エピローグ:はじまり
モニターを通じて、外に出ていたソルジャーアントの視界を共有すると、そこにいたのは三人の子供たちだった。
腰を抜かしてへたり込んでいた少女たちを襲わずに戻ってくるように、ソルジャーアントに伝えると、上空を飛ぶアントフライの視界へと切り替える。
少女たちはソルジャーアントがいなくなったことに気が付き、村へと引き返していったようだ。ここまではこちらの考え通りである。
配下のモンスターに彼女たちを襲わせなかったのは、へたりこむ少女たちに同情したから――という理由からではない。
確かに、そういった感情が皆無なわけではないが、どうしたことか、人を襲わせることへの忌避感はそこまで感じない。
記憶がないからなのか、それともモニター越しに命令するだけで現実感がないからなのか、それとももっと別の理由があるのかは分からないが、必要とあれば、モンスターに人を襲わせることはできるだろう。
少女たちを逃がした理由はただ一つ。このダンジョンの存在を、外に知らせるためだ。
本来ならば、このようなことはせずに、ダンジョンの存在をできる限り隠すべきなのだろう。しかし――ダンジョンに近づく人間を、無差別に殺すようなことはできればしたくなかった。
ダンジョンマスターになり、モンスターの親玉となっても、俺は人間であるはずだ。
他の人間がそうは思わなくても、少なくとも、自分だけはそう思いたい。
ゆえに、ダンジョンマスターとしてダンジョンを守るにあたって、一つだけルールを決めた。
ダンジョンの攻略、ダンジョンに住むモンスターへの攻撃を目的とした人間以外は、襲わない。
ダンジョンへ攻め込んできた人間ならまだしも、戦う意思のない一般人までをも積極的に襲うようになれば、心までモンスターになってしまうように思えてしまったのだ。
だから、一般人がダンジョンに迷い込む前に、先んじてその存在を知らせることにした。
危険なモンスターがいると知っていれば、むやみに近づく一般人はそうはいないはずだ。
もともと、このダンジョンは草原のど真ん中という見つかりやすい場所に存在している。隠そうと思ってもそう長く隠しきることはできないだろう。
それならば、その時期が多少早くなってもかまわないはずだ。
もちろん他の打算もある。
あまり大きく暴れ過ぎ、危険だと判断されれば、討伐のために本腰を入れた集団のようなものが来てしまう可能性もある。
襲うのはダンジョンに攻めてきた人間だけというのは、こちらが戦いの経験を積むだけの時間を稼ぐことにもきっと繋がるはずだ。
危険があることは教えた。これから先、ダンジョンにやってくる人間は、敵として考える。
やがて、三人からソルジャーアントのことを聞いたのか、アントフライが監視していた村が慌ただしくなる。
しばらくすると弓と槍で武装した男がこちらの方へと向かってくるのが見える。
さっそく戦闘かと思ったが、遠くからソルジャーアントの姿を確認すると、男たちは村へ戻っていった。
おそらくだが、少女たちが見たものを確認しに来たのだろう。
その後、村から馬に乗った男が一人、ダンジョンとは別の方向へと向かっていった。
モンスターが現れたことを、どこかに伝えに行くようだ。
ダンジョンの存在に気が付いたのか、それとも見たこともないモンスターに警戒しているだけなのかはわからないが、近いうちになんらかの動きがあるかもしれない。
もしも、誰かがダンジョンに挑むのならば、このダンジョンの戦力を計る、いい機会になりそうだ。
というわけで1章でした。ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
コミカライズ版も合わせてよろしくお願いいたします。
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