第一章 第四節
それからしばらくして、ルルと白磁猫は並んで歩いていました
登ったり上がったり、下ったり降りたりする道の景色は相変わらず赤錆だらけですが、だんだんと開けた場所へと移っており
ちょうど一匹と一人は赤レンガで出来た道へとやってきたところです
さて、そこから見えますのは、一面ピンク色の岩の壁と空、そして奥へと伸びるデコボコした街並み
さらに周囲を見ますと、左と右にはこれまた巨大で、銀色のタンクがあり、下の方には沢山のパイプが街に向かって伸び、上の方からは真っ白な水の滝が流れ落ちています
「さぁ、この国の主である貴族』に会いに行こう!僕みたいな『位無し』と違って、たっくさんのことを知ってるんだ!」
まるで歓声を浴びる王様のように意気揚々と歩く白磁猫と、ぽつぽつと屋根から落ちる雨雫のように歩くルル
(最初は白磁猫に追いつくために駆け足でしたが、途中からルルの遅さに気が付いた白磁猫がゆっくり歩いてくれています)
そんな彼にルルはずっと気になっていたことを尋ねます
「ねぇ、『きぞく』ってなに?どんな人なの?一人だけ?怖い人なの?」
「おや、ずいぶん元気になってくれたね!あのね、『貴族』はすっごく偉い『存在』でね、人じゃないんