マザーアント
ダンジョン製作40日目。
魔石をDPに変換できることが判明してから約10日が過ぎた。特に異常が発生することもなく、ダンジョンの拡張と魔石の採掘は順調に進んでいる。
しかし、魔石と合わせてDP確保の有力な候補だったアントフライの養殖は、残念ながら失敗してしまった。
どうやらテイマーアント1体につきアントフライ5体が使役できる限度のようで、それ以上のアントフライが発生するたびに間引かれてしまうのだ。
失敗を嘆いたところでしかたないので、アントマゴットを捕食したワーカーアントたちがテイマーアントになるのを気長に待つとしよう。
予定通りなら、今日は大きな節目になるはず。さっそく、ダンジョンの状態を確認する。
保有しているDPは、2万ポイントをわずかに超えている。そう、あれから魔石をDPに変換し続けたおかげで、ついにDPが2万ポイントに達したのである。
これで第2階層の追加か、マザーアントの召喚ができる。
ダンジョンはまだ4キューブ目の中盤にたどり着いたところだ。2階層の追加の必要はないだろう。
今回は階層の追加ではなくマザーアントの召喚を行うことにする。
マザーアントの召喚に必要なポイントは2万ポイント。今まで貯めたポイントのほとんどを消費してしまう。
貯めるのに時間がかかった分、一気に無くなってしまうのはちょっと悲しいが、これも必要経費だ。
モニターを操作すると、DPが消費されマザーアントが召喚された。
マザーアントは他のアントたちと比べるとかなり大きい。体長は5メートルほど程もあるだろうか。重そうに膨らんだ大きな腹部がひときわ目立っている。
しばらくすると、マザーアントの存在に気が付いたワーカーアントたちが近寄っていく。
触角でお互いを確認すると、マザーアントはワーカーアントに連れられて、巣の奥の方へとよたよたと歩いていく。
巣の最深部にたどり着いたマザーアントは、何かを探すようにきょろきょろと周囲を見回す。
すると、ワーカーアントたちが今日採掘された魔石のうちのいくつかを咥えて、マザーアントの方へと向かう。
どうやら探し物は魔石だったらしく、ワーカーアントから魔石を受け取ったマザーアントは、いくつもの魔石を砕いていく。すると、マザーアントの大きな腹部がさらに一回り大きく膨らんだ。
そして――マザーアントは、その場で卵を産み始めたのだ。マザーの名の通り、アントを産む能力があるのだろう。
卵を産んでいるマザーアントのステータスを鑑定してみる。
マザーアントの戦闘力は300、見た目は戦闘に向いて無さそうだが、この巨体を見ればそれくらいのパワーはありそうだ。
そして、その保有魔力の最大値はなんと20万であった。現在の保有魔力はおよそ100くらいだ。
マザーアントが卵を産むたびに、モニターに表示される保有魔力が10ずつ低下している。どうやらマザーアントは魔力を消費することで、卵を産むことができるようだ。
卵1個当たりで消費する魔力がたったの10である。この卵が何事もなく成長するならば、召喚するよりもずっと効率がいいだろう。
これからは魔石をある程度、マザーアントに食べさせることにしよう。
マザーアントは10個ほど卵を産むと、産卵をやめたようだ。
生まれた卵はワーカーアントたちが大事そうにくわえて、1か所に並べていく。
マザーアントの卵の保有魔力は現在0、最大値は10と表示されている。
アントフライの卵と同じように成長するならば、約10日で孵化するのだろう。
この卵たちが孵化するのが楽しみである。
◆
ダンジョン製作50日目
ダンジョンの解放まで、残り10日ほど。
今日は予定通りなら、マザーアントの産んだ卵が孵化する頃だろう。さっそく卵の様子を確認するとしよう。
マザーアントのいる部屋は、ワーカーアントたちによってさらに大きく拡張されている。
部屋の中には数多くの卵が並べられ、ワーカーアントたちが忙しなく行き交い、卵の世話をしていた。
