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第15話

ロビンとの会話が長くなり、思っていた以上に朝食の時間を取ってしまった。


慌てる様に身支度を整え、出かける際にはロビンから「あっ、そうそう、ラドは、うちの兄さんより年上ですよ、ああ見えて」と微笑みながら告げられた。


『あっ、そうなの?』と思いながら、アッシュは、そのラドが待つ、自分の元職場へと駆け出して行った。


ゼイゼイと息を切らしながら、役場まで掛けてきたアッシュを、美しい顔の男ラドが役場近くの物陰から出て来て出迎えてくれた。


「お・・お待たせして、ずいま・・ぜん」


息切れの状態で、取り敢えずアッシュは謝罪をした。


すると、ラドは何事も無く「では参りましょうか」と、アッシュを促し、役場へと足を押し進めていく。


気持ちを落ち着かせる時間も貰えず、背中を押されている感じがしないでもない距離で、アッシュはラドと並んで歩いて行く。


「おはようございます」


まだ、一般の方の来訪が許される時間からは少し早く、役場の職員が勤務の為に訪れる時間である。


アッシュの声に、役場の職員が振り返り、皆が、アッシュを見つめてきた。


その目は、驚きの目が大半だ。一人、二人、三人・・・と見える範囲で、冷ややかな目を向ける者もいるが。


「あのう、昨日のことで参りまして」と告げると、奥にいた役場の所長が慌てて近づいてきた。


「あ・・アッシュくん、ちょっと先にこっちで話そうか!」


所長はつるりとした頭に汗を浮かべながら、アッシュを所長室へと促す。もちろん、ラドも続いて入室した。


「えっと、そちらの方は?・・・」


所長室に一緒に入室してきた美形の男に目を瞠り、思わず、所長がアッシュに尋ねて見せる。


「申し遅れました。私は、アッシュさんの秘書としてお傍において頂いています。ラドと申します」


秘書と名乗るラドに、所長は口を開けたまま、暫し、彼を見つめた。


「ああ、もう、秘書までいてるのかい。じゃあ、やっぱり気の迷いではないということか・・」


所長は少し項垂れて、ため息を零して見せる。


「気の迷い・・ですか?」


アッシュは所長の言葉を拾い、そして、その言葉を繰り返してから、チラリと、ラドを見やりながら、『それだと良かったんだがなぁ』と思う。


「いえ、個人的に色々とありまして」


アッシュは、少し、視線を下げながら、昨日のエディとのやり取りなどを思い起こしながら告げた。


「役場を辞めてまでやりたいことなのか・・」


所長がアッシュに諭す様に声を掛けだしたが、アッシュはなかなか答えられずにいる。


「まあ、お前が決めたのなら、こちらからは何もいうことはないよ」


所長が、そこで言葉を一度止めてから、アッシュに手招きをして距離を縮める様に促す。


アッシュは、その行動に、首を掲げながらも所長の傍に移動していく。


そんな二人の姿に、扉の前で立つラドは、目を細めて見つめていた。


「あのな、役場に居るケント、それにお前の上司のセフィ、そして、退職はした形にはなっているが、公人幹部とかの役職でいるでジムラル、あの辺りには気をつけるんだ。私は、所長とはなってはいるが、役職がないのと同じだ。他にも、駐屯騎士団にも「平民議員」の縁者がいる。お前には、ハロルド商会がついてるみたいだが、用心に越したことはない。本当に気をつけろよ。私に出来る事は少ないだろうが、協力はするよ」


小さな声ではあるが、とても重要な話を告げる所長に、アッシュは驚き、マジマジと所長を見つめる。


「驚いただろ・・私も何とかしたいとは思ってはいたんだよ。だが、奴らの縁者がこうも食い込んでくると、動けなくなってきてしまってな。そうこうしていたら、見過ごすしか出来なくなっていたんだ。アッシュがやるなら、私も踏ん張る。役場の中にも歯痒い思いをしている者もまだいてる。そいつらを束ねておくようにするよ」


所長は頭を掻きながら、アッシュに向けて頷いて見せる。


「あのう、少し宜しいでしょうか?」


良い雰囲気で話が終わりかけたその時、扉前に立っていたラドが、所長との会話に割って入って来たのだ。しかも、声を大きく出してである。


その様子に、アッシュも所長も驚いて、眉間に皺を寄せてラドを凝視する。


「有能なアッシュさんをお引き止めしたいのはよくわかりますが、あれこれ仰られても困ります。仕事が捌けないのなら、他の職員を育てるべきだと思います。あと、所長殿も協力なさるべきではないでしょうか?」


はァ?えっ?意味がわからない・・・アッシュはラドの言葉に困惑しだす。


ラドから紡がれる言葉は、先程からの内緒話とは繋がらないものばかりだ。


だが、ラドは口調だけでなく、アッシュらに見せる仕草も何だかおかしい・・・


ラドは口調は変わらず、目線だけを扉にやり、自分の耳に指をあててトントンと叩いて見せる、そして、その後、その指を扉に差し示す。


そう!要は、誰かが聞き耳を立てているということだ!


そう思ったところで、ラドが所長室の扉を勢いよく開いた。


すると、そこには、先程、所長が出した名前の一人、ケントが扉に耳を当てる格好で立っていたのだった。


「ネズミ発見か?」


ラドの美しい顔に、うっすらと笑みが浮かぶ。


「いや?、ち・・ちょっと、そのう、アッシュと話がしたくて・・・」


ケントは、妙な汗を体中に掻きだし、目はどこかを彷徨っている。とても、アッシュと話がしたいようには見えない。


「何を聞きにいらしてたんですか、あなたは?」


ラドの美しい顔が、ケントの鼻先ほどまで寄せられると、ケントは腰を抜かしながらも慌てて退却していった。


「早速、ドブネズミが現れましたね」


ラドは、クスリと少し笑いながら扉を閉め直し、アッシュと所長に向き直る。


「君、凄いな」


所長がラドの対応に感心したように告げる。


「これも、私の仕事ですから」


アッシュは、とんでもない人が付けられたと思った。


『こんな人が必要な訳か、「平民議員」になるというのは・・』


自分が進む道の険しさを思い知り、恐怖を感じた。


『私になれるのか、「平民議員」という者に・・・』


アッシュが戸惑いを覚える、その時。


「大丈夫ですよ。なれますよ」


と、まるで、心を読んだかのようにラドが告げた。


勿論、アッシュはギョッとしたのは言うまでもない。


「ところで、黒幕・・「平民議員」の正体、知っていたら聞かせて頂けますか?」


ラドが、口角をあげて、美しい顔を少し歪ませ、所長に問い掛けると、


「ああ、奴についても話そう・・」


所長が唇を噛みしめ、深い皺を眉間に刻みながら話をし出した。



最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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