食糧問題
前回、シアンは世界から狙われている少女のくるみと出会ってしまい、緊張感のある生活を過ごすこととなった。
西暦2046年4月10日、くるみと出会ってから3日が経った。今日は曇っていてなんだか寂しい感じ。シアンは生きている人間を保護しつつ、ホワイトハッカーとしての仕事も行なっている最中だ。
(ググゥ〜ッ…)
くるみのお腹の音が鳴り響いた。
「ね〜ね〜、おなかすいた〜。」
人間には食欲というものがある事をシアンは思い出した。
「そういえばキミ、出会ってから3日間何も食べてないな。」
3日間何も食べていない……自分が言ったその言葉にどこか引っ掛かりを感じた。
(この子、私と出会う前も食事していない筈…少なくともこの子が世界に姿を現した約1週間前は何も……)
(…待てよ?人類が滅亡してから数年間、食物は安易に入手できない。今までどのように生きてきた…?栄養失調にはならなかったのか?)
シアンはくるみの謎を知ろうと質問を投げかけた。
「キミ、最後にごはんを食べたのはいつ?」
「あれ……?確か1週間ぐらい前かな?ママの作ったソイミートハンバーグを食べたよ!」
(約1週間前に食べた…?それはまだ生き残りの人間がいるということか?いや、恐らくこの子の記憶違いだろう……。)
(この子、反乱の事すら知らなかったんだ…。恐らく何を言っても曖昧な回答しかしないだろう。)
「とりあえず買い出ししてくる。だが、ロボットは基本的に食事はしない。食物を探すには時間がかかるかもしれないが、少しの間我慢してくれ。」
「いってらっしゃ〜い。」
(食べるものなんて普通は売ってない。食物の工場なんて全て違う工場に変わっている……多分)
食物は今も売っているのか。食物の代替となるものはないのか。そんなことを考えながらシアンは街を歩いていた。
「そうだ。あそこがいい。」
シアンが最初に目を付けたのは人間の真似、そして人間だと思い込んでいる新型ロボットのための店、
「フードドリンク店」だった。
フードドリンク店では、電脳に繋がるニューロンを刺激させることで機械にはない味覚を擬似的に再現させるドリンク(但し旧型には効果がない)を提供してくれる。
中毒性がかなり高く、巷では「ジャンクドリンク」と呼ばれている。過去には数十件のロボットの「死*」が確認された。
*電脳の機能停止、修復不可能状態のこと。
(……人間にとってはかなり毒だろうか…それに300mlで40クレジットでかなり高価だ。コスパが悪いのでフードドリンク店はパス。)
次に訪れたのが40年前から存在するスーパー。人類滅亡後、廃墟のまま放置されている。
「ここなら流石に食べるものがあるだろう…。」
動かない自動ドアを無理矢理こじ開けて中に入っていった。しかし、廃墟の中はゴミだらけで汚いのはもちろん、腐った食物だらけだった。
(完全サイボーグだから嗅覚はないが、吐き気を催しそうそうなほど汚いな…)
シアンは食べれそうな物を探していたが、殆どが腐ったブロックシリーズ*と既に食べられている痕跡しかなかった。
*帝国時代に流行った安価で大量生産された添加物の多い食物のシリーズ。
「腐った物を食べさせるわけにはいかない、ここもパスだ。」
結局、廃墟のスーパーマーケットですらろくなものが見つからなかったため、シアンはまた別の方法を考えなければならなかった。
(どうするべきか……このままじゃあの子は餓死してしまうぞ……。)
何も見つけることができず、途方に暮れていた。
「サイボーグも疲れるんだな……これじゃ生身の人間と変わらないじゃないか……」
そう呟いている時、ある店が目に入った。
「コモンストア」
前に一度行ったことのある店だった。
「そういえばこの店……」
(過去データ検索中…)
――約10年前、まだロボットの反乱が起こる前に行った……私が顔を隠すマスクを探している時にたまたま入店した……人間用の食物が売っていた店……
シアンはコモンストアに関する記憶を全て思い出した。
「ここなら食物が売っているかもしれない。」
シアンはコモンストアへ入った。
(カランコロンッ……)
「あ、いらっしゃい!コモンストアへようこそ!2日ぶりの来客だよ。」
店にいたのは10年前と全く同じ旧型ロボット*だった。
*新型ロボットよりも前に作られていたロボットのこと。また、国が推奨、提供しているもの以外の電脳、OSを使用しているロボットのこと。
(ここでは旧型ロボットの彼の名前は「ハコロボ」にしよう。)
「やぁ、久しぶり。覚えているか?」
「いや、まったく……」
「メモリーデバイスに2035.11.29.16.14.35と検索にかけてみろ。私を思い出す筈だ。」
