表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガラスのフェニックス  作者: たつだるま
4/8

第4話

 その次の日、一体の木の鳥が彫り上げられました。

 その姿はこの世のものとは思えないほど整っていて、滑らかな肌からは生命力が溢れています。

 鳥の周囲には炎の細工が施してあり、背からはひときわ力強い炎が燃え上がっていました。


「よう銀細工屋、驚いたろう。この不死鳥は生涯で最高のできだ。」


 銀職人は答えません。

 代わりにガラス職人が称賛の言葉をあげました。


「すごいすごい。なんと美しい彫刻だろうか。」

「ええ、ええ、まさに天上のもののようです。」


 ガラス職人と不死鳥は続けて、これはまさに不死鳥だ。魂の器になるに違いない。と語らいました。


 銀職人は黙ったままその不死鳥を見ていましたが、しばらくしてぼそりと言いました。


「ふん、いまいましいが見事なできだ。」



 不死鳥は、木彫り師にはお礼を、ガラス職人には別れの言葉を告げ、ぱたりと倒れました。


 その場にいる全員がどきどきしました。

 木彫りの不死鳥が魂の器になったのか、あるいは昨日のようにまた起き上がってしまうのか。


 沈黙がその場に訪れます。

 その沈黙を破ったのは、しかしやはり不死鳥でした。


「どうしたことでしょうか、わたくしの魂はどうやってもこれに入ることができません。」


 木彫り師が何か言おうとしましたが、突然不死鳥の前に出てきた陶器焼き職人に(さえぎ)られました。

 彼は木彫り師に向かって小さな声で言いました。


「だめだったときにぐだぐだと言うもんじゃないさ。次はわしの番だ。お前さんらは黙って見とれ。」


 木彫り師は陶器焼き職人に向かって口を開きましたが、声は出しませんでした。

 何と言っていいかわからなかったのでしょうか。

 そして木彫り師は、一瞬だけ自分の作品に目を向けると、何も言わずに外に出ていきました。


 陶器焼き職人は木彫り師の背を見送ったあと、不死鳥に向き直って言いました。


「だがな、不死鳥よ、わしの器は今晩、焼く。ガラス屋の仕事が終わったら一緒に帰って休め。」


 そして陶器焼き職人は自分の仕事場に戻っていきました。


 ガラス職人がコップ作りを始めると、不死鳥が言いました。


「彼は一体どのような人なのですか。」

「彼というのは、陶器焼き職人のことかい。」

「ええ、そうです。」


 不死鳥が工房に来て四日目になりますが、彼が陶器焼き職人の声を聴いたのは今日が初めてでした。


「彼はね、見たとおり、髪はぼさぼさで、めったに切りにいかないし、服は同じ服を何日も着ているものぐさな人でね、しゃべるのも面倒なのかあまり口を開かない人なんだよ。でも彼はすごく友人思いなところもあるんだ。例えばわたしがこの前一度にたくさんの動物の置物を頼まれたときなんかはね…」



 確かに、陶器焼き職人は面倒くさがりで無口な男でした。

 工房では一番の古株ですが、食事中ですらほとんどしゃべることがありません。

 ただ、別にほかの職人を嫌っているわけではないのです。

 彼は銀細工師や木彫り師、ガラス職人を友人と思い、認めている反面、ライバルとして強く意識していたのです。

 日々技術を伸ばす三人に負けないように、日々黙々と努力を続けているだけなのです。


 実は彼は才能に恵まれたほうではなく、工房に入ったのは随分前ですが、仕事が軌道に乗ったのは最近になってからです。

 そして彼はそんな自分のことをよく理解していました。

 誰よりも努力しなければならないことをよくわかっていました。


 だから制作中はしゃべらなかったのです。

 制作中は、一分(いちぶ)の隙もなく集中する。

 それが彼の芸術へのプライドであり、仕事への誠実さでした。それだけでした。


 ほかの職人たちもまた、彼を認め、友人と思うとともにライバルとして意識していました。

 工房の職人たちはそれゆえに腕利きだったのです。



 それに陶器焼き職人は無口なだけで、仲間想いでありました。

 ほかの職人が客から発注されたものを作るときに陶器が欲しくなり、彼に頼みごとをしようとすると、頼む前から準備を始めていて、真っ先にそれを完成させてくれていました。

 彼はそれほど友人思いだったのです。


「…だから、彼は我々の大切な友人でもあるんだよ。」


 少し長い話をして、ガラス職人はそう結びました。

 不死鳥はずっとうなずくだけでしたが、一言、聞ききました。


「では、彼の作るものはどのようなものなのですか。」


「彼が焼くのは主に陶器だけど、結構、磁器もやるんだ。陶器なら食器から花瓶まで、磁器ならお椀や皿だね。彼の作るものは陶器も磁器も絶品なんだ。」


 陶器焼き職人の作る磁器は、あるいは銀の器よりもなめらかで、つややかに輝きを見せました。

 彼の作る陶器の質感は、あるいは木の器よりも親しみやすく、よく手に馴染むものでした。

 そして彼がまれに作る陶器の動物の置物は、ガラス細工の動物よりも人気があったのでした。


「だから彼に任せておけば大丈夫さ。」


 ガラス職人は言いました。


「陶器焼き職人はこの工房の誰よりも思いやりがあり、誰よりも努力家で、才能に溢れている。きっと君の魂を収める器を作ってくれる。安心して待とうじゃないか。」


「ええ、お話を聞いて安心しました。明日が楽しみです。」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