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天使様、大人たちの常識をひっくり返す

読んでいただきありがとうございます!更新日は火・金・日予定です♩

 イルナ月に入り、ロドエル魔導学院は、一年の締めくくりとなる「研究発表会」の熱気に包まれていた。 


 会場となるのは、入学式も行われた大講堂。天井高く及ぶステンドグラスからは厳かな光が差し込み、観客席には生徒だけでなく、保護者である貴族たち、学院の教授陣、さらには魔導士ギルドの重鎮や、なんと国王陛下と王太子殿下までが臨席している。


 舞台袖で出番を待つチーム『寄せ植え』の五人――レオン、エリアス、フェリックス、ベアトリクス、ルチアの顔色は、一様に優れなかった。


「……なぁ、レオン」

 フェリックスが、強張った顔で、前の組の発表を指差した。舞台上では、可愛らしい一年生たちが、模造紙を掲げて発表している。

「風魔法の種類について調べました!ジェントル・ブリーズとウィンド・ブレード違いは、魔力の強さです!」

「温めの魔法陣を、お弁当箱の下に書いてみました。ほかほかで美味しかったです!」

 会場からは、

「おお、可愛らしい」

「一年生らしくて微笑ましいな」

 という、温かい拍手が送られている……


 そう、初等部一年の研究発表など、所詮はその程度のものなのだ。半年の研究期間があると言っても、実際には夏休みという長期休暇を挟み、しかも、遊びたい盛りの子供たちが、そこまで本格的な研究などするはずがない。それが、大人の常識であり、この場の空気だった。


「……俺たち、やっちまったんじゃないか?」

 フェリックスが冷や汗を流す。彼らが用意したのは、学院の歴史の闇に葬られた『七不思議』の全容解明と、未だ用途不明の巨大魔法陣の発見である。


「……空気、読めていませんわね、わたくしたち」

 ベアトリクスも扇子を持つ手が震えている。周りが「アサガオの観察日記」を発表している中で、自分たちだけ「古代遺跡の未解決ファイル」を発表するようなものだ。場違い感が半端ではない。


「どうしよう……。兄上も、父上も見てる……」

 エリアスは今にも逃げ出しそうだ。ルチアに至っては、緊張のあまり「あわわわ」と口から魂が出かかっている。


 レオンもまた、胃のあたりに重いものを感じていた。

(和江おばあちゃんも、町内会の出し物で張り切りすぎて、一人だけガチの日本舞踊を披露して浮いたことがあったっけ…………)


 しかし、ここで逃げるわけにはいかない。レオンは、震える手で自分の掌に指を走らせた。

「みんな、手を出して」

「え?」

「おまじない。こうやって、掌に『人』という字を書いて……それを、飲み込むふりをする」

 レオンは、前世の知恵「人を飲む」を伝授した。

「これを三回やると、不思議と緊張がほぐれるんだよ。観客は、ただのお芋だ!」

「人……?飲み込む……?」

「お芋……」


 四人は半信半疑ながらも、レオンの真似をして、掌に文字を書き、ごくりと飲み込んだ。 すると、不思議なことに、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。

「……あ、なんか落ち着いたかも」

「そうですわね。わたくしたちは全力を尽くしましたもの。堂々としていればよろしいのですわ」

 ベアトリクスが背筋を伸ばす。


 そして、司会進行の教師が声を張り上げた。

「次は、チーム『寄せ植え』による発表です。テーマは――『学院の七不思議における魔導的考察と実地検証』!」

 レオンたちは、大きく深呼吸をすると、光の当たる舞台へと踏み出した。


 ◇


 レオン達が登壇し、レジュメ(研究概要)が配られると、客席の空気がざわりと変わった。

「七不思議……? あの怪談話か?」

「子供の肝試しか何かだろう」


 最初は微笑ましく見ていた大人たちだったが、発表が進むにつれ、その表情は驚愕へと変わっていく……


「僕たちは、学園の七不思議にそれぞれ魔法陣が施されていることに気が付き、その魔法陣について研究を行いました。順番にご説明いたします。」

 エリアスが、緊張に顔をこわばらせながら、口火を切った。


 まずはフェリックスが前に出て、大きな図面を掲げる。

「では、一番目。『鳴らずの鐘楼』についてです。」

 フェリックスの声が響く。

「一番目、『鳴らずの鐘楼』です!普段は決して鳴らないが、危機が迫る予兆がある時だけ、誰も鳴らしていないのに、ゴーンゴーンと勝手に鳴り響くと言われています。我々が実際に観にいくとーーーということで、原因は鳩のフンと錆による物理的な固着でした!汚れを取り除いたところ、鐘の裏に魔法陣を発見しました。解析の結果、魔法陣は『広域音声伝達』の術式だと判明しました!つまり、これは呪いなんかじゃなく、本来は危険や時報を広域に知らせるための、ただの『放送設備』だったと思われます!」

