第2話
次の日、木彫り師は最高の材木を探しに出かけて行きました。
銀職人は銀を練りはじめました。
陶器焼き職人もどうやら良い土を探しに出かけたようでした。
しかしガラス職人だけは、不死鳥の話相手をしながら窓ガラスを作っていました。
昨日割れてしまった窓にはめるためです。
「不死鳥さん、安心してください。わたしたちは毎日最高の食器を作っています。だから魂の器だってお手の物です。」
「それは良かった。本当に。」
不死鳥は心底安心したという風にため息をつきました。
「…わたくしはもう何度も死を越えて参りましたが、もう一度死ぬと考えるとやはり恐ろしくてたまらないのです。」
「それならば違うことを考えましょう。あなたのお話を聞かせてください。不死鳥となる前、あなたはどんな人生を歩んだのですか。」
「渡り鳥だったときのことですか。何十年前のことだったか。ああ、あれは遠い昔のことのようだ。」
不死鳥は目をつむって話し始めました。
かつてのことを思い浮かべているのでしょう。
「わたくし達は三つの島を渡っておりました。ひとつの島は雪が降るとなんの音もしなくなるような静かな島で、わたくし達は大きな湖で生活しておりました。雪が水面を覆うせいか、水が氷ることはなく、いっそ空気よりも水の方が温かく感じるところでした。そうだ、食事は水草でした。ずっと食べてないなぁ。最近わたくしは木の実ばかり食べているのですよ。」
ガラス職人はときおり相槌を打ちながら、ガラスをならしていきます。
不死鳥はこれから死ぬことなどまるで忘れてしまったかのように昔のことを話しました。
「ふたつ目の島は涼しい風が吹き抜ける、すがすがしい島でした。大きな生き物は住んでいないところで、島の真ん中には山があり、それを囲うようにいくつもの湖があったんです。」
昨日は息も絶えだえだった不死鳥ですが、今は別の理由で息切れしているようです。
ガラス職人も初めて聞くお話を楽しそうに聞いていました。
昼過ぎには木彫り師と陶器焼き職人が帰ってきました。
2人は銀職人やガラス職人に声をかけることもなく、すぐに制作を始めたようでした。
ガラス職人が作っていた窓ガラスはその日のうちに完成し、不死鳥が割った窓は元通りになりました。
しかし、夕方になっても不死鳥の像は一体たりとも完成しませんでした。
日が落ちると、不死鳥はまた元気がなくなってきたようでしたので、ガラス職人はジャム瓶を作る作業の手を止めて言いました。
「そうだ、不死鳥さん。今夜はわたしの部屋に泊まりませんか。たまにはパンや豆を食べるのも悪くはないでしょう。」
「それはありがたい。ぜひお邪魔させていただきます。」
不死鳥は嬉しそうに飛び上がり、そのまま工房の天井をくるくる回りました。
ガラス職人は家に帰るとすぐに夕食を作りました。
不死鳥とともに食べようと思いましたが、夕食ができたとき、不死鳥はすでに眠ってしまっていました。
ガラス職人は彼が死んでしまったのかと思い驚きましたが、彼の安らかな寝息を聞くと安心して、タオルを1枚ふわりとかけました。