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ダンジョンを作ろう

 まずはダンジョンの状態を確認するとしよう。

 与えられた知識に従い頭の中で念じると、目の前に半透明の板のようなものが現れる。

 まるで、ゲームのステータス画面のようなそれには、まさしくダンジョンの『ステータス』とでも言うべきものが表示されていた。


 ダンジョン名『無し』、最大階層数『1』、現在階層数『0』総戦力『0』――――。重要な情報を先頭に、こまごまとした情報の羅列がモニターの下へ下へと並んでいる。


 まさしく始めたばかりのゲームのような、何とも心もとない初期値そのままのそれが、このダンジョンの現状である。

 ダンジョンマスターとして、まず初めにやらなければいけないこと――それはダンジョンの領域を作ることだ。

 なにせ、このダンジョンに存在するのはこの小さな部屋のみ。配下のモンスターもいなければ、侵入者と戦うための場所すら存在しない。

 ダンジョンを作成したい。そう頭の中で念じると、目の前の板――モニターと呼ぶことにしよう、その画面が切り替わる。

 今いる小部屋が記された立体的な地図のようなものが現れ、その隅に時間が表示された。残り60日と書かれたそれは、ダンジョンが外の世界と繋がるまでの制限時間である。

 制限時間を過ぎると同時に世界のどこかにダンジョンの入り口が出現し、外へとつながるようだ。


 60日間――つまり、侵入者がやって来るまでには最低でも約二ヶ月の猶予がある。

 二ヶ月と言えば余裕があるようにも感じるが、できることから手を付けなければ、あっという間に時間切れになってしまうだろう。

 少なくともこのままでは、たちどころにダンジョンコアを破壊されてしまう。

 まだ、ここで死ぬわけにはいかない。すぐにダンジョンの制作に取り掛かるとしよう。


 地図に向かって念じると、コアのある小部屋の真上に、巨大な立方体が表示される。

 一辺がおよそ1キロメートルのこの立方体は、『キューブ』と呼ばれるダンジョンの構成要素だ。

 ダンジョンの領域を拡張するためには、この『キューブ』をいくつも設置していく必要がある。

 新しい『キューブ』を設置するためには、ダンジョンポイント―『DP』と呼ばれるポイントを消費する必要があるらしい。

 ダンジョンが集めた魔力を数値化したものであるこのDPは、ダンジョンを作る際に最も重要となる要素の一つだ。


 DPを消費して利用できる機能は主に二つ。

 ダンジョンの内部構造を操作する機能と、物品やモンスターを召喚する機能である。


 ダンジョンマスターはこのDPを使い、ダンジョンを作り上げ、モンスターや罠を生み出し、ダンジョンへとやって来る侵入者へと備える。

 逆に言えば、ダンジョンを運営するとき、このDPが無ければ何もできない。

 現在ダンジョンが保有しているDPは、最初から用意されていた1,000ポイントのみである。


 DPを集める方法はいくつか存在する。

 一つ目に、ダンジョンがその規模に応じて毎日精製するものがある。

 DPの主な収入源はこれであり、十分な広さの領域さえ確保できれば、毎日安定した量のDPを供給してもらえるようだ。

 二つ目に、魔力を含んだ物体をダンジョンコアに吸収させること。

 これは、不要な物資などを処分すれば、その代わりにDPを獲得できるということだ。

 そして最後に三つ目。ダンジョンの外からやって来た生き物が、ダンジョンの中でその命を消費すること。

 つまり、ダンジョン内で一定の時間活動をするか、ダンジョン内で『死亡』することだった。


 外からやって来た生き物が、ダンジョン内で死亡する。

 それはつまり、ダンジョンマスターの命令を受けたモンスターたちによって、『殺される』ということ。

 より多くのDPが欲しいならば、生き物を追い払うのではなく、ダンジョンの中で殺せということだ。

 その中にはもちろん、今後ダンジョンへやってくるであろう、人間たちも含まれる。


 モンスターを駆使して人間を殺す。それは果たして人間なのだろうか? それとも――

 頭に浮かんでしまった嫌な考えを振り払い、モニターへと視線を戻す。

 コアルームに隣接して『キューブ』が設置されると同時に、新しい画面がモニターに表示される。

 現れたのは、今現在のダンジョンの領域の広さの情報と、立体的なダンジョンの全体図だ。

 『0』だったはずの現在階層数がいつの間にか『1』になっているが、これはキューブが設置されたためだろう。

 さらに、キューブの設置のためにDPが消費されたため、1,000あったDPが900に減っていた。


 次は、ダンジョンの領域を広げるために、次のキューブを設置してみるとしよう。

 最初にできたキューブの真横に新しいキューブを設置する。

 キューブは1階層につき水平方向に最大10個まで置くことができ、最大で10㎞×10㎞の領域を作ることができる。縦方向に設置するには、ダンジョンの最大階層数を増やす必要があるようだ。

