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ダンジョン開放

 ダンジョン制作55日目


 マザーアントのおかげでアントが増えたことにより、DPの増加も加速度的に増えている。あれからたったの4日だが、今日は2階層の追加を行えそうだ。

 ダンジョンの領域はキューブ換算で5×5マス分、まだ横方向に広げることもできるのだが、階層の追加で何が起きるのかも確かめておきたい。


 さっそく、2万ポイントを支払い、ダンジョンに第2階層を追加する。第2階層が作られるとともに、新しい機能が解放されたようだ。

 追加された機能は、転移機能とコアルームの拡張機能とのことである。

 転送機能は文字通り、モンスターを別の階層に送ることができるようだ。

 また、転移陣を設置して階層間を繋ぐことができるらしい。

 とはいえ、1階層と2階層はそのまま掘り進んで繋げてしまう予定なので、今のところ転移陣を設置する必要はないだろう。


 そして、コアルームの拡張機能。

 こちらの機能では、DPを消費しコアルームの広さを変更できる。

 さらに新しい部屋や設備を設置できるようで、様々な大きさの部屋や、鍛冶場や農場などの設備がリストに並んでいる。

 設置できる設備のリストを見ていくと、その中に温泉があった。


 ダンジョンマスターになってから食事はもとより、風呂に入る必要もない体になっている。

 いるのだが、最近では服や体についた土の汚れが少し気になる。

 今は地面に適当な敷物をしいてごまかしてはいるものの、体のあちこちには土がこびりつき、まるで浮浪者のような格好になっている。

 むき出しの土の床で生活していた自業自得ではあるのだが、ダンジョンの運営が軌道に乗ったことで余裕が生まれたせいか、身の回りの細かいことが気になりはじめたのだ。


 というわけで、風呂に入る必要は必ずしもないのだが、温泉という文字が魅力的に思えてしまった。

 ダンジョンの製作は順調に進んでいる。それならば、少しくらいはいいのではないだろうか――そんなことを考えながら、温泉を設置する。

 設置した温泉は、少し奮発してやや大きめのものにしてみた。

 ついでに小部屋も2つほど追加して、ベッドを小部屋に移動させておく。板張りの床と壁紙をみて、よくあの土まみれの部屋で生活していたものだと苦笑いが浮かぶ。

 第2階層の追加と合わせ、ポイントが少なくなってしまったが、ダンジョンの製作は順調なのだから、この程度の消費なら問題はないだろう。


 そんなことよりも温泉だ。久しぶりに風呂に入れると、ワクワクしながら温泉へと向かう。

 脱衣所で服を脱ぎ、汚れてしまった服を倉庫へとしまうと、新しい服を用意する。

 脱衣所を出ると、そこには石で囲まれた温泉があった。

 100人以上が入っても余裕がありそうなサイズの温泉が、今なら1人で貸し切り状態だ。――まあ、このダンジョンには、風呂に入る人間は1人しかいないのだが。

 ほんのわずかに感じた寂しさを振り払うと、掛け湯をして風呂につかる。


 少し熱めのお湯だがそれがまたいい。溜まっていた疲れが取れていくようだ。

 記憶はなくなってしまっているが、ここに来る以前の自分は、もしかしたら風呂が好きだったのかもしれない。

 疲れと共に気分まで軽くなっていくようで、やはり風呂を用意して正解だった。


 一つだけ失敗があるとすれば、奮発した温泉が大きすぎたという点か。

 広々としすぎている温泉に浸かっていると、やはり先ほど感じた寂しさが沸きあがってくる。

 もうすで既に二か月近く、誰とも話すことなくダンジョンを作り続けている。今では、自分の声すら聞かなくなって久しい。

 ふと、声の出し方を忘れてしまっていないか心配になった。試しに、軽く声を出してみると、どうやら杞憂だったようだ。

 少しだけかすれてはいるが、確かに自分の声だ。


 じっくりとお湯に浸かってから温泉を出る。最初のワクワク感は、どこかへ消えてしまった。

 ダンジョンが外と繋がれば、新しい出会いがあったりしないだろうか? そんなことを考えて――自分の馬鹿らしい考えに苦笑する。

 ダンジョンマスターは人間にとっては恐ろしい相手であり、敵でしかない。

 そんな相手と仲良くしようという奇特な人間など、きっといないだろう。そう、いないのだ。

 心の隅に芽生えてしまった寂しさから目をそらすように、ダンジョンの製作を再開する。

 準備期間もそろそろ大詰めである、あとほんの数日だ。



 ダンジョン製作60日目


 ついにダンジョンを作り始めて、60日目になった。とうとう準備期間の最終日である。

