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働き者のアントたち

 藁束のベッドの上で目覚める。今日でダンジョンマスターになってから11日目だ。

 ベッドの上から見えるのは、殺風景な土の天井である。やはり、これは夢ではなく現実のようだ。


 あれからわかったことが一つある。まず、ダンジョンマスターには食事の必要がないようだ。食べることはできるのだが、嗜好品のようなものでしかない。

 現に、かなりの時間が経っているはずだが空腹感は全くまったく感じない。

 同じように、ダンジョン内にいる限りモンスターたちも食事の必要はないらしい。

 こちらはその代わりに、毎日ダンジョン内に存在するモンスターの戦力を合計した数値の1パーセントのDPが維持コストとして差し引かれる。


 あれからさらに5体のワーカーアントを追加し、現在の総戦力は100だ。維持コストはたったの1だが、将来的にはさらに多くの維持コストが発生するはずだ。

 つまり収入が足りないのに、強力なモンスターを配置しすぎると、ダンジョンの運営に不具合が起こるということだ。これも注意しておこう。


 なんにせよ、食事の必要がないのは大きなメリットと言えるかもしれない。

 食事の用意に時間も取られず、DPが無くなっても餓死することはない。

 いよいよ人間ではなくなったことを実感させられるが、泣き言を言っても仕方がないのでプラスの方向に考えておくことにする。

 ついでに睡眠の必要もなくしてくれればいいのだが……粗末な藁のベッドを見つめ、そんなことを考えた。


 さて、起きたところでさっそくダンジョンの様子を確かめるとしよう。モニターを開きダンジョン内の様子を確認する。

 ワーカーアントたちはあれからも黙々とダンジョン拡張のために働いてくれている。

 アントたちは全員同じように見えるが、どうやら性格に多少の違いがあるようだ。真面目に穴を掘り続けるもの、こっそりサボっているもの、せっかちなもの、仲間によくぶつかるおっちょこちょいなものと見ていて飽きない。


 そんな彼らの活躍により、最初に作られた小部屋も今では小部屋と呼べないほどには大きくなり、そこから一本の通路がさらに奥へ続いている。

 その先は途中で枝分かれして、新しく作られた3つの小部屋へと繋がっていた。

 いまだに難攻不落のダンジョンには程遠いが、直接DPを消費するよりもずっとマシである。


 領域の拡張も一段落したことだ。そろそろ新しいモンスターを召喚してみるのもいいかもしれない。


 200DPを消費してソルジャーアントを召喚する。

 現れたのは、ワーカーアントよりも一回り大きなアリであった。体長は1メートル半といったところだろうか。

 特に目立つのががっちりとした巨大な顎だ。あれに思い切り挟まれたら、怪我では済まないだろう。

 ソルジャー――兵士というだけあって、ワーカーアントよりも戦いに向いているのだろう。戦闘力も、ワーカーアントの2倍である20だ。その代わりに、大顎は土を掘るのには不向きのようだが。

 ワーカーアントが働きアリだとしたら、ソルジャーアントは兵隊アリなのだろう。


 そうしているうちに、ソルジャーアントに気が付いた1体のワーカーアントが近づいてきた。

2体のアントたちはお互いに触角を触れ合わせ、相手を確認している。

 どうやら挨拶は終わったらしく、ワーカーアントは穴掘りへと戻る。それに対して、ソルジャーアントは巣の形を確認するようにうろうろしながら、パトロールを始めたようだ。


 あれからさらに2つのキューブを追加したため、ワーカーアント10体とソルジャーアント1体、さらにベッドに使った分も差し引いた残りDPは350である。

 相も変わらずDPに余裕はない。ダンジョンの拡張は10体のワーカーアントたちに任せておけばいいだろう。


 ワーカーアントたちの働きを観察しながら、今後について考えることにする。

 残りの1種、マザーアントも召喚してみたいが、2万ものDPを貯めるには途方もない時間がかかる。

 どうにかしてDPを稼ぐ方法はないだろうか?