 ちなみに、2階層目の追加に必要なDPは2万ポイント、今のところは夢のまた夢である。


 さらにもう一つ設置すると、DPは800になった。今のところ、一つのキューブを設置するために必要なDPは100のようだ。

 現時点で供給されるDPは、1日あたり100なので何もしなければ1日に1個ずつキューブを追加することができる。


 キューブを設置したことで、ダンジョンの環境を変えることができるようになった。

 初期状態のキューブの内部は土で埋め尽くされているのだが、環境を変えることで、広い空間を簡単に作ることができるらしい。

 しかし、一番コストの低い草原でも1,000ポイントが必要なようで、現時点では環境を弄ることは残念だができないようだ。

 無い物ねだりをしても仕方ないので、次の工程へと移ることにする。


 一番近いキューブを見つめながら念じると、キューブの内部が拡大される。次は、キューブの内部を操作することができるようだ。

 今のところ、通路や部屋の作成、モンスターの召喚などが行えるらしい。

 試しにコアルーム付近から真っ直ぐに通路を作ってみる。すると、縦横2メートルほどの通路が出来上がった。


 通路の長さは5メートルほどで、真四角にすっぱりと切り抜かれたような形だ。

 モニターに表示されていた残りDPを確認して、表示されていた数値に思わず手を止めてしまう。

 表示されている残りDPは780ポイント。

 たった5メートルの通路を作るだけで、20ポイントのコストがかかるということだ。

 その事実に顔をしかめる。これでは、すぐにDPが尽きてしまう。


 通路を細くすれば、より長い通路を作ることができるだろうが、ダンジョンのルールのひとつがそれを許さない。

 コアから地上までつながる通路は、最小でも縦横2メートルの広さが必要で、あまりにも細い通路だけで地上につながっていると、ダンジョンが機能不全を起こしてしまうようだ。

 1メートルにつき4ポイントで通路を作れるとして、現在作れるのは歩いてほんの数分程度の通路だ。

 仮に1日100ポイントのDPが供給されるとして、60日間で供給される全てのポイントをつぎ込んでも作れる通路の長さは2キロメートルにすら届かない。障害物もモンスターも存在しないなら、コアにたどり着くまでにゆっくり歩いても1時間もかからないのだ。