100近い数の卵が几帳面に整頓されて並べられている様子は、ある意味壮観ですらあった。
忙しなく行きかうアントたちを眺めながら待つことしばし――ついに卵が孵化を始める。
卵の殻が破れ、中から50センチメートルほどの乳白色の幼虫が姿を現す。幼虫の名前はラーヴァアントというようだ。見た目は何というか、コメントを控えたい。
さらに、他の卵からもラーヴァアントが次々と生まれ始めている。
戦闘力はたったの1、これに関しては幼虫なので仕方ない。保有魔力の最大値は20と、アントマゴットよりも多いようだ。
生まれたラーヴァアントは、ワーカーアントにくわえられて別の部屋へと運ばれていく。
部屋につくと、地面に下ろされたラーヴァアントが、ワーカーアントに何か口移しで与えられていた。
ラーヴァアントたちのステータスを見ると、その保有魔力が増えている。おそらくは、ワーカーアントたちが幼虫に魔力を与えているのだろう。
保有魔力が10になったあたりで、ラーヴァアントの食事が終わったようだ。この分なら、明日には保有魔力が上限に達するはずだ。
ラーヴァアントが進化することでどうなるのか、ワクワクとした気持ちを抑えながら藁束のベッドへと飛び込んだ。
◆
ダンジョン製作51日目。
あれからも、ラーヴァアントが生まれ続け、ワーカーアントたちは子育てに追われて忙しそうにしている。
初日に生まれたラーヴァアントたちの中には、ワーカーアントやソルジャーアントに成長したものが現れ始めた。
どうやら、ラーヴァアントが成長すると1段階目のジャイアントアントになるようだ。
上位のアントにならなかったのは予想通りとはいえ少し残念だが、これは革命にも等しい結果である。
マザーアント1体がいれば、魔石の消費が必要とはいえ毎日10体のワーカーアントかソルジャーアントが産まれる。
初期投資の2万ポイントは重いが、半月ほどあれば後は無料でアントが増えるようなものだ。
さらにそのアントたちが巣を拡張し、さらなるマザーアントを召喚すれば加速度的にアントたちが増えていくのだから。
アントマゴットを捕食していたワーカーアントも進化を始め、念願のテイマーアントも順調に増えつつある。
テイマーアントが増えたことにより維持できるアントフライの数も増え、それらが産むアントマゴットは部屋のひとつを埋め尽くすほどである。
アントマゴットの数が確保できるようになったため、保有魔力がワーカーアントよりも多いソルジャーアントたちも、もう少しで進化を始めるだろう。
ダンジョンの開放を間近に迎えて、ダンジョンは加速度的に強化されていた。
今日はアントフライを増やすついでに、今まで召喚していなかったアントスパイダーも召喚してみようと思う。
さっそく召喚されたアントスパイダーは、体長2メートルほど程のソルジャーアントに非常よく似たモンスターだった。
よく見ると足が8本あるため、アントたちと区別できるのだが、それ以外には大きな違いはなく、大量のアントたちの中に紛れているとすぐに見分けるのは難しそうだ。
どうやら糸を噴射することができるようで、アントに紛れて戦うことで外敵に思わぬ打撃を与えることができるだろう。
糸に絡められ動けないところに、アントの大群が襲い掛かれば――結果は想像するまでもないだろう。
アントスパイダーの確認も終わり、DPが貯まっていたのでさらにもう1体のマザーアントを追加で召喚する。これでマザーアントが2体になり、さらにアントの数が増えるはずだ。
マザーアントは今も毎日10個ほどの卵を産み続けている。このペースで卵が産まれ続けるのだとすると、すぐに大量のアントがダンジョンを行き交うことになりそうだ。
これで戦力の確保の目途が付いたので何よりである。
戦力の拡充に並行して、ダンジョンの拡張も順調に進んでいる。
次に2万ポイントが貯まった時は、第2階層を追加するのもいいかもしれない。
ダンジョン解放まであと少し、万全な状態で解放を迎えられるようにしっかりと準備しなければ。