9.お持ち帰り
「アルトさーん、まだ飲めますよー♪ 私酔ってませんからー♪」
「はいはい、良いから帰りますよ。ワイン3本はやりすぎですって」
食事を終えた俺はすっかり出来上がったサティさんをおんぶしながら帰路へと立っていた。背中に柔らかい感触がするがスライムなんだよなと思うと冷静になれるぜ。
幸い彼女の家の場所はわかっているので彼女を連れて帰る事にする。まったく俺が悪い奴だったらどうするんだよ。と無防備に俺の背中に背負われているサティさんの感触を感じながら思う。
それとも……俺に心を開いてくれているって事かね?
そうだったらいいなと思いながら彼女の寝言だかなんだかに、雑に返事をしながらを聞きながら歩く道は思ったより悪くなかった。むしろ俺だけが知っているサティさんという感じでちょっと嬉しかった。
だけど、そんな時間も終わりは来るものだ。
「サティさん着きましたよー」
「うーん、鍵はこれなんで開けちゃってくださいー」
「え? サティさん!? ちょっと……」
彼女の部屋の前に着いたので声をかけると鍵を渡される。
俺は鍵を受け取ったはいいもののどうすればいいかわからず聞き返すが、返事はない、ただの酔っ払いのようだ。背中で可愛らしく寝息をたてているだけである。
入っていいって事か……異性の部屋なんて滅多に入らないためすっげー緊張してきたんだが……ああ、でも魔王なんだよな。変な魔法陣とか、なんかキモイ化け物の死骸とかあったらどうしよう……
「おじゃましまーす」
なんとなく、そう言いながら入って明かりをつけると中はレースがかかっていたり、可愛らしいぬいぐるみがあったりと、なんというか本当に普通の女の子のようなかわいらしい部屋だった。
なにげなく立派な本棚に目をやると恋愛小説の他に『友達の作り方』『育乳教本』などがあった。
なんか闇を感じるな……見なかったことにしよう。
俺は自分に言い聞かせて、彼女をベッドにおろして寝かせようとした時だった、偶然か神のいたずらか彼女の手が俺を引っ張ったため、彼女の上に俺も倒れこみそうになる。
咄嗟に足を踏ん張ったものの覆い被さるようになり、まるで抱き着いたかのようになってしまった。スライムとは違う彼女の暖かい体温とか、お酒の匂いとは違う甘い匂いに思わずくらっとしそうになる。
「おちつけ、俺!! ここで変な事をしたら人生が終わるぞ」
俺は鋼の意志で起きあがる。だって、彼女は魔王だぜ。それに……ここで酒の勢いでっていうのは何か違う気がするんだよな。鑑定スキルで色々と知ってしまったけれど、それまで俺にとってこの人は憧れの人だったわけで……そして、魔王だと知ってもその気持ちは減っていないのだ。むしろ、意外な一面が見れて……それでより魅力的に思っている自分がいるのに気づく。
「だいたいさ、こんな可愛くて無防備な寝顔なのに魔王ってずるくない?」
「えへへへ」
「うおおおおお!?」
俺がつい彼女の寝顔を見つめながらつぶやくと予想外に返事が返ってきて焦る。しばらく、様子を見るが起きそうにもない。再び可愛らしい寝息が聞こえる。寝言だったのか……
「このままじゃ、正気を保てなさそうだ。帰ろう」
『待ちなさい少年、話があります』
「ひええええ、おっぱいがじゃべったぁぁぁぁぁ」
俺が身支度を整えて、部屋を出ようとするといきなり声がした。しかも、サティさんは眠ったままで、おっぱいの方から声が聞こえたと思うと、サティさんのパッドに包まれた胸部が動き出すのだった。何これ、無茶苦茶こわいんですけど……