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月光の貴族  作者: W.F.
一章  『訪問』
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第一章 第七節

大地に亀裂が走り、水が噴き出すように


蛹の背が裂け、美しい蝶が這い出す様に


噴火する溶岩の如く、赤い塩の壁が崩れて舞い散り、素敵な破壊がおぞましい轟音で叫び


甲高い汽笛が鳴り響き、蒸気が舞い踊り


その場全ての存在の注意と視線を一身に受けながら


白と赤のベールを切り裂いて飛び出してきたのは


鋼の竜巻が如き、赤褐色に輝くあまりにも巨大過ぎる存在でした



広大な赤い街並みに影を刻み、東洋の龍の如くに身を伸ばす。堂々たる体躯の大きさたるや、ちっぽけなルルでは当たり前に、長い尻尾の白磁猫も、あの不気味な灰色の怪物もお話にならないほど


そしてそれは顎に備えた巨大で美しく光る金の6本の爪を大きく開くと、突然大地に向かって急降下、包んで叩きつけるようにして灰色の怪物を捕まえてしまうと(その衝撃で大勢のネズミ達が吹き飛び、ルルと白磁猫も転んでしまいました)、歯車やエンジンの轟音を響かせ、蒸気を勢いよく噴き出しながら天高く持ち上げ、そのまま遠くへと放り投げてしまいました


震えることすら忘れ、唖然としてルルと白磁猫が見ていると、一面の埋め尽くす蒸気の中でそれがゆっくりと向きを変え、頭の先端に付いている大きな探照灯が目の如くルル達を捉え、見つめ、そして近づいてきたのです


まるで古い機関車か潜水艦が百足を食べてしまったかのような姿をしたそれは、大木のように長い身体をリベット止めされた殻が包み、蒸気を噴き出す大量の排気管が並んで生え、百足ならば足があるはずの腹には夥しい数の歯車や車輪が詰め込まれており、国中に広がるあの大きな機械の音を立てて回っているのです


目前へと迫ってきたそれにルルはすっかり怯え、倒れてたままガタガタと震えて固まる白磁猫に縋りつきながら泣き出してしまいました


あの灰色の怖い怪物に散々追われた挙句、それよりももっと大きな怪物がこちらを見ているのですもの


相変わらず背後には大穴、目の前にはこちらを見つめる大きな怪物


もうルルは限界でした


すると、その大きな怪物は「おやまぁ」とでも言いたげに小首を傾げ、優しく話しかけてきたのです


「おやおや、大丈夫だよおチビちゃん達。私は君たちを傷つけたりしないからね」


突然聞こえた優しそうな男性の声に、ルルも白磁猫も動転するばかりでしどろもどろ、お互いに顔を見合わせては何がなんやら、といった様子


と、そんな一人と一匹を差し置いて、ちっちゃくも可愛らしい歓声がたくさん周囲から上がります


「ご主人様!我らの大いなる家主様!我らと『国』とを包む、偉大なる公爵様!」


その声に周囲を見回してみると、そこら中にひしめいていたネズミたちが鼻を大地につけてお辞儀したり、ピョンピョン跳ねて喝采を送ったりしていました


と、白磁猫は合点が入ったようで、弾かれたようにルルへと話しかけます


「ルル、ルル!この方だよ!この方こそ、僕らの探していた方だよ!」


その言葉にルルも納得と驚きを同時に感じ、びっくりした顔で大いなる存在を見上げました

そうです、この大きな鉄の怪物こそまさしく・・・


「ああ、その通り!ようやく会えたね、可愛い旅人さん。私はこの国の主である『貴族』、『来訪の立会者』もしくは『六百手(むかで)のエン・ブレイテ』公爵だ。以後、お見知り置きを」


そう言って、優雅にお辞儀して挨拶するエン・ブレイテ公爵


そうです、その気品と遙かなる山をも思わせる存在感、そして柔らかく溢れ出る慈愛の雰囲気

この方こそ、ルルと白磁猫が探していた『貴族』なのです


恐縮し、慌てて同じように深く首を垂れてお辞儀する白磁猫

それに対し、ルルの反応はというと

「2つもお名前があるんだ・・・」

と思った頃をうっかり口にしてしまい、慌てて口を塞いでいました

ですが公爵殿はクスっと笑うと

「ああ、所謂『二つ名』ってやつさ・・・ふふ、意味わかる?」

そう言って、茶目っ気たっぷりにウィンクしてくれました(目が一個なので光が点滅しただけですけどね)

なのでルルは、ちょっと笑顔になれました

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