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月光の貴族  作者: W.F.
一章  『訪問』
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第一章 第五節

さて、ネズミの大行進をお供にし、一人と一匹は赤い街並みを奥へ奥へと随分歩いていましたが、壁際にある坂の途中にある見晴らしのいい場所ですこし休憩することにしました


「ふぅ」と息をついた白磁猫はペタンと腰を下ろし、同じく「ふぅ」と息をついて隣に座ったルルは、いつの間にか頭のてっぺんに乗っていたネズミを膝に抱えて撫でつつ、一人と一匹はしばらく呆けながら街並みを眺めていました

「大きな国だよねぇ、ルル。実は僕もしばらく前に初めてここにきたんだけど、迷路みたいですぐ迷子になっちゃうんだ」

苦笑いしながらそう話す白磁猫

確かにそれも仕方ないでしょう、ルルと白磁猫がいる場所から見渡せば納得というものです


まるで葉脈のように建物が詰め込まれた赤い街は、相変わらず機械の動く大きな音が至るところから聞こえ、赤錆の匂いを放っているようで、巨大なトンネルのようにずっと奥へと伸びる『国』


ただ、高台から見てようやく気が付いたことですが、どうやら壁と思っていたものは崖だったようで、ずっと高い場所には空の代わりに赤い天井がある、そんな不思議な場所でした


また、この街にいるのは荷運びをしているネズミ達ばかりのようで、あちこちでチョロチョロ

屋根の上でクルクル回って遊んでいたり、路地裏でかけっこしていたり、はてまたお家やちょっとした橋なんか

を作っていたりしています


と、ルルの膝の上にいたネズミがキュゥキュゥと鳴いたので目を向けると、ずっと持って歩いてきたランタンに興味を示しているようです

「気になるの?」とルルが尋ねると「うん、なぁにこれなぁにこれ?」とちっちゃな黒い目をキラキラさせてネズミが尋ね返します

(みなさんは「喋った!」と驚くでしょうが、まぁ歌を歌っていますからね、おしゃべりだってしますよ)

「わたしも分からないの、だから『貴族』さんに聞きに行くんだ」

「うんうん、『貴族』はなんだって知ってるからね」

と相槌を打つ白磁猫


その時ふと、ルルは疑問が浮かびましたので白磁猫に尋ねました

「ねぇ白磁猫さん、『貴族』さんはどこにいるの?おうち?それともお城?」

「え?うーん・・・ 実は僕もよく知らないんだ・・・ いや、無計画に歩いてたわけじゃないんだよ?『貴族』の為に働いているネズミ達と一緒に歩いているわけだし、そのうち家かどこかにたどり着くと思ったんだよね」


(そうだったんだ)と驚きつつも納得したルルは、ネズミにも尋ねました

「ねぇ、ネズミさん。この国の『貴族』さんはどこにいるの?」

(ここで白磁猫は「そっか!聞けばよかったんだ!」と小声で呟いていました)

ネズミはキュキュッと鳴いて尻尾をピンと立てると「あっち!こっち!たくさんギュッギュッ!」と妙な答えを

返します


(どういう意味だろう?)とルルと白磁猫が一緒になって考え込んでいると、ルルは急にお腹の調子がおかしく

なったことに気が付きました

胃の当たりが苦しく、細くなったような、ムニュムニュと変な感じ

そしてすぐに、グーッ!という抗議の声が上がりました


随分と歩いてきたせいでしょうか、それともちっぽけな身体のせいでしょうか

ルルはお腹が空いて仕方がなくなってしまったのです

更にキュゥキュゥと歌うお腹を押さえるルル


すると、ルルの膝に乗っていたネズミがキュキュッ!と鳴いて『跳んで』いき、数匹のネズミを連れてルルのそばへと戻ってきました


不思議そうな顔をしているルルを見つめながら、彼らは口々にこう言います

「キュゥキュゥキュゥ、腹ペコ鼠、腹ペコだ―― ハラハラペコペコこんにちわ―― お腹と背中が入れ替わる?―― 替わっちゃう?」

「ええと・・・ こんにちわ。わたし、腹ペコ鼠じゃないよ、人間のルルだよ」

「ルル!ルル!腹ペコ鼠の人間のルルだよ!鼠じゃない鼠じゃない!鼠じゃないけど腹ペコ鼠のルルだよ!」


(違うのに)と言いたげなルルを尻目に鼠達は大合唱と共に大喜びし、更に他のネズミたちが何かを運んでやってきました

「これ食べて食べて!」

そう言って差し出したのは、お皿の上に並ぶピンク色のクッキーに柔らかそうな白パン、そしてコップに入ったミルク


ルルは少し戸惑いましたが、目の前に漂う香ばしい香りのせいで、アッという間に口いっぱいによだれが出てきてしまいました


「食べて!食べて!ペコペコキュゥキュゥ腹ペコ鼠のルル、早く早く!」

ネズミたちが口早に勧め、白磁猫も笑顔でうなづいてくれることですし、ルルはそれぞれに口を付けてみました


クッキーはほんのりとしょっぱく、白パンは口の中でトロトロに、ミルクはやけに味が濃い目

そしてどれもこれもすばらしく美味しくて、ルルはあっという間に全部食べてしまいました


それを見ていたネズミたちは嬉しそうにキュゥキュゥと鳴き、一匹また一匹とルルに頬ずりし、お皿とコップで大道芸、白磁猫の頭を跳び箱にし、バネのように跳ねながら大行列へと戻っていきました


「ふふふ、あっという間に仲良しさんだね」

と言って笑顔を向ける白磁猫に、すっかりお腹いっぱいになったルルも満面の笑顔で頷きます


さて、すっかり二人ともなにを考えていたのか忘れてしまいましたが、突然、ネズミ達が大騒ぎする声が聞こえました

一人と一匹が騒がしい方を向くと、坂をゆっくりゆっくり上りながら、大きな大きな袋が運ばれてきました

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