表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真円〜The Perfect Circle〜  作者: 守山みかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/17

退職代行6

「雨森課長」

と、仲ちゃんが『公用モード』で呼びかけてきた。

こういうときは、こちらも仲ちゃんじゃなく、仲村さんだね。

本郷(ほんごう)さんという(かた)から、お電話です」

本郷?

記憶を手繰(たぐ)り寄せる。

はて? 心当たりが無いぞ。

かかってきた電話を待たせては申し訳ないので、とりあえず受話器を耳に当てる。

《あ…先日はどうも……》

「えっと……すいません……どちら様でしょうか?」

知ったかぶりしてても意味が無いしね。

記憶の手繰り寄せが間に合わないから、ここは正直に(たず)ねてみる。

《本郷です…以前、第3ロジに勤めていました………》

元社員か……

顔……うーん……イメージが……

ん……先日って言ったな………

最近、会ってる?

《『TOKITSUエクスプレス』に来てましたよね。ほら、駐車場で……》

あ……と、思い出したぞ。

ジャリ駐ですれ違ったトラックの…あのヒトか!

「失礼いたしました、本郷さん」

私は、電話口ながらも、頭を下げて謝罪。

見えねえっつーのに、まあ、これも性分(しょうぶん)だな。

《折り入って、相談がありまして》

本郷さんも低姿勢な感じ。

何だろね。

相談というよりは、お願い事のような雰囲気。

《実は『TOKITSUエクスプレス』を()めたい、と思ってまして……勝手なことで申し訳ないんですが……また市村輸送(そちら)で雇ってもらえないか、と思って………》

あらま。

何かイヤなことでも、あったのかな?

《何と言うか……(こま)かいところで融通(ゆうづう)が効かない……というか……やり(づら)かったりするんですね》

うーん……

抽象的だな……

仕事上、どんな不満があるのかな?

着荷(ちゃくに)付帯(ふたい)作業が多かったりとか……(いま)だに『手積(てづ)み・手降(てお)ろし』があったりとか……何かこちらの立場が弱くて…契約外だと言っても聞いてくれなかったり……社長も仕方ないって感じで…結局は放置で……》

最初はたどたどしい雰囲気が、こっちから(うなが)してやると、どんどん本郷さんの口調が熱を帯びていったね。

《確かに基本給は上がったんだけど…待機時間とか認めずに休憩にされたり…荷受が渋滞時間と重なってるのに遅延で苦情が来たり……働いてる人間のことなんか全然考えておらんのですわ……そんなんなら市村の方が良かったって……すんません……自分勝手なのはわかっとります……迷惑かけたことも……》

その後も本郷さんの愚痴というか、告白が続き、だいたい20分くらい付き合ったかな。

で、もう一つ重要な点は、他に6人同じ(おも)いのヒトたちがいて、本郷さんはその代表だったということだ。

私の独断で返答できる内容ではないので…ここは…そうね……富士澤(ふじさわ)専務に報告しよう。

市村(ウチ)に戻りたいというのはウェルカム。仕事要領も、よく分かっとるやろうしな。

まあ、隣の芝が良く見えたんだろうが、現実はキビしかった、ってあるあるな話だな」

専務なら、そう言うだろうと思ってたけどね。

「勤続年数はリセットするから、勤続給は下がるけどな。

それに、元の職場と業務に()けるかどうかは確約できない。

それでも良けりゃ、って条件を()んでくれるなら、採用を認める。

それでやって」

「承知いたしました」

「でも、時津んとこ、すんなり辞めてこれるかな。人材の余裕なんか無さそうだし。

市村(ウチ)は、即退職を認めたけど、2週間前ルールとか、主張してくると思うが」

「代行、使わせても良いですか? 費用は、市村負担(ウチもち)で」

私が提案すると、専務はいたずらっぽい笑みを見せる。

「その手があったか。誰か伝手(つて)があるとか?」

「社労士に頼みます」

「社労士? 弁護士じゃなくて?」

「特定社労士なら、労働関連のいざこざとか、交渉対応もできます」

「おい……それって…もしかして……」

「時津さんが使ったヒトです。函崎(はこざき)さん、という(かた)です」

「やっぱり! 雨ちゃん、考えることがエグいな………」

「ヤラれたらヤリかえす、ですよ」

「引き受けるかな……時津とグルなんじゃ……」

生業(なりわい)ですから……年商5億の『TOKITSUエクスプレス』と200億の市村(ウチ)と、どっちと付き合った方が得か、考えさせてやれば良いのです」

「もし、ツルんでたら、引き離しもできる、ってことやな」

「そのとおりです」

専務の目がキラキラ輝いて、まるで欲しかった玩具(おもちゃ)を買ってもらえた子供のようになってたよ。

「いいね! それやって!」

専務のGOが出たんで、さっそく函崎氏に電話したら、すんなり快諾してくれたね。

んーー

自分から仕掛けておいて言うのもなんだけど、義理とか、友情とか、忖度(そんたく)とか、無いみたいだね。

とてもドライな人間関係。

まあ、仕事上の付き合いって、やっぱり利得優先で、そんなモノなのかな。

《必ず雨森さんが満足できる成果をあげますよ》

電話する直前まで、敵対関係だったのにね。

そんなことより、退職2週間前届出ルールを主張された時の対策を聴いてみよう。

《民法627条の雇用解約条文を引き合いに出してるって件ですね。

たいていは、就業規則に『業務引き継ぎ』を理由に(つな)げた形にしていると思いますが、ならば、その期間に2週間も必要かどうかって妥当性に疑問を感じますね。

言っちゃあなんですが、運転手の仕事って、免許を持ってることと、道を覚えることだけじゃないですか》

まあ、言い方だね。

私だったら、ドライバーたちを前にして、そんな(ふう)に言えない。

《市村さんだって、一斉退職があっても、乗り切ってますよね。

つまり、ヒトがいれば、何とかできちゃうんですよ》

む……

あんたがそれ言うか……

ヒトごとだと思って…けっこう大変だったんだからな。

《交代要員を採用できるまで、退職を引き伸ばすなんてのは論外ですよ。

ヒトが足りないのは会社の都合ですからね。

職業選択の自由があるんです。

退職希望者には、何ら責任はありませんよ。

とにかく雨森さんが満足できる成果をあげますからね。任せて下さい》

これで交渉成立。

かくして、利得(がら)みで友好関係が崩壊した事例を()の当たりにしたのでした。

ちゃんちゃん、っと。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