被服問題
前回、頭が悪いくるみが一生懸命勉強してIQ150を記録させた。でも、それよりも嬉しかったのは、マゼルの誕生日を祝えたことだった。そんなこともあり、シアンとくるみの関係は深くなっている。
西暦2046年5月19日、くるみは何気なく鏡で自分を見ていた。
何もせずただじっと鏡を見つめているくるみを見てシアンは不思議そうに感じていた。
「どうしたくるみ?鏡ばっかり見ていて。」
「…………私が着ている服、いつどこで着替えた服なんだろう。」
「……少なくとも私と会った時から着ていたぞ。」
「そうだよね……こんな服買った覚え無いの。なんか気づいたらこの服を着ていた。」
くるみは不可解なことを言った。
「うーん……寝る時もずっと着てたからだんだん汗臭くなってるし、変えの服が欲しいな。」
新しい服が欲しいということだとシアンは察した。
「なぁ君はどんな服が欲しいんだ?」
「んーとね、女の子みたいな服が欲しいかな!」
「わかった。私のタンスを探してくる。」
10分後…
「待たせたな。サイズが合うかわからないが着させてやる。……そろそろ義足の部品も買ってつけてあげるから足は少し我慢してくれ。」
「うん、わかった……!」
くるみが着せられた服は白いブラウスに紺色のカーディガン、黒いスカートという組み合わせだった。
「あ、ありがとう……」
(こんな可愛い服を私が着ちゃっていいのかな?)
シアンはくるみの姿を見ると目を大きく開いて(比喩)驚いた様子を見せた。
「ど、どうかな?」
「とても似合っているぞ。」
シアンは嬉しそうな表情を浮かべながら褒めてきた。
くるみは自分の姿を鏡で見てみた。
「わっ!すっごくかわいい!」
くるみは思わず声を上げてしまった。
「さっきまで着ていた服は洗面所に干しておこう。あとその服は君のものだ。好きに使うといい。」
「……でも、この服ちょっとだけブカブカで動きにくいかも…」
「なら私が子供の頃着ていた服を貸してやろう。ほら、これを着てみるといい。」
シアンはタンスの中からTシャツを取り出しくるみに手渡した。
「子供の頃と言ってもほとんど着ていなかったから新品同様だろ?」
「あ…ありがとう。」
Tシャツを着たくるみはピッタリのサイズ感になった。
「おお〜ぴったりだ。これならいいだろう。」
「いいけど……なんかすごくダサい英語の文字と変な絵が書いてあっていやだ〜!」
「どうしてだよ。雷もあるし、カッコいいドラゴンだって描いてあるじゃないか!」
「それがダサいよ〜……ううう…」
くるみはこのデザインだけはどうしても受け入れたくなかったようだ。
「ならもう1度探してくるよ……待っていてくれ。」
「え?あっ……」
再び10分後…
「待たせたな。今度はちゃんとしたデザインのTシャツを選んできたぞ。」
今度のTシャツはドクロマークとダサいフォントの英語が描いてあった。
「これも嫌なんだけど!?」
「じゃあどんなTシャツが良いんだよ?」
「うーん……もっとかわいいの無い…?」
くるみの要望を聞いてシアンは再びタンスの中を漁り始めた。
「うーむ……ロックバンド好きの私が持ってる訳………おっと、これなんてどうだろうか?」
「なぁ、こんなのはどうだ?かわいいだろう?」
「ふふふ、ペストマスクさんちゃんと選んでるの…?」
シアンが見せてきたのは民族衣装のようなものだった。
「どこで買ったやつなの〜?」
「あぁ、ロシアにいた頃に貰った民族衣装か何かの服だ。もう50年以上前の話だが。」
(すごく昔…!)
「なんでロシアにいたの?」
「私の生まれはロシアなんだ。正確に言えばイルダンガ共和国というシベリア特別区出身なんだが、生まれた頃から連邦軍と分離主義者の衝突、つまり内戦が続いていたんだ。」
「ないせん…?」
「……自由のために戦っていたって事だよ。」
「そうなんだね。ペストマスクさんも戦ってたの?」
「そうだ。小さい頃から戦ってきたんだ。」
「でもペストマスクさんはロボットだから強かったでしょ!」
「いや、昔は私も人間だった。完全サイボーグ*になったのは20歳の頃だ。」
*全身をサイボーグにした人間のこと
「そうなの!?」
シアンの言葉に驚いた。なんとシアンは元々はくるみと同じ人間だったのだ。
「それからは他とは違う完全サイボーグとして戦っていたが、まぁ……色々あってサイボーグ生物学研究に力を入れている日本へ来たんだ。……と言っても半分は師匠であるマゼルに着いて行っただけなんだがな。」
シアンの話を聞いてくるみは黙ってしまった。少し暗い雰囲気にさせてしまったのが申し訳なかったのか、シアンはくるみの頭を撫でた。
「くるみの新しい服を探しているんだったな……申し訳ない。どんな服がいいんだ?」
「……うーんとね、女の子っぽいけど男の子っぽい服。」
「なるほどユニセックスな服だな、わかった探してくるよ。」
「だめ!ペストマスクさんは服のセンスがないから私が探す!」
くるみは明るい声で答え、シアンと一緒にタンスの中を調べ続けた。しかしなかなか良い服が見つからず、時間は過ぎていった。すると、シアンは何かを思い出したかの様な表情をした。
「あれなら…」
シアンはタンスの奥にある箱を取り出した。その箱には小さいミリタリージャケットなどが入っていた。
「これは何の服なの?」
「これは私がくるみと同じぐらいの頃に戦いに行く時に着ていた服だ。」
「これならいいかも…!」
試しにくるみは着てみた。
サイズはピッタリでとても似合っていた。くるみは嬉しそうにはしゃいでいた。その姿を見てシアンは微笑んでいた。
「この服カッコいい!この服ならいっぱい着たいって思えるよ!」
「じゃあこれで服探しはおしまいだな。」
「うん!」
ただ、服を探していただけなのにこんなにも過去の思い出を振り返るとは思っていなかった。
記憶を蘇らせればくるみに着せたミリタリースーツなんか多くの血痕の跡がついていた。それにも関わらず、全て何もなかったように洗い流されている。
くるみはそんなことも知らずに服を着ている。でも、知らなくていいんだ。今の幸せは過去があったからこそあるんだから……多分。
「あ!」
くるみは思い出したように叫んだ。
「どうした、何かあったのか?」
「パジャマも探さないと!」
「マジかよ………。」
シアンにとっては地獄の服探しが再び始まり、それは一日中続いたのだった。




