第1話
町に一軒だけある’食器屋’では、お店の奥の奥の工房で木彫り師、ガラス職人、陶器焼き職人に銀職人が働いていました。
工房の中は五つに区切られ、各々が自分の仕事場を持ち、真ん中に共用の作業台がありました。
四人はみな、腕の良い職人たちで、日々競うように良い食器を作り上げるのでした。
「ようし、できた。最高のサラダボウルだ。どうだ銀細工屋、この滑らかさを見ろ。野菜の彩りがよくなじむこの色合いを知れ。銀のボウルなんてテカテカ光るだけで料理を引き立てることはできやしない。お前にこれは作れまい。」
「何をばかなことを。銀のボウルに銀のスプーン、美しい銀の皿には輝く銀のナイフとフォーク。この調和を理解できないくせに。木の食器なんて擦れて削れるし焦げるしカビが生えるし、何も良いことなんてないじゃないか。銀はスープをすくった瞬間、ちょうどいい温度に冷ましてくれるし、毒だって見抜けるのだ。この目映いスプーンを見ろ。お前にこれは作れまい。」
「なんだと。」
「お前こそなんだ。」
「まぁまぁ待てよ、二人とも。どっちの食器もすばらしい。そのサラダボウルには見惚れてしまうし、スプーンは銀職人の言うとおり目映いて見える。コップばかり作っているわたしには両方とも最高の食器だよ。」
木彫り師と銀職人はいつもけんかばかりしていました。
そこにガラス職人が割って入って仲裁をする、というのが彼らの日常でした。
騒がしい工房でしたが、陶器焼き職人だけは一人黙々と土をいじっていました。
秋も深まるころ、突然、工房の真ん中の天窓が割れました。
四人が驚いて振り返ると、共用の作業台に一羽の鳥が伏せていました。
鳥は燃えるように赤い羽根を広げると、息も絶えだえに言いました。
「ああ、はじめましてごきげんよう。わたくしはかつてただの渡り鳥だったものです。わたくしは・・・」
鳥の言葉をさえぎって銀職人が言いました。
「黙れ黙れ。窓を割りやがって。お前を炉で焼いて食ってしまおうか。」
「まぁまぁ待てよ、窓ならわたしが作るから、ひとまず話を聞こうじゃないか。」
答えたのはガラス職人です。
それに木彫り師も賛同します。
「そうだな聞いてやろう。しかし鳥よ、かつてただの渡り鳥だったとはどういうことだ。お前は今も鳥ではないのか。」
二人が話を聞く姿勢を見せたので、銀職人もしぶしぶ聞いてやることにしました。
陶器焼き職人は変わらず仕事を続けています。
「ええ、わたくしは実は不死鳥なのでございます。あるとき山火事に巻き込まれ、焼野原で目を覚ましたときからの不死鳥なのでございます。」
「なんと不死鳥と。これは信じがたい。」
こう言ったのは木彫り師です。
「すぐに信じてもらえることでしょう。わたくしはこれから死ぬのですから。」
すかさず銀職人が言いました。
「死ぬとはいったいどういうことだ。お前は不死鳥なのだろう。」
「不死鳥とは死んでのち炎とともに蘇る鳥のことを言うのです。死なないのではございません。わたくしが蘇るさまを見れば、あなたがたもわたくしが不死鳥であることを信じてくださいますでしょう。」
ガラス職人が驚いた顔で、
「なんと、不死鳥の復活を見れるとは。しかしなぜこの工房で死のうというのですか。」
と聞きました。
「わたくしはもう死ぬのにも蘇るのにも疲れたのです。どうかお願いです。わたくしの像を作ってくださいませぬか。神様がおっしゃったのです。わたくしの魂を像に閉じ込めてしまえば、わたくしは死ぬことも蘇ることもなくなると。その像がいつか壊れるとき、魂は天に還ることができると。ただし、」
ふぅ、と、不死鳥が一息吐きました。
しゃべるのにも一苦労といった様子です。
そして再び語りました。
「ただし、魂を閉じ込められる像はまるで天上のものであるかのように美しいものでなければならないのです。」
「なるほどな。そういうことならまかせておけ。自慢をするがおれたちは全員が腕ききだ。」
木彫り師が言いました。
「おい、天上のもののように美しいものとは、木彫り師などには難しいだろう。像ならおれが作ってやる。」
銀職人もまた、言いました。
不死鳥が頭を下げるようにして言います。
「お願いします。わたくしの命は明日より七日のうちに燃えてなくなるでしょう。もしできることなら、その前に魂を像に閉じ込めてしまいたい。再び死ぬのはつらいのです。」
木彫り師と銀職人は目も合わせずに、しかし同時に答えました。
『まかせておけ。』