 おお、と感嘆の声が上がる。論理的だ。


 次にベアトリクスが、優雅に扇子で指し示す。

「二番目は、『涙を流す創設者の像』です。雨も降っていないのに像が濡れ、涙を流しているように見えるという現象です」

 彼女は、断面図のようなイラストを示し説明を始める。

「ーーーこのように、調査の結果、像の内部は空洞になっており、そこに地下から汲み上げられた冷たい水が循環する魔法陣が刻まれていました。つまり、冷えた金属の表面に、外気の湿気が『結露』して水滴となっていただけなのです。魔法陣は『冷却』と『循環』。……本来は、夏場に冷たい水を提供するための設備だったようです」(『小便小僧』状態だったことは、淑女の嗜みとして伏せられた)


 続いてルチアがおずおずと、しかしはっきりと語る。

「三番目は、『永遠に枯れない薔薇園』です。持ち出すと灰になる呪いの薔薇と言われていました。ーーーと、いうことで、実際には、過剰な魔力供給によって植物が『魔力過多メタボ』を起こし、循環不全になっていただけでした。魔法陣は「魔力供給・維持」ですが、循環不全を解消するために、剪定と、魔法陣への調整術式の追加を行った結果、現在は美しい『魔導薔薇』として再生しております」


 レオンが続く。

「四番目は『行き先が変わる肖像画の廊下』ですが、ーーー魔法陣は「空間接続」および「超高速転送」が使用されーーーこのように、これは歴代学長の人格を模した魔導AIによる、有事の際の避難誘導および転送システムでした。」


 そして、また、フェリックス、ベアトリクス、ルチア、レオンとかわるがわる説明をしていった。

「五番目の『歌う底なしの噴水』は、ーーー結局、配管の詰まりによる異音であり、詰まりを取り除いた現在は、美しい水音を奏でています。魔法陣は「音響増幅」および「水流制御」でした。」

「六番目の『ひとりでに本が並ぶ大書庫』ですが、ーーー魔法陣は「知識検索」が施されておりーーーということで、検索システムの誤作動が原因でした」

「七番目の『偽りの星空を映す天象儀の間』ですがーーー赤い彗星に呼応する地図をーーーということで、星空ではなく、地上の魔力反応を監視する『超長距離監視・投影』の術式でした。……以上が七不思議の魔法陣に関する考察です。」


 ーーー会場は、静まり返っていた。

 一年生が、ただの噂話だと思われていた七不思議の正体を、次々と論理的に、かつ物理的に解明し、解決してしまったのだ。

「……おい、あの子たち、本当に一年生か?」

「あの薔薇園を再生させたのは、彼らだったのか……」

 魔導士ギルドの席に座る白髭の老人たちが、身を乗り出して聞き入っている。


 そして、最後にエリアスが前に出た。

「そして、この全ての調査から、僕たちはある一つの結論に達しました」

 エリアスは、七枚の巨大な羊皮紙を、魔法で空中に展開する。それぞれが、各不思議の場所で見つけた魔法陣の写しだ。

「それぞれの魔法陣には、単独では機能しない、奇妙な線や空白がありました。学術書によれば、これは術式を隠すための『ダミー・ライン』であるとされています。ですが……」

 エリアスが合図をすると、七枚の図面が空中で重なり合った。

「これらを、このように全て重ね合わせると、そのダミーだと思われていた線が全て繋がり、一つの巨大な魔法陣となるのです!」


 ザワッ……!!

 客席から、どよめきが起きた。特に、魔導士ギルドの席と、教職員席の動揺は激しかった。

「なんだ、あれは……!」

「七つの魔法陣が、繋がっただと!?」

 エリアスは、緊張で震える声を必死に抑え、説明を続けた。

「……このように、七不思議は全て、この巨大な術式の一部でした。ただ……僕たちの力では、この完成した魔法陣が『何を』するためのものなのか、解明することはできませんでした。ですが、これが、何らかの重要なシステムであることは間違いありません」


 エリアスは、真っ直ぐに会場を見渡した。

「この魔法陣の正体については、今後の研究課題とさせていただき、発表を終わります」

 五人が揃って礼をする。


 そして、一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手が大講堂を包み込んだ。

「ブラボー!!」

「素晴らしい! 歴史的な発見だ!」


 拍手の嵐の中、最前列に座っていた魔導士ギルドのギルドマスターが、興奮した様子で立ち上がり、舞台へと歩み寄ってきた。

「君たち!その魔法陣を、もう一度見せてくれ!」

 老齢のギルドマスターは、空中に浮かぶ図面を食い入るように見つめ、そして、わなわなと震え出した。

「……信じられん。我々は、なんと愚かだったのだ……」

「あ、あの……何か間違っていましたか?」

 レオンが不安そうに尋ねる。

「逆じゃよ、少年!大正解だ!」

 ギルドマスターは叫んだ。

「我々は、七不思議の魔法陣については、とうの昔に知っていた。だが、そこに描かれている余計な線は全て、『ダミー・ライン』だと思い込んでいたのじゃ!まさか……そのダミーだと思っていた線こそが、全てを繋ぐ『連結コード』だったとは……!」


