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第14話

どんなに昨日が酷い一日で、どんなにそれに対して、悔やみ嘆いても、今日と言う日は変わらずやって来る。


横になっているベットに、今日も明るい日差しが注がれる。


起きたくない・・・子どものようだと思うが、許して欲しい。と、アッシュは、布団を頭が隠れるほど引き上げてベットの中で蹲る。駄々っ子アッシュくんの誕生である。


昨日は、ほとんど寝れなかった。昨日の朝に、盛大に転倒してしまい、そのせいで寝込んだからでは決してなく。


家族による理不尽な態度に、自分が不貞腐れたあげく宣言してしまった事で起きた後悔から、眠れなかったのである。


で、このまま、朝をいつもの様に過ごすと、もう本当に後に引けない気がしてアッシュは寝たふりを決め込んだのだった。


しかし、世の中、そんなことは許されないことは、アッシュにもわかってはいる。


自室の扉が無情にも叩かれ、聞きたくない言葉が聞こえてくる。


「お義兄さん!うちのハロルド商会から使いが来ています!すみませんが、応対してくれますか?」


「うっ・・わかった。着替えたら、すぐに行く・・」


結局、アッシュは駄々っ子にはなれなかった。根が真面目であった彼は現実に向き合うしかなく、布団から顔を上げて、ゆっくりとベットから降りて着替えを行う。


「はあ・・」


大きなため息を吐きだし、着替え終えた彼は、客人が待つ客間に出向いた。


客間を覗くと、ロビンと向き合う形で座る、このトウでは見る事がない都会的な整った顔立ちの男がいた。


こんな片田舎にそぐわない顔立ちの男が、アッシュを見るなり、すっとソファーから立ち上がる。


「おはようございます。はじめまして。エディ様から、アッシュさんの元へ伺うように命を受けて参りました。名は、ラドと申します」


ラドと名乗るその男は、美しい微笑みを向けてアッシュと挨拶を交わす。


自分より年下のようなラドの姿を眺めながら、アッシュは、彼に腰かける様に促し、ロビンの隣に自分も腰掛けた。


「あぁ、確か?昨日、エディさんから有能な部下を寄こすと言われたような気がします」


少し、昨日の別れ際での会話を思い起こしながら、ラドに頷いて見せる。


「それなら話は早い。私は、エディ様より、アッシュさんが「平民議員」となられるように、全力でお仕えするように命じられております。ですので、今日のこの時より、私は、あなた様の部下として忠誠致します」