 ここで作業を切り上げ、DPを貯めて環境を設定すれば、ある程度広い空間を用意することはできる。しかし、それでは数日のロスが出てしまう。

 さらに、環境の設定により出来上がるのは、基本的には平地であるとのことだ。

 仮に広い空間を用意できたとしても、たった数キロメートル四方の平地では、今の真っすぐな通路と大して変わらない。

 ダンジョンの構造は命に直結するのだ。安易に選択してしまう前に、他に何かいい方法がないか考えるべきだろう。


 ダンジョン内に作られた通路を、モニター越しに眺める。どうやら通路は土でできているようだ。

 土、そういえば、この部屋も土でできている。試しに足元の土を手で掘ってみる。

 道具がないので多少面倒だが、特に何事もなく掘ることはできるようだ。それならば、ダンジョン内の土も掘ることができるかもしれない。


 コアの力に頼らずに土を掘るならば、DPを消費することなくダンジョンを拡張することができる。

 だが、今いるダンジョンコアの安置された部屋――コアルームとダンジョンは現時点ではまだ繋がっていない。

 そもそも、コアルームとダンジョン内部が繋つながっていたとしても、先ほどと同じ5メートルの通路を作るだけでもどれだけの時間がかかるのかすら予想できない。


 やはり、草原が設置できるだけのDPが貯まるまで待つべきだろうか?しかし、できれば今日中にモンスターの召喚も試しておきたいところだ。

 そこまで考えたところで、あることを思いつく。

 モンスターならば、ダンジョン内に呼び出すこともできる。そして、今ならある程度の数を揃えることもできるだろう。

 そう、召喚したモンスターに穴を掘ってもらえばいいのだ。


 さっそく、召喚できるモンスターのリストを眺めながら、穴掘りに適したモンスターがいないか探していく。

 召喚できるモンスターの数は膨大で、ファンタジーでは定番のゴブリンやドラゴンなどから、名前だけではよく分からないモンスターまでかなりの数が存在している。

 その中で目を引いたのは、ジャイアントアント――巨大なアリのモンスターである。

 アリのモンスターならば、穴を掘ることもできるはずだ。それに、アリの巣のようにに枝分かれした迷路のようなダンジョン。これはいいかもしれない。


 現在召喚できるジャイアントアントは、ワーカーアント、ソルジャーアント、マザーアントの3種類だ。

 それ以外にも存在するようだが、条件があるようで現在は召喚できない。

 ワーカーアントを召喚するためには1体につき100ポイント、ソルジャーアントは200ポイントのコストが必要となる。

 マザーアントは2万ポイントで、とてもではないが現時点では手が届かなかった。


 まずは一番コストの低いワーカーアントを召喚してみるとしよう。

 ワーカーアントを召喚するように念じると、ダンジョンコアが輝き、通路内にモンスターが召喚される。

 現れたのは、体長1メートルほどの巨大なアリのモンスターだ。

 やや小さめだが、ペンチのような顎を噛みならし、頭から伸びる二本の触覚で辺りあたりを探っている。

 ワーカーアントが召喚されると同時に、ダンジョンの総戦力が10に上昇した。あのワーカーアントの戦闘力は10ということなのだろう。


 さっそく召喚したワーカーアントに命令して、通路を掘り進める。

 ワーカーアントはその顎で土を掘り崩すと、口から出した液体と混ぜ合わせて器用に固めて足元へと捨てている。

 ワーカーアントが掘った土は、ダンジョンコアの機能の一つである、倉庫へと放り込んでおいた。

 ダンジョンコアに吸収させてしまってもいいのだが、魔力をほとんど含んでいないようなのでDPを獲得することはできない。

 倉庫の容量はほぼ無限に近いようなので、とりあえず放り込んでおいても邪魔にはならないはずだ。貧乏性だが、何かに役立つこともあるだろう。


 土を放り込みながら倉庫の機能を確かめているうちに、ワーカーアントは順調に通路を掘り進み、その先に小部屋を作り上げたようだ。

 さすがにアリのモンスターだけあって、土を掘るのは得意らしい。

 ワーカーアントは、口から先ほど土を固めるのに使った液体を出しては小部屋の壁に塗り込んでいる。

 液体が染み込んだ壁を触覚で叩いて確かめている様子を見るに、おそらくは土が崩れないように補強をしているのだろう。


 ワーカーアントの有用性も確認できたので、さらにもう4体のワーカーアントを追加する。これでワーカーアントは計5体だ。

 引き換えに、残りのDPはたったの300ポイントになってしまった。

 特にやるべきことも無くなってしまったので、5体のワーカーアントたちにダンジョンの拡張を続けるように命令し、彼らの様子を観察する。

 新しく現れた仲間と喧嘩をすることもなく、ワーカーアントたちは協力しながらダンジョンの拡張を進めている。


 ペンチのような形の顎がまるでケーキのスポンジのように土を掘っていく様子を眺めているうちに、ゆっくりと時間が経過していく。

 アントたちの巣の拡張風景を眺めつつ、ふとモニターに表示されている時間を見ると、ダンジョンの入り口を設定してから10時間ほどが経過してしまっているようだった。

 それなりの時間が過ぎ去っていることに気が付くと同時に、急に眠気がこみ上げてきた。

 あまり長く起きていたつもりはないが、いろいろなことがありすぎて、精神的に疲れていたのだろう。このまま眠気に任せて眠ってしまうことにする。

 ワーカーアントたちには引き続きダンジョンを拡張しておくように伝え、眠ろうとしたのだが、そこでベッドがな無いことに気が付いた。この部屋にあるのは堅い土の床のみ、こんな場所ではよく眠れない。

 眠気に耐えつつ、モニターから一つの機能を呼び出す。

 呼び出したのは、DPと引き換えにいろいろな物資を手に入れることができるショップ機能である。

 ショップには剣や弓矢などの武器や使い道もよくわからない道具、お菓子などの嗜好品に家具類、果てにはどこかで見たようなゲーム機なども並んでいる。


 そこから残されたDPで手に入るベッドを探し出し、すぐに召喚した。

 50ポイントのDPが消費され、藁束を敷いた粗末なベッドが現れる。

 木枠の中に藁を敷き詰め、シーツを被せただけの簡素なものだが、硬い土の床よりはマシだろう。眠気に誘われるように藁束のベッドに横たわる。

 藁のベッドの寝心地はあまりよくないが、疲れているためかすぐに眠気が押し寄せてくる。

 今はこの藁のベッドだが、もう少し余裕ができたら、もっといいものを手に入れるのもいいかもしれない。

 ショップ機能のリストの中には、見るからに高級そうなベッドもいく幾つかあった。きっとあれで眠ったら、気持ちがいいのだろう――

 そんなことを考えているうちに意識が遠くなっていった――

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