 魔石採掘によるポイント獲得のために、1階層と2階層も限界まで領域を伸ばし、1日のDP獲得量は採掘による増加を含めて5000以上にまで増加した。

 2階層を増やしたことで、ダンジョンが生み出すDPも1000に増えたのだが、今でも獲得DPの大半は魔石とアントフライの養殖によるものだ。


 マザーアントたちは1階層から2階層の最深部へと移動している。外敵がたどり着きにくい最深部は、マザーアントとラーヴァアントの育成部屋にする予定だ。

 2階層はまだまだ拡張の最中だが、1階層はいくつもの部屋が複雑に繋がりあい、まさしく迷宮のような構造になっている。

 できればマザーアントやラーヴァアントのいる2階層までたどり着く前に、侵入者を撃退したいところだ。

 2体のマザーアントから生まれたラーヴァアントたちも、順調に成長している。さらに、アントフライが増えたおかげで、進化済みのアントも急速に増えつつあった。


 大量のアントたちが進化していく中、ソルジャーアントからは新たに2種類のアントが現れた。

 まず1種類目はキラーアント。体長は1メートルと、ソルジャーアントの頃よりも少し小さいが、刃物のように鋭い顎を持ち、音を立てずに素早く移動することができるようだ。

 普段は天井の片隅にぶら下がってじっとしているのだが、たまにダンジョンの壁や天井を高速で走っている。

 地上だけではなく、天井を移動できるため、乱戦中の奇襲に役立ちそうで期待が持てる。


 そしてもう1種類がコマンダーアント。

 体長は3メートル程と、マザーアントを除く他のアントよりもひと一回り程大きい。

 そして何といっても、コマンダーの名の通り、他のアントを統率し、集団戦の指揮ができるようである。

 様々な特性を持つ複数のアントたちが、コマンダーアントの指揮により連携して襲ってくるのだ。コマンダーアントをうまく使いこなすことができれば、非常に頼もしい存在となるだろう。

 キラーアントと合わせ、ダンジョンの防衛に大きく役立ってくれるのは間違いない。


 しかし、残念ながらコマンダーアントに進化する確率は低いようだ。

 他のアントはある程度の数がそろってきたのだが、コマンダーアントは未だに1体しかいない。

 アントたちはまだまだ進化を続けているので、今後の進化に期待である。


 大きく発展を遂げたダンジョンを眺め、ふと、ワーカーアント数体でダンジョンを掘っていた頃を思い出す。

 早くも2ヶ月、最初の頃と比べるとダンジョンもだいぶ変わったものだ。

 ダンジョンの拡張に戦力の充実。できることはやった。あとはダンジョンの解放を待つだけである。

 こうしてみると最初の頃にDPが足りなかったのも、今となっては嘘のようだ。


 モニターに表示される残り時間が1分を切る。ついにこの時がやって来た。

 モニターからの要求に従い、コアルームの位置を設定する。

 場所はダンジョンの一番奥、マザーアントたちが暮らす部屋のさらに奥だ。侵入者がここにやって来るとすれば、ダンジョン全てを突破してからとなる。

 コアルームの位置は都度変更できるようなので、最深部が更新されるたびにさらに深く深くへと移動するとしよう。


 残り時間がゼロになる。ダンジョンとコアルームが接続され、ダンジョンの入り口が解放される。――ついにダンジョンが外の世界と繋がった。

 入り口が解放されると同時に、地上部分へと領域を広げることができるようになったようだ。

 入口からキューブ1個分だけだが、ダンジョン入口周辺の様子をモニター越しに確認できる機能が存在するので、その価値は非常に大きなものである。

 

 さっそく、ソルジャーアントと、アントフライを偵察役としてダンジョンの外に放つ。

 ダンジョンの周囲は見晴らしの良い草原だ。東には頂上が雲の先に隠れた山々が、西側の少し離れたところには森が見える。森の中央には、周囲の樹々の10倍はあろうかという巨大な樹が生えていた。

 空を見上げればどこまでも澄み渡った空が広がっていて、当然だが薄暗いダンジョンの中とは大違いだった。


 地上へと広がったダンジョンの領域内には、角の生えたウサギのようなモンスターがいた程度で、他には何もいないようだ。

 さすがにすぐに侵入者が現れるということもないようで、いったん胸をなでおろす。

 ソルジャーアントたちにダンジョンの領域外も偵察するように命令する。

 それからしばらくすると、ソルジャーアントが何かを見つけたようだ。

 ここからが――ここからがダンジョンマスターとしての戦いの始まりだ。

 願うならば、自分が何者であるかくらいは知りたい。

 そのためにも、生き残らなければ。

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