっと綺麗ですね!」

 エレナは、前に教えた薬草の実物を見せながら、レオンに復習を兼ねて採集をさせていく。

「母様、この草は、揉んで汁を塗ると、虫除けの効果があるんですよ」

「あら、これは…ただの風切り羽根のはずだけど…」

「はい。でも、葉の裏にあるこの粘液に、虫が嫌う成分が含まれているんです」

 レオンが、和江おばあちゃんの知恵袋から引き出した知識を披露すると、エレナは「(本当に、この子は何者なのかしら…)」と、我が子の底知れない知識に改めて驚愕するのだった。


 レオンが薬草採集に夢中になっている間、ユリウスは早々に飽きて、ひょいひょいと木登りを始め、アデルはそんな弟たちから一瞬たりとも目を離さず、ロイはプロの護衛として、冷静に周囲の警戒を続けていた。和やかで、少しだけちぐはぐな、グレイスフィールド家らしい探検は、順調に進んでいるかのように見えた。


 その時だった。

「…?」

 レオンの耳が、茂みの奥から聞こえる、か細い鳴き声を捉えた。

 それは、彼が聞き慣れた下級精霊たちの喜びの声とは違う、明らかに苦痛に満ちた声だった。

(下級精霊たちの声とは違う…でも、誰かが、すごく苦しんでいる…!)

「母様、あっちから、誰かの鳴き声がします!」

 レオンが指さす方へ、一行は慎重に進んでいく。

 茂みをかき分けた先にあったのは、おぞましい光景だった。


 木の間に、粘着性の高い、白く濁った糸が幾重にも張り巡らされている。そして、その中心に、大きな耳を持つ、美しい銀色の毛皮に覆われたウサギのような生き物が、身動きが取れずに絡めとられていたのだ。

「いけません、レオン!あれはポイズンスパイダーの巣よ!」


 エレナが、鋭い声で警告を発する。見れば、巣の主であろう、毒々しい紫色の模様を持つ巨大な蜘蛛が、巣の上部から、捕らえた獲物ににじり寄ってきていた。

「私が蜘蛛を始末する!」

 アデルが、炎の魔力を剣にまとわせ、巣ごと斬りかかろうとした。

 しかし、その動きをエレナが制した。

「待ちなさい、アデル!あの捕らわれている子…よく見て!普通の魔獣ではないわ。体から発する魔力の色が、とても澄んでいる…。もしかしたら、精霊かもしれません」


 エレナの言葉に、レオンははっとした。

(助けなきゃ…!)

 彼は、必死で和江おばあちゃんの知恵袋を検索する。

(蜘蛛の糸…粘着性…そうだ!)

「母様!蜘蛛の糸は、油を塗ると、粘着力が弱まるはずです!」

「油…?」

「はい!その、母様がポーションを作る時に使う、蛇の抜け殻草!あの草には、油分が多く含まれていると、本で読みました!」

「!…ええ、そうよ!よく気づいたわね、レオン!」

 作戦は、即座に決まった。

「ユリウス!風魔法で、蜘蛛が近づけないように牽制を!」

「はいよ、母さん!」

「アデル、ロイ!あなたたちは周囲を警戒!蜘蛛の仲間がいないか、注意して!」

「承知!」「御意!」

 エレナが的確な指示を飛ばす。


 ユリウスが作り出した風の刃が、ポイズンスパイダーの動きを封じる。その隙に、レオンとエレナは、エレナが携帯していた蛇の抜け殻草を石ですり潰し、その油を慎重に、ウサギに絡みつく糸へと塗布していく。

 すると、あれほど強固だった蜘蛛の糸が、するりと粘着力を失い、解けていった。

「やった!」

 ついに、銀色のウサギが自由になる。その瞬間、巣の主であるポイズンスパイダーが、甲高い威嚇音を発して一行に襲いかかってきた。


 だが、それよりも早く、アデルの剣が閃いた。

「―――遅い!」

 炎をまとった一閃が、巨大な蜘蛛を正確に両断する。

「…大丈夫ですか?」

 レオンが、震えている銀色のウサギにそっと手を伸ばす。


 すると、ウサギの体が、柔らかな光に包まれた。そして、レオンの頭の中に、直接、凛とした声が響き渡った。

『―――助けていただき、感謝します、人間の子らよ』

「喋った!?」

 レオンとユリウスが、驚きの声を上げる。

 その生き物は、魔獣ではなかった。この森に古くから住む、月光兎げっこうとと呼ばれる中級精霊だったのだ。


『私はルナ。この森の精霊の一人です。あなた方の勇気と優しさに、心から感謝を』

「すごい…!森で初めて、お話できるお友達だ!」

 レオンは、森に住む中級精霊との出会いに、感動で目を輝かせていた。

 ルナは、優雅に一礼すると、お礼として、森の最も大きな秘密を語り始めた。


『この森の最も深い、誰も足を踏み入れぬ場所に、我ら精霊が生まれ、そして還る場所…『始原の大樹』と呼ばれる、聖域があります』

「始原の…大樹…」

『ええ。その樹は、この領地全ての生命力の源。あなた方が先ほど見せてくれたような、純粋な心を持つ者しか、たどり着くことはできません』


 その、神話のような言葉に、レオンの心は完全に奪われていた。

「行ってみたいです!その、始原の大樹に!」

 レオンが、キラキラした瞳で叫ぶ。

 その隣で、母エレナもまた、研究者としての探究心が、燃え上がっていた。

「古代文献でしか読んだことのない、伝説の樹…!ぜひ、この目で見てみたいわ…!」

「レオンが行きたいのなら、この私がどこへでも連れて行ってあげよう!」

 アデルも、弟のためならと、全面的に賛成だ。

「伝説の樹か…。まあ、面白そうだね」

 ユリウスも、退屈しのぎにはもってこいだと、乗り気になっていた。


 家族の意見は、見事に一致した。

 ロイだけが、「(し、しかし、森の最深部とは…護衛計画を、根本から練り直さねば…!)」と、一人、真顔で頭を悩ませるのであった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩

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