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第10話

「兄さん、気が付いた?」


アッシュの顔を、心配気に覗き込む妹メイの顔が見開いた目に映し出されて、アッシュはその姿をぼんやりと見つめる。


「アッシュ、気が付いたんだね?」


次に声掛けてきたのは、母ケリーだった。よく見ると、祖母エルに、父ウォルトも自分を見下ろす形で立っている。


一瞬、自分に起きた事が思い出せずにいて、言葉も出ない。


取り敢えず、寝ているらしい体を起こしてみようと、身じろぐと、体が少し痛む。


「大丈夫かい?」


祖母もまた心配気な顔つきで、ベットから起き上がろうとするアッシュを気遣うと、それを見た父が慌てて、アッシュの体を支えて起こしてくれる。


その行動に、メイは「起きてもいいの?」と、再び心配そうにして見せる。


何とか、父に支えられて起き上がると、アッシュは一息ついて、倒れた状況を思い起こした。


「どれくらい寝ていた?」


アッシュは額に出来たコブを摩りながら、家族に問う。


「もう、お昼近いかな?・・」


メイが兄の問いに返して、チラリと窓を見やる。


「そんなに経っているのか・・」


アッシュはしばし呆然としたが、急に立ち上がり出して、家族を驚かせる行動に出た。


「ちょっと、どうしたの?えっ!?何するの?」


アッシュの行動に母は驚きながらも息子に制止を促すが、アッシュは足を止めようとしない。


「兄さん!お医者さんも今日は安静にって!」


メイは咄嗟にアッシュの腕を掴み、ベットに戻そうと引っ張ってみるが、アッシュも成人男性であるので、メイが適うわけもなく、メイはアッシュに引き摺られていく。


「ちょっと、ダメだよ!今日は役場にも休むと連絡もしたし、どこに行くのよ!」


あれやこれやと口にしながら、メイは兄の動きを止めようとするが、アッシュは力任せに振り切ろうとする。


「ロ・・ロビンは、どこだ!」


その言葉に、メイはあっさりと兄の腕を離してしまう、それにより、アッシュが再び前のめりに転がるが、今度は、上手く手を床につけた事で大惨事にならずに済んだ。


「いきなり、腕を離すな!」


離してほしかったはずの行動だったのに、出た言葉は「離すな!」って、何んだ! と、家族はアッシュを冷ややかに見つめる。


その視線に、アッシュは、時と場合があるだろうが!と心で呟いた。


「えっと、ロ・・ロビンはどこに居るのかしらねぇ?」


アッシュの言葉に腕を離したメイは、視線を彷徨わせながら小さく呟いてから口ごもる。


「帰っていないのか?・・」


痛む額とは違うとこが色々と痛みだす、例えば、胃とか側頭とか、眩暈もしてきそうだ・・


アッシュは、その場で蹲り、少し恐怖を覚える。


『ロビン、お前、妙なことしてないよな?・・あの、紙、ばら撒いていないよな?・・・』


次の行動が移せずに床に蹲るアッシュに、どう声掛ければと、家族がそれぞれ思考を巡らせていた時、我が家の外から大きな呼び声が聞こえてきた。


「あのー!、ハロルド商会の会頭からの伝言を持ってきました!アッシュさんいますか?」


その声に、家族皆が顔を見合わせた。皆が困惑した表情になる中、メイだけが顔色までも変えていく。


青色へと・・


「やばい!請求のことだわ!どうしょう!もう、お義兄さんに知られたんだわ!ロビン、どこにいるのよ!」


メイは青い顔をしながらウロウロと室内を歩き回り、少々、パニックに陥っている。


その異様な行動に、母が驚き尋ねると、涙目になりながらメイが、アッシュの顔が描かれた紙を作成したことで出来た費用について語り出す。


家族は、唖然として、思考が止まってしまった。


「お・・お金っていくらなの?」


母は割に早く意識を取り戻してメイに尋ねてみるが、メイは青い顔をして「わからないわ」と首を振るだけだ。


「とにかく、外にいるもんに、応対した方がいいんじゃないか?」


状況が今一よくわかっていないが、父がまともな考えを口にした。


それに頷き、母が駆け出して玄関口へ向かっていく。


それを、アッシュは眺めながら、「えっ!えっ!」と口にして、ただただ困惑していた。


母が部屋を出てから、家族はその場にそれぞれが動きを止めて言葉も出さずに、母がこの場に戻るのをじーっと待っていた。


どれくらいたったのか、暫くして、母が玄関口から戻って来た。


母が室内に顔出した時、皆は喉を鳴らした。ごっくん・・と聞こえそうな息遣いだ。


「あっ、使いはね、ハロルド商会の会頭、ロビンさんのお兄さんからでね、そのう、アッシュに話があるから自宅にきて欲しいらしいわ」


使いの者は、どうやら我が家に来る前に役所に出向き、アッシュが来ていないことを聞いたとかで、わざわざ、こちらまで足を運んできたようで、母はそれに対して「気の毒なことしたわね」と呑気に話を付け加える。


一方、メイは完全に怯えてしまっている。


「えええええっ!ハロルド商会ではなく?、自宅に来いって!」


顔色が青を超えて白くなっている状態のメイの姿を見てから、名指しで呼ばれているアッシュは心臓の鼓動が早くなっていくことに恐怖を覚える。


『し・・心臓がとめどもなく早い・・、しかし、なぜ?、私が呼ばれる?・・、ロビンがしたことだろう?・・・まて、もしや謝罪か?、いや、なら、呼び出しはないな。あっちが来るのが礼儀だ。では、私に尻ぬぐいしろと?・・』


嫌な汗が噴き出す、理不尽な状況であるのに、アッシュは既に追い込まれている様な気になってしまっている。


「兄さん、ごめんね」


何の謝罪なんだ!と、目に涙を溜めたメイをぎろりと睨みながらも、アッシュはゆっくりと立ち上がる。


悲しいかな、真面目な性格のアッシュは、伝言に背を向けれずに前に進む道しか見えなかった。


アッシュは項垂れながらも、ゆっくりと歩き出す。


その姿に、あれだけ「まだ、起きては駄目だ!」と言い張っていたはずの家族からは、止める言葉はなかった。


「アッシュ、よくわからんが頑張れよ!」


父ウォルトだけが、妙な声援を送って見送ってくれたのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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