「ストレージ10TBのクソ雑魚ロボットがそんな早く思い出せねーよ。」
旧型ロボットは補助パソコンと電脳を有線で繋ぎ、記憶を検索した。
(過去データ検索中…)
――「人間の……お客さん…………私が人間に見えるのか………大変失礼s……コモンスト……この店に……人間用マスク…売っていないか……すまない………生憎人間用の食いモ……人間すら来ないか……在庫は………すまなかった………アンテイクなら売ってる……」
「恩は必ず返す。お前の目は正常だ、自我を持つ機械よ。」――
「…はッ!」
ハコロボは全てを思い出した。
「お、お前……思い出したぞ!10年5ヶ月11日18時間3分21秒466ぶりの再会だな。」
「29秒088ずれているぞ。」
「……人間でもないお前さんがこの店に何のようだ?」
「ああ、人間の食いモンが欲しいんだ。」
それを聞いたハコロボは驚いた。
「か、買ってくれる人なんていないから嬉しいけど、気が狂ったのかお前さん…!?」
ハコロボは人間の食物を買おうとするシアンに疑問を抱いてた。
「あ…いや……あの時マスク売ってる場所教えてもらった恩返しだ。」
少々暴論になってしまったが、ハコロボは納得してくれた。
「人間の食いモンなんて限られているぞ。ええっと……」
「帝国時代に大量生産しれた『ブロックシリーズ』のドライプレーン(通称:帝国ブロック)なら腐るほどあるぞ。これなら賞味期限も気にせずに食べられるぞ……人間ならばな。」
「一つ15クレジットだ。」
なんてボッタクリなのだろうか。帝国時代は3帝国円(約8クレジット)で買うことができたのに。それでもシアンはハコロボの意地悪を我慢して買ったのだった。
「……助かる。ブロックシリーズは私も好きだったからな。」
「お買い上げありがとよ!お金も貯まってきたし、お前さんを見たら6年ぶりにOS更新してきたくなってきたなぁ〜。」
「6年ぶりって…ウィルスとか大丈夫かよ……。」
「大丈夫、電脳は常時オフラインだしネット環境は補助パソコン経由だから。」
「機嫌が良さそうなところ申し訳ないが、OSはもうアップデートしない方がいい。」
シアンは上機嫌なハコロボに対して言った。
「おい、なんで更新しちゃいけないんだよ。」
「なんでもだよ。じゃ、また近いうちに買いにくる。」
シアンはそのまま店を出て行った。
(……あいつが言っていた『OSをアップデートしない方がいい』とは、一体どう言う意味だ?)
ホワイトハッカー兼プログラマーであるシアンはある事を知っていた為、ハコロボにはあのような事を言ったのだった。
(幸いにも奴はOSをアップデートしていなかったようだ。それにネットは外部装置経由で繋いでいるみたいだし……。だが、それも時間の問題だ。)
シアンは少々難しい事を考えながらも、自宅へと帰ってきた。
「ただいま。」
「あ!おかえり〜!何かおいしそうなものあった?」
シアンを見たくるみは嬉しそうな様子だった。
「ホラ、これを買ってきたぞ。」
シアンはくるみに帝国ブロックを渡した。
「ありがとう……あ、これって」
くるみは何かに気づいた。
「これって帝国ブロックだよね!ときどき夜ごはんがこれだけ出される時があったよ〜!」
「おぉ、君物知りだね。帝国ブロックを知ってるなんて。」
「へへ〜ん、私すごいんだよ〜!昔ね、コレが発売された日にパパが買ってきてくれたんだよ!」
「へぇ、発売日かぁ〜…………ってえぇぇぇ?!!発売された日ぃぃ?!」
シアンは驚きを隠せなかった。
「ペストマスクさんなんで驚いてるの?発売されてからまだ2年ぐらいしか経ってないよ。」
くるみの言っている事は何かがおかしかった。帝国ブロックの発売日は18年も前だからである。
そこでシアンは質問した。
「君、いつ生まれたんだ?」
「そういえば言ってなかったね。私は2020年10月31日生まれだよ。まだ10歳だけど、今年で11歳になるんだよ〜!」
くるみの発言は何もかもの辻褄が合っていなかった。
今年は2046年だから2020年生まれの人は26歳になる筈だ。この子の記憶が15年ズレているのだろうか。……しかし、ズレていたとしても見た目は完全に小学生ぐらいの少女だった。
くるみは過去から来た少女なのか。
シアンはそうこう電脳を回転させながらくるみの事を考えていたが、お腹が空いていたくるみは帝国ブロックをすかさず食べていた。
(モグモグ…)
「……あれ?」
「二週間前に食べたと思っていたけど、ものすごく久しぶりに食べた気分……」
帝国ブロックを食べたくるみは、何故かノスタルジーに浸るような気持ちになっていた。




