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ボロロボ  作者: りの
6/6

存在しない痛み問題

前回、くるみは新しい服を着るため、シアンと共に服を探していた。普段着とパジャマを手に入れて約2週間、すっかりお気に入りの服になっていた。

 西暦2046年6月3日、時計の針は11時を指し、もう外は真っ暗だった。シアンはパジャマ姿になったくるみをベッドに連れてきた。


「さぁ、もう寝る時間だ。」


「おやすみなさい、ペストマスクさん。」


「うん、おやすみ。」


 シアンが部屋から出るところを確認した後、くるみは枕の下に隠していた何かを取り出した。


(へへへ、ペストマスクさんは気づかなかったね……!)


「てってれ〜!すご〜く怖い本!」


 取り出したのは子供向けではあるものの、非常に恐ろしい内容の本だった。


「ペストマスクさんには見るなって止められているけど、見ちゃうもんね!」


(……どうせそんなに怖くないよね。)


 バカだからかどうかは不明だが、くるみは昔から人一倍怖いもの知らずだったので、序盤はスラスラと読めていた。


 しかし30分後……


 最初は余裕を持って読んでいたものの、ページをめくるにつれて身体の震えが強くなっていた。くるみが読んでいたのは、この本で最も怖いシーンだった。


『少年はその後、大きな電動ノコギリで腕を……』


 その後の文章を読むのがあまりにも恐ろしすぎて、本を咄嗟に投げ出してしまった。


 ガクガクブルブル……


 投げ出した本の表紙には、()()()()()()()()()()(誰かに似ている)が鎌を持っている絵が描いてあった。くるみは布団に隠れながら表紙を恐る恐る見ていると表紙のペスト医師がこちらを睨んだ様に感じ、急いで布団に包まった。


「あ、もうこんな時間だ、寝ないと……」


(怖い夢は見ない……怖い夢は見ない……怖い夢は見ない…………)


 怖い夢を見ないように心の中で唱えていた。しかし、怖い怖くない以前にあまりにも眠すぎて、あっという間に寝てしまった。


「んん……」


 数分後、くるみは目を覚ました。


「眩しい……あれ?」


 気づくと薄暗い病院のような空間の台に寝ていた。立ちあがろうとしたが、首と四肢がベルトで固定されていたため、全く動くことができなかった。くるみは不安になり、動かせる範囲で周りを見渡した。見る限り左側に小さな台があるのみだった。その台には複数のメスと電動ノコギリが丁寧に置いてあった。


「やあ、目覚めたかい?」


 誰かの声が聞こえた。声の先には黒い人影が立っていた。


「……だれ?」


「それはもちろん私だ。」


 黒い人影はくるみの方へ歩いてきた。その正体は本の表紙に写っていた黒いペスト医師(ここでは『黒ペス』と呼ぼう)だった。それを見たくるみは冷や汗をかいた。


「何故だかわからないけど、私は拷問が大好きでね。」


 黒ペスは小さな台にあった電動ノコギリを持ち、電源を入れた。くるみが怯える姿を見て、大きく口を開けてニヤリと微笑んだ。


「私にはね、欲しいものがあるんだよ。」


「……欲しいものって?」


「それはね……お前の腕だよ!」


 黒ペスはくるみの右腕を押さえつけ、電動ノコギリを近づけた。


「いや!」

 

 くるみは必死に抵抗しようとするが、拘束されていたためただ体力が削られていくだけだった。遂に電動ノコギリが押し付けられ、くるみの右腕は犠牲になった。


 聞こえてきたのは血が飛び散る音と骨が砕ける音、そして自分自身の断末魔だった。


「痛ぁぁぁーーーいっ……!!」


 いきなり目が覚めたくるみは右腕を抑えながら大声を出して起き上がった。抑えていた右腕は、義手だった。


ガチャン!


「大きい声が聞こえたぞ!大丈夫か?!」


 くるみの声は壁を超えて聞こえたらしく、心配になったシアンは急いで様子を見にきたのだった。

 

「腕が切られて痛い。」


 どういうわけか、夢から覚めてもくるみの右腕の痛みは治らなかった。


「腕が切られた?」


「さっき、黒いマスクをした黒い人が私の腕を切ったの……」


「でも、君の腕はとっくに切断されているじゃないか……」


 シアンはイマイチ状況が掴めなかった。どうせ怖い夢でも見たのだろうと思っていたのだが、くるみがボロボロと泣いて痛がっている姿は一度も見たことが無かったため、かなり心配になった。