 今後の方針についてあれこれ悩んでいるうちに、時間だけが過ぎていった。



 結局、次の方針がきちんと決まらないまま1日が過ぎてしまった。今日でダンジョンマスターになってから12日目である。


 あれからいろいろと悩んだのだが、結局のところ何をするにもDPが足りないという現実を再認識するだけに終わった。

 今のところ、毎日供給されるポイント以外にDPを稼ぐ手段は存在しない。

 八方塞がりの現実からの逃避も兼ねて、アントたちの様子でも見ることにしよう。


 ワーカーアントたちはあちこちに散らばって、今日も今日とてせっせと仕事に勤しんでいる。

 ぼんやりとアントたちが働く様子を眺めていると、そのうちの1体がなにかを運んでいるのに気が付いた。

 その口元をよく見ると、運んでいるのは白く曇りがかった半透明の結晶だった。大きさはこぶしほどだろうか、今までにあのような結晶を見た覚えはない。

 さて、あれはいったい何を運んでいるのだろうかと、観察を続ける。


 入り口付近の大部屋までやってきたワーカーアントは、そのまま土の塊や石ころと同じように放り捨てるのかと思いきや、ソルジャーアントの方へと結晶を運ぶ。

 ソルジャーアントはワーカーアントが運んできたそれを受け取ると、大顎で砕いてしまった。

 ソルジャーアントに謎の結晶を渡したワーカーアントは、何事も無かったかのようにダンジョンの拡張作業の続きをするために戻っていく。

 ソルジャーアントも、何事もなかったかのようにパトロールを再開した。


 しばらく観察していると、同じような光景が何度か見られた。どうやら結晶は、ダンジョンのある程度深い場所で出てくるようだ。

 ワーカーアントたちは、結晶を見つけるたびにソルジャーアントのもとへ運んでいき、ソルジャーアントはそれを受け取り砕く。

 いったい何をしているのだろうと、思っているうちに――変化が起きた。


 いくつかの結晶を砕いたソルジャーアントが、その場にうずくまり、震えだしたのである。

 あの結晶が何か悪いもので、そのせいで異変が起きたのかと思ったが、ソルジャーアントを見守るワーカーアントたちに慌てた様子はない。

 危険なことではないのだろうと、気を取り直して観察を続ける。


 ソルジャーアントはしばらくの間うずくまったままだったが、突然震えが止まったかと思うと、巨大化を始める。

 息をのんで見守るモニターの先で、変化を終えたソルジャーアントが立ち上がる。

 ソルジャーアントの姿は、先ほどまでのものから大きく変わっていた。

 体長は2メートルほどまで成長し、特徴的だった大きな顎はさらに鋭く、巨大になり、鈍く重々しく輝いている。さらに背中には棘のような突起が生え、体を守る甲殻も分厚くなっているようだ。

 その姿は均整の取れた兵士というよりは、荒々しい戦士のようだ。


 モンスターのリストを確認すると、ソルジャーアントの名前が消え、ウォーリアーアントが追加されている。どうやら、ソルジャーアントは別のモンスターへと進化したようだ。

 その戦闘力は50。戦闘力がどの程度の指標になるのかは不明だが、単純に計算すればソルジャーアントの2倍以上ということである。

 進化したウォーリアーアントはしばらく体の様子を確認するように、身じろぎをしていたが、確認が終わったのかパトロールを再開した。


 先ほどまでの光景から予想するに、あの結晶のようなものはモンスターを進化させる効果があるようだ。

  ダンジョンを守る戦力はできるだけあった方がいいのは間違いない。ここはワーカーアントを召喚して、結晶を掘る効率を上げるのもいいだろう。

 ワーカーアントを召喚するためにメニューを開くと、500ポイントでウォーリアーアントを召喚できるようになっていた。ダンジョン内でウォーリアーアントが発生したため、その制限が解除されたのだろう。

 しかし、今はウォーリアーアントの召喚をする必要はない。もっとも、DPが足りないので召喚すらできないのだが。


 所持しているDPを消費して、ワーカーアントを追加で2体召喚する。これでワーカーアントは合計12体になった。

 ワーカーアントに結晶を見つけた場合、大部屋に集めておくように伝える。

 命令を受けたワーカーアントたちは、さっそくダンジョンへと散らばっていった。

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