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ガラスのフェニックス  作者: たつだるま
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最終話

 職人たちがガラス職人の家に入ると、不死鳥は起き上がって陽気に言いました。


「やあ、みなさんお揃いで。」


 職人たちの腕には、各々の作品が抱えられていました。

 三人が言いました。


『生涯最高のものを作った。これを捧げよう。ぜひ魂を入れて欲しい。』


 不死鳥は目を丸くしました。


「もう、できたのですか。わたくしの復活を見物に来たのではなく、わたくしの魂の器を作ってきてくださったのですか。」


「当然だ。見ろ、これを。」


 そう言ったのは銀職人です。

 テーブルに置かれた銀職人の不死鳥は先日の輝かしい不死鳥ほど磨かれてはいませんでした。

 それどころか、ところどころにくすみも見られます。

 しかし、くちばしや羽先などはぴっかぴかに磨かれていて、この磨き分けが、普段作る銀食器のイメージとは逆の、なにか暖かさを感じるような色合いをかもしだしていました。

 銀職人がはじめに作った不死鳥は翼を広げて立っていましたが、この暖かい不死鳥は、ガラス職人と語らっている姿をしていました。

 その姿は本当に楽しそうで、それが、彼の行きついた「不死鳥そのもの」だったのでしょう。


 その不死鳥を見て、本物の不死鳥は息を呑みました。


 少しして不死鳥が口を開こうとすると、木彫り師が言いました。


「まぁ、待て。俺の器も見てもらおう。三度も魂を出すのは辛かろう、先にすべて見ておけ。」


 木彫り師は両腕で抱えていた不死鳥をテーブルに置きました。


 その不死鳥は飛んでいました。

 以前作った不死鳥には見事な炎の装飾がありましたが、その彫刻には飾りがまったくありませんでした。

 ただ、不死鳥の身体を支える軸があるだけ。

 それでも、不死鳥の長く美しい尾が躍動し、両の羽が風を切る(さま)は本当に飛んでいるかのようでした。


「お前ほど楽しそうに飛ぶ鳥をおれは見たことがない。」


 木彫り師が言いました。

 彼は不死鳥の本質が蘇生の炎ではなく飛ぶことにあると考えたのでしょう。

 彼は続けて何か言おうとしましたが、陶器焼き職人がそれを遮るように、無言でテーブルに自分の不死鳥を置きました。


 陶器焼き職人の不死鳥は、不死鳥がガラスを割ってから三日目の朝の、不死鳥が銀でできた自分を見たときそのものでした。

 青磁の肌から炎が吹き上がるような、塗りの入った目からはその奥にある心が燃え上がっているような、そんな活力を感じる不死鳥でした。


「お前さんとのつきあいは短いが、あのときのお前さんはわしの知る限りもっとも活き活きしていた。いいや、そのときだけじゃない。木彫り師のを見たときも、わしのを見たときも、お前さんの心が燃え盛るのを感じたのだ。今だってそうさ。お前さんの瞳の炎は生命に溢れている。」


 三日前の情景が目に浮かぶようです。

 片方は赤く、片方は銀色でしたが、そっくりの2羽がともに立っていたのです。

 不死鳥は銀の自分の燃えるような翼に見とれていましたが、その時、不死鳥の目も燃えるように活き活きしていたのを陶器焼き職人は見逃さなかったのです。


 そうして机には3羽の不死鳥が並びました。

 はじめに木彫り師が言いました。


「さぁ、選べ。…と言いたいところだが。」


 続けて銀職人も口を開きました。


「お前も何かやっていただろう。」


 最後は陶器焼き職人が。


「なぁ、ガラス職人。」


 ガラス職人は三人のほうを見て小さく頷いてから、ゆっくりと不死鳥に歩み寄りました。


「わたしもあなたに渡したいものがあります。魂を移してしまうまえに、これを見て欲しい。そして、これをきみの魂の器の(かたわ)らに置いてもいいだろうか。」


 何かが、不死鳥の前に置かれました。

 それは手のひらに乗るような小さなものでした。

 小さな、ガラスの鳥でした。


 しかし不死鳥とはさして似ていないように感じられました。


 ほかの職人たちはすぐにその理由がわかりました。

 そのガラスの鳥からは不死鳥の燃え上がるような生命力が少しも感じられないのです。

 炎のような翼もなく、輝く尾羽もなく、その鳥は、本当にただのガラスの鳥だったのです。


 不死鳥は、そのガラスの鳥に自分の翼で触れました。

 ガラス職人がはにかみながら言います。


「きみはかつて渡り鳥だったと聞かせてくれた。その話を元にして作ったんだ。きみの魂の器にはならないだろうけど、その生の最後の思い出に、友として、これをあなたに贈りたい。」


 不死鳥は震える声で言いました。


「…いいえ、わたくしが求めていたのはこれだったのでしょう。わたくしは実は不死鳥ではなく渡り鳥としてその生涯を終えたかった。ええ、きっとそうなのです。ならばわたくしの魂の還るところは、この像をおいて他にはない。」


 不死鳥は愛おしそうに、翼でガラスの鳥を撫ぜました。


「ああ、ありがとう、友よ。わたくしがもし人間ならば涙を流していることでしょう。わたくしは今、やっと最期を迎えられる。」





 三人が作りあげた生涯最高の不死鳥たちは、ガラスの渡り鳥とともにしばらく店に飾られていましたが、陶器焼き職人の二人目の子供が結婚した年に美術館に移されました。

 不死鳥とガラス職人たちが再会するのは随分先になりそうです。


 

最後まで読んでいただいてありがとうございます。

もう1話だけ、番外編を来週更新予定です。

良かったらもう少しだけお付き合いください。

 

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