 大人の固い頭では、「意味のない線」にしか見えなかった。しかし、レオンたち子供は、何の先入観もなく、それを「パズル」として捉えた。「この線とこの線、繋がるんじゃない?」という、純粋な遊び心と柔軟な発想が、数百年の間、誰も気づかなかった真実を暴いたのだ。

「この術式が何を意味するのか……。すぐには分からん。だが、これほど大規模で複雑な術式だ、国を揺るがすほどの大発見であることは間違いない!」


 ギルドマスターは、目を輝かせて宣言した。

「君たちは、埋もれていた古代の遺産を掘り起こしたのじゃ!これは快挙だ!ぜひ、魔導士ギルドで、この続きを引き継ぎ、総力を挙げて研究させてほしい!」

「ええっ!?」

 レオンたちは顔を見合わせた。 ただの夏休みの研究が、魔導士ギルドを巻き込む国家プロジェクト級の発見になってしまった。

「ど、どうしましょう……」

「まあ、評価されるなら、悪いことではありませんわね……」


 困惑する子供たちに、今度は国王アルベリウスと、第一王子ジークハルトが近づいてきた。

「見事だ」

 国王が、重厚な声で告げる。その瞳は、息子であるエリアスを、誇らしげに見つめていた。

「エリアス。よくやったな。お前がこれほどまでに古代語に精通し、仲間と共に大きな成果を上げるとは。父として、鼻が高いぞ」

「ち、父上……!」

 エリアスが、感極まって涙ぐむ。

 そして、ジークハルト王子も、その完璧な美貌を崩さずに(内心ではデレデレになりながら)口を開いた。

「ああ。素晴らしい発表だった」


 ジークハルトは、エリアスの肩に手を置いた。その手は、感動のあまり微かに震えている。

(ああ、エリアス!なんて立派になったんだ!あの大勢の前で、堂々と発表する姿!魔法陣を操る知的な横顔!尊い!尊すぎる!今すぐ抱きしめて『お前は私の自慢の弟だ!』と叫びたい!だが、衆人環視の中で王太子の威厳を崩すわけにはいかん……ッ!)

 凄まじい葛藤の末、ジークハルトの口から出た言葉は、いつものように簡潔なものだった。

「……ご苦労だったな。部屋に戻ったら、ゆっくり休みなさい」

 それだけ言い残し、ジークハルトは足早に去っていった。これ以上ここにいると、弟への愛が爆発して、奇声を上げてしまいそうだったからだ。


 残されたエリアスは、ぽつりと呟いた。

「……怒られなかった。よかった……」

(……伝わってないなぁ)

 レオンは、去っていく王子の背中(耳まで真っ赤だ)を見ながら、苦笑した。

「エリアス。王様も、王太子殿下も、とっても嬉しそうだったね。」

「え、そうかな?」

「そうだよ!だって、あんなに目が優しかったじゃないか!」

 レオンの言葉に、エリアスははにかみながら笑った。


 その様子を、客席の陰から見ていたアデルは、ハンカチを噛み締めて号泣していた。「うぅっ……レオン……!立派になって……!あんな大舞台で、堂々と……!さすが、私の弟だぁぁぁ!」

「うるさいよ、兄さん」

 隣のユリウスが、呆れながらも、満足げに舞台上の弟を見つめていた。

「まあ、あいつにしては上出来だな。……あの魔法陣、面白い仕組みだ。後で詳しく教えてもらうとするか」


 ◇


 研究発表会は、チーム『寄せ植え』の圧倒的な優勝で幕を閉じた。彼らの発見した「総合魔法陣」は、魔導士ギルドによる正式な解析が進められることになり、のちに重大な魔法陣であることが判明する――。


「やったね、みんな!」

「ああ!最高だったぜ!」

「疲れましたけど……楽しかったですわ」

「私も、レオン様のお役に立てて幸せです!」

「僕も……みんなと一緒で、本当によかった」


 舞台裏で、五人は手を取り合って喜んだ。レオンは、仲間たちの笑顔を見渡して、心の中で和江おばあちゃんに報告した。

(おばあちゃん。僕、学園で、こんなに素敵な友達ができたよ。……『カッコいい男』には、まだ遠いかもしれないけど、みんなで力を合わせるって、すごく『カッコいい』ことだよね?)

 レオンの胸元で、使い魔のモリィが『お疲れ様! ご褒美のアメちゃんは?』と顔を出した。

「ふふ、はいはい。みんなで食べようね」

 レオンは、ポケットからアメを取り出し、みんなに配った。


 その甘い味は、成功の味。そして、かけがえのない友情の味がした。

なんと!100話目です!

ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩

ぶっちゃけ、ここまで続けられるとは思ってもいませんでした。

これも一重に、読んでくださっている方々のおかげです!!


もし少しでも『面白いかも』『続きが気になる』と思っていただけたら、↓にあるブックマークや評価(☆☆☆☆☆)をポチッとしてもらえると、とってもうれしいです!あなたのポチを栄養にして生きてます… よろしくお願いします!

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