ラドは座位のままではあるが、アッシュへ頭を下げて見せる。が、その姿を見て、逆にアッシュが慌て出す。


「あ‥頭は上げて下さい。お手伝い頂ける方がいるのは、本当に助かります。正直、何をすべきかもわからないので、助けて欲しいのは事実ですから・・」


恐縮しながら、逆に、アッシュが頭を下げだす。


そんな二人のやり取りにロビンが割って入り、ラドに話の続きを促してくれた。


「まあまあ、そんなことより、ラド、兄さんからは他には話はないの?」


ロビンは、エディの弟なだけあり、どうやら、このラドとは面識があるようだ。


「ございます。こちらはアッシュさんへのお手紙と、それから、こちらは、ロビンさんへのお手紙でございます」


さすが、ハロルド商会から使わされただけあり、ラドの着ている上着は高級なものらしく、上着の内側のポケットには名前が刺繍されている。


そのポケットから二通の封筒を抜き取り、それぞれ宛名が書かれた封筒を、その宛名本人の傍に静かに置いた。


白い封筒には、『ロビン』『アッシュ』と名が書き記されている。


互いがその封筒に手を伸ばして、封を開けて読み進める。


どちらも、内容は、エディからの指令書であった・・


『アッシュくん昨日はご苦労だったね。

早速だが、昨日交わした話の通り、君が「平民議員」となるべく為に、今日から行動に移していく。

まずは、君の勤める役場だが選挙活動に於いては規定があって、その一つに、公的な場とされる職種に携わる者は立候補出来ない定めがある。

よって、昨日、部下により立候補申請を行うロビンより一足早く、君の退職願いを出してきている。

なので、一度、役場に挨拶に出向く必要がある。

そこで、君には、君の退職について、役場で働く者たちがどのような反応であるか、その目で確認し、その一人一人のことを記憶してくること。

その後は、選挙活動の拠点としてやりやすい様に、ハロルド商会で所有する建物を提供するので、そちらに行くといい。

トウの町の中心部にあるから、いろいろと便利だろうと思う。

後は、ロビンと合流して、互いの情報を取りまとめておいてくれ。

それから、君の部下として、ラドを遣わせる。

彼は、王都で出会った男だ。その顔に似合わず色々とやって来た男で、少々危険なところはあるが、君の役に必ず立つはずだ。

なので、これからは、君のところで、君らしい部下に育ててくれ』


アッシュ宛てのエディからの指令書はこんな感じで書かれてあった。


少々、突っ込みたい内容が書かれてあって、驚いてしまったが・・


アッシュは、その要因である人、ラドを眺める。


本当に整った顔の男である。


隣に座る義弟も、顔立ちは良く女性受けするようではあるが、また、ちょっと違う。


昨日、輝くような出で立ちで姿を見せたエディもかなりの容姿をしている。


それでいて、財力や権力も備わっているから最高級な紳士に見えるが、それとも違う雰囲気がある。


整いすぎて怖いような感じがする。この指令書が原因かもしれないが、ラドからはそんな姿が見えてくる。


一方、ロビンは読み終えた指令書を静かに畳み、こちらも着ている一級品のシャツに備わる胸ポケットに仕舞い込んだ。


「僕は、兄さんの指示で、対抗馬のケーシーの動きを見て来るよ」


ロビンは、今日の自分の仕事を口にする。


「わかりました。では、私は、アッシュさんと今日は行動を共に致します。アッシュさんとは、今は一旦、ここで別れて、役場で落ち合うことに致しましょうか?」


ラドの気の利いた提案に、アッシュが「助かります」と小さく告げて、ラドとはその場で別れ、アッシュは慌てて、役場に出向く準備に取り掛かりだした。


朝食がまだであったので、ロビンとダイニングへ顔を出すと、メイが既に、食事の用意をしていてくれた。


「出かけるんだよね?」


メイがラドの退室する姿を確認してから行動したらしく、スープも出されお茶も温かかった。


「うん、お義兄さんと、僕は別行動だけどね!」


パンを皿に取りながら、ロビンがメイに応えて見せる。


「そうなんだ」


メイは、ふーんと然程興味がないのか、会話を流してから、フェイがいる自分の部屋に戻って行った。


その姿を目にしながら、誰も居なくなったところも確認し、アッシュはロビンに問いかける。


「さっきの、ラド?、あの人はハロルド商会で働いて長いのか?」


アッシュがパンを一口サイズにちぎりながらロビンを見つめる。


「あぁ、ラドですか?、いや、最近ですね。でも・・・」


と、少し思案しながら、パンを一口大へとちぎり、ロビンは口に運んでいく。


「兄さんとは長い付き合いみたいですね。ずっと、王都に居たようです。ご両親も王宮かで下働きして暮らされているようです」


ロビンはパンを咀嚼しながら、合間に、ラドの情報をアッシュに教えてくれる。


「まあ、一番、目に付くのはあの顔ですよね?良い顔してますよね?モテモテだったみたいですよ。小さい頃から、よく貴婦人などに呼ばれては色々とあったようです」


然も、何もないように話しているが、とても気になるラドの育生歴に、アッシュは少しむせた。


「ぎご、ごほっ!えっと・・」


「平民で顔がいい男だったから、小さい頃から貴族や金持ち連中によーく遊んで貰っていたようで、兄さんと出会った頃には、既に、相当な捻くれた人間だったらしいですよ」


ロビンは、むせかえるアッシュを気にも留めず、スープにサラダにと、次々に口へ運びながらも、尚も、ラドの素性について語る。


「あの顔を武器に女へ取り入り、それでのし上がっていこうとしていたみたいですね。そんな時に、兄さんと出会ったらしく。まあ、弟の口から言うのもあれですが、うちの兄も容姿はなかなかのもので、しかも財力もそこそこある訳で妬まれたようです。片田舎の商人の息子が出張るんじゃない!って感じで。縄張りを荒らすな!的なことがあったらしくて」


ロビンの口は止まることなく、話しながら食しながらと、忙しく口が動いている。


その光景を目にやりながら、本来、一番急がねばならないアッシュが手も口も止まり、呆然と聞いている。


『えっ!ラドのこともあれだけど、エディさんの王都での生活が想像しづらい・・確かに、あの容姿に、それに合わせる衣服など、とても女性に人気があったのはわかるが?、既婚者のイメージが強いせいで、何とも形容しがたいものがある。しかも、縄張りって・・』


半分くらい上の空の様なアッシュに、ロビンが少し動きを止めて見返してきた。


「まあ、そんなラドとの関係は長い期間、最低だったみたいなんですが。少し前に、兄さんを訪ねてきたんですよ。訪ねて来る前には、仲も改善されていた様なんですが、何でも、兄さんの仕事を手伝いとかで。こちらまで来て、兄さんも、気に入ってるのかで追い返しもせず、個人的な使用で働いて貰っていたみたいですね」


ロビンは、お茶の入ったティーカップを持ち上げ喉を潤しながら、「だから、ここで、あの顔は見なかったでしょう?」と告げた。


「あぁ、確かに見かけたことはなかったな?」


ちょっと、納得してみせたその姿に、「でしょう?」とロビンは同じく相づちを返す。


「しかし、うちの兄さんは凄いよねぇ、ラドのこともだけど人を手なづける天才だわ!しかも、猛獣級ばかり!」と笑いだすロビン。


その姿に、『その猛獣にお前も入ると思うんだけどな!』と思いながら、アッシュはスープに口を付けたのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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