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真円〜The Perfect Circle〜  作者: 守山みかん


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退職代行4

『TOKITSUエクスプレス株式会社』の駐車場は、アスファルト舗装がされていない、いわゆる『ジャリ駐』だった。

開業して間もない会社だが、ジャリの凸凹(でこぼこ)(いちじる)しい。

おそらく前世の借主も運送会社だったのではないか、と推測する。

原状回復(リカバリー)端折(はしょ)ったね、これは。

こんな運送会社あるあるな状況も想定して、今日はパンプスではなく、平底のバレエシューズタイプのを()いてきたのだ。

ふふふ。

これイタリアの有名ブランドなのだよ。

課長になったからね、身の丈(ステータス)に合わせて、装備も相応に変えていかなくちゃね、と。

これ仲ちゃんからのアドバイスだけど。

こういうのはね、ジャリの砂埃すなぼこりとかで汚れるなんてことを気にしちゃいけないのだよ。

砂埃なぞ、後で()き取れば良いだけの話だ。

こせこせとした態度は、(かえ)って有名ブランドとのミスマッチな印象を周囲に与えてしまうのだ。

あ、これも仲ちゃんからの受け売りね。

そこへ、10tトラックが入場してきて、砂埃を巻き上げて、私の方に向かってくる。

まあ、トラックの車庫になっているのなら、私の方に向かってくるのは当然かな。

でも、来客用駐車場とは別にした方が良いかもね。

印象とかね。

今は、私だから良いようなものの。

車内の運転手が私に気づき、ぺこりと頭を下げる。

はて?

市村輸送(ウチ)の元社員だと思うけど、私の方に覚えがない。

間接部門の社員とか、あと学校の先生とかにあるあるな現象だね。

こっちに覚えが無くても、あちらは覚えてたりしてね。

第3ロジセンターの社員だったヒトかもしれない。

事務所は、駐車場を出て、道路を100メートルくらい歩いた場所にある。

外装がアイボリーに塗装された四角い2階建てで、1階部分がガレージになってて、今はシャッターが降りている。

ガレージの右横に茶色に塗装した金属扉があって、郵便箱がそばにあるから、ここが玄関なのだろう。

築40年くらいかな。

茶色の玄関の上に、『TOKITSUエクスプレス株式会社』と大きく書かれたステンレス看板があり、ここだけが最近設置された様子で真新しい。

ドア付近にインターホンがあり、ボタンを押してみた。

『はい』と、快闊(かいかつ)な男の声。

私が名乗ると、『お待ちしておりましたよ。どうぞ、ドアを開けて、お入り下さい。すぐに階段がありますので、足元に注意して下さいね』

それでは、お邪魔させていただきましょう。

ドアの向こうは、説明どおりの階段。

これを『バリア』だと思うヒトたちを(ふるい)にかけてる印象。

恥ずかしながら、こういうのも運送会社あるあるだよ。

障害者雇用率も、業界事情を配慮した除外率がいよいよ引き下げられ、運送会社に対しての気遣(きづか)いも無くなってきて、何らかの形で障害者を雇入(やといい)れしていかなくてはならない状況になってきている。

規模要件に助けられてるのなら、今は良いとしても、近い将来は、規模の大小に関係なく全事業者に義務付けされるだろうね。

いつまでも無視を決めこもうとしても、いずれ通用しなくなるのだよ。

会社を大きくしていきたいという野心があるなら、なおさら超えていかなきゃならない課題(ハードル)だ。

自己の事情を主張してばかりでは、(まか)り通らなくなってきている世の中。

利益を上げながら、社会貢献も同時に行っていく企業姿勢が求められ、存在価値が認められるのだ。

駐車場とか、事務所の入口を見ただけだけど、何となく時代遅れ感を感じるね。

引っ越していったドライバーたち、意を決して転職したのに、ウチ以上の待遇をちゃんと得られてるのかな、などと余計な心配をしてしまう。

階段を上りきった左側にドアがあり、その向こうが事務所のようだ。

構造的には、ガレージの上階だね。

ここで、いきなりドアを開けるのは不躾(ぶしつけ)なので、ノックくらいはしておく。

「どうぞ」

インターホンのヒトと同じ声。

(ひと)りなのかな。

「失礼します」

と言って、ゆっくりとドアを開け、そろりそろりと中に入る。

室内は、間仕切りが無く、30畳程度の広さ。

扉を中心にして、左手は絨毯(じゅうたん)敷の上に大きめの高級デスクと革製ソファ、右手は簡素なテーブルとイスが並んだカジュアルな雰囲気。

具体的な仕切りは無いが、雰囲気で社長エリアと休憩エリアを分かりやすくしている。

社長エリアには、栗色の髪をツーブロックのかき上げにした30代くらいの男性がいた。

このヒトが時津(ときつ) 雅詞(まさふみ)氏なのだろう。

「いらっしゃ……」

時津氏は、私に視線を向けるなり声を詰まらせる。

ああ、またこの反応か。

「驚きました。こんなに素敵な若い美女がやってくるとは、想像してなかったものですから」

うれしくないね。

最初(はな)から上から目線で見られるのが確定って感じじゃないか。

威厳の欠片(かけら)も、私には備わっているように見えないからね。

「どうぞ、こちらへ」

時津氏の手が高級デスクの隣の革製ソファに向けられる。

私は、ソファに向かう。

感情の調整に注力し、その間はずっと無口を通していた。



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