「……こうなったら()()()のところへ行くしかないのか。苦しいかもしれないが病院に行く準備をしておけ。」


 シアンはくるみの様子を伺いつつマゼルに連絡をした。


「……マゼル、今から病院へ向かっても大丈夫か?少女が奇妙な事を言い出したんだ。詳細はまた後ほどドロップする。」


 くるみはマゼルという言葉に反応した。


「マゼル……?それって確か()()()()()をしている……」


 恐ろしい夢の影響でど忘れしたのか、彼がどんな姿なのかくるみは思い出せなかった。


 29分後……


 くるみは苦しそうに松葉杖をついていたが、なんとか病院の前に到着した。


「マゼルには何度も会っているし、お世話になっている。ちゃんと挨拶するんだぞ。」


「う、うん……」


 2人は病院へと入った。


「失礼します。」


 病院にいた医者はもちろんマゼルだった。くるみはマゼルを思い出したが、その姿に既視感があった。


「え、この人……」


 黒いペストマスクを付けた全身黒い人。くるみの夢に出てきた黒ペスに瓜二つだった。夢の出来事を思い出したくるみは、松葉杖を放り投げてシアンの後ろに隠れた。


「あの人!私の腕を切った人!」

 

「お、おい!失礼だぞ!一応私の先輩なんだから!」


 マゼルは微笑みながら見守っていた。


「何の病気なのか、実に興味深いね。」


 マゼルはくるみを手術台に寝かせて右腕をベルトで固定した。

 

「そのまま寝ていなさい。」

 

(なんか…この状況夢でもあったような……)


「ふむふむ、今はどれぐらい痛むのか、痛覚を確かめられる装置を元に調べてみよう。」


 大まかな検査が終わると装置のモニターには数値と波形が現れた。


「痛みの数値を見る限りでは確かに痛がっている。……しかし、両腕と片脚が切断された時の方が確実に痛い筈だ。」


「最初は絞扼性神経障害かと思ったがこの子は義手だからその線は無い。恐らくこの子の痛みはファントムペイン、つまり『幻肢痛』だろう。原因が不明だが、以前失った手の痛みが遅れて襲ってきたのかもしれない。まるで麻酔が切れたようにね。」


「存在しない痛み……紛争時に何度か見てきたな。手足が無いのに手足の傷の痛みが未だに残り続ける病。合意の無い手術も原因の一つだった。」


 マゼルは奥にある引き出しから液体が入った小さな瓶を取り出した。


「くるみは神経糸を用いた義手を付けているから、治療は短期間で終わるだろう。それに私の作った万能薬のMCE(Mazelian Calming Elixir)を打ってば回復するだろう。」


 マゼルは早速MCEを打つと、くるみは意識が朦朧となり気づけば寝てしまっていた。


「……MCEには睡眠作用があるのか……?安全な薬なんだろうな?」


「薬は3倍に薄めてあるから、副反応も軽度で済む筈だ。くるみ君が起きたころには痛みも取れているだろう。」


「それだといいのだが……」


 2人はくるみが起きるまで会話をしながら待っていた。その一方、寝ているくるみは夢を見ているようだった(浅い睡眠)


「……あれ?ここ……見たことあるような場所……?」


 気づくと薄暗い病院のような空間の台に寝ていた。立ちあがろうとしたが、首と四肢がベルトで固定されていたため、全く動くことができなかった(デジャブ)


「やあ、目覚めたかい?」


 誰かの声が聞こえた。声の先には黒い人影が立っていた。


「……だれ?」


「それはもちろん私だ。」


 黒い人影はくるみの方へ歩いてきた。その正体は(以下略


 「何故だかわからないけど、私は拷問が大好きでね。」


 黒ペスは小さな台にあった電動ノコギリを持ち、スイッチを入れた。くるみが怯える姿を見て、大きく口を開けてニヤリと微笑んだ。


「私にはね、欲しいものがあるんだよ。」


「……欲しいものって?」


「それはね……お前の脚だよ!」


 黒ペスはくるみの右脚を押さえつけ、電動ノコギリを押し付けた。


「痛ぁぁぁーーーいっ……!!」


 いきなり目が覚めたくるみは大声を出して起き上がった。もちろん、シアンもマゼルもびっくりしていた。


 くるみは右脚を抑えようとしたが、右脚は以前から無かった。


 右脚の痛みはどこからきているのか、全くわからない気持ち悪さと苦しさに襲われ、くるみはまたボロボロと涙を流していた。


 その様子を見ていたシアンは不安になった。

 

「マゼル、この薬は本当に効くのか?」


「えっと、あ……あぁ、もちろん効くはずさ……!劣化してなければの話だが…………」


「少し前の時代だったら大炎上問題だぞ…………とりあえずくるみをどうにか落ち着かせよう……」


 科学技術の発展で昔は治療が難しかったものも、今では簡単に治療できてしまうこともある。しかしながら、必ずしも安全性が確立されているとは限らない。


 どんな小さな問題を解決したとしても、大きな代償が伴う危険性は否定できない。

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