内部通報4
日用品DCは、日曜日が必ず休みになる以外は、祝日であろうと、盆正月であろうと、すべて営業日だ。
営業時間は、朝5:00から夜20:00まで。
コンビニ物流の365日24時間よりは緩い稼働だが、正規雇用社員1人あたり1日8時間、週40時間というコマを填めこんでいくと、複雑な勤務形態になる。
たいていは、日曜日と他の曜日を休みにする完全週休2日制が実現できているが、ほとんどの社員が時間帯も曜日も固定ができていなく、希望休を確認しながら、そして契約の範囲内で勤務割を作っている感じ。
100名の人員がいても填め切れない時間帯ができるので、パートタイマーやスポットワーカーに来てもらって、場合によっては管理者が現場に入ったりして、何とかやりこなしている。
受け入れている派遣社員4名は、量的に正規社員と同様とされているが、時間帯の乱れは少なく、土日休みが基本とされている点で、自社雇用社員より優遇されている感がある。
派遣社員になりたがる理由は、賃金以外にこういう細かいことにも原因がありそうだ。
さて、その4名の就労状況を確認してみようか。
請求明細書に、根拠書類として毎月添付されてきているので、まあ内容に間違いは無いだろうけどね。
5ヶ月前までは、契約書どおりに5名の派遣社員を受け入れていたらしい。
1名が解約されて、そして2ヶ月前に2名が入れ替わっていた。
突然、来なくなったというのは、この話だね。
代わりに新人が2名入って、同じシフトで働いているから、契約上の要員に変化は無い。
現場視点では、突然来なくなったように見えるだろうが。
なぜ、2名を入れ替えたのかは明記が無いので不明。
あと、請求明細として添付されている勤怠記録は、電子文書ではなく、故意に書き換え可能な表計算ソフトの文書のままになっている。
公式な取引行為としては問題のある状態だが、そこは目をつぶるとして、おそらく多くの文書のやり取りをメールで行っていたのだと思う。
請求情報などは木戸係長が窓口になって、樟葉センター長に渡していたのだろう。
過去のメール内容を慌てて削除したようだけど、私に知られたくない理由があるのかもしれない。
もし、そうだとしたら、何か不正を働いていると考えるのが普通だ。
性悪説だけどね。
木戸係長本人を問い詰めるのは、できるだけ多くの事実確認をしておいてからの方が良いかも。
いったい何をやっていたのかを明るみにして、最後の最後に攻める感じ。
ここで考えられる不正と言ったら⋯⋯⋯
⋯⋯リアル⋯⋯
チラッと見たメールでのやり取りで使われていた表現だけど、これに何か意味がある⋯⋯⋯
リアルでなければ⋯⋯非現実⋯⋯
私が見せられているのが非現実だとしたら、その本質は改ざんとか捏造が行われているという推定に行き着く。
ならば、ここでの私の役割と言ったら、木戸係長と派遣会社との関係を疑ってかかることにあると思う。
あくまでも性悪説。
次は、SKK株式会社の池上さんに会ってみよう。
思い立って電話してみたら、今からでも時間が空いているそうなので、私の方から会社に往訪することにした。
所在地は、県庁所在地であるN市内で、しかも新幹線駅から徒歩5分程度の1等地。
そこへクルマで行ったんだけど、来客用の駐車場が空いていなく、時間貸し駐車場を利用。
1等地だけに料金が高く付きそう。
N駅前を甘く見てた。
電車バスで来れば1000円弱で済んだのに。
少ない予算でやりくりしてるんだから、今度から気を付けよう。
事務所は、高層オフィスビルの14階。
黒と銀で装飾されたエレベーターに乗って、シュイーンと到着。
フロアは4社の区画があり、N駅が見える側にSKK本社があった。
無人の受付で呼び出し依頼をしたら、私と年齢が同じくらいの女性が現れ、私をひと目見るなり、驚いた顔をした。
「予想外にお若いヒトで⋯⋯びっくりしました⋯⋯⋯」
まあ、こういう反応は、私が未来推進課の課長になってから、何度も味わったな。
日用品DCで聴き取り調査をした時でも、全員に同じ反応をされたし。
「調査ということですよね」
と、池上さんが話を切り出してきた。
黒に近い茶色の髪をストレートのロングヘアにして、目のまわりにキラキラ光るアイメイクを施し、カワイイ度の高い美人だ。
強い目力があって、じっと見つめてくるんだけど、もっと若い娘なら、ひたむきさを感じさせる表情だが、20代後半に差しかかって「娘」と呼ばれるには少し無理が出てくるくらいになると、妙に威圧的で、パワハラを受けてるように感じてくる。
私も、そう見られてるおそれはあるので、この声は心の中に留めておく。
「購買管理の側面で」と、私は切り出してみた。
「供給者に対する実態調査を行っておりまして、弊社と取引のある事業者様を対象にしているのですが、今は労働者派遣事業者様を中心にお伺いしているというしだいでして」
池上さんは「はあ⋯⋯」と目を丸くする。
とっさにウソをつくのも慣れたな。
ますます汚れ役の深みにハマっていく私、って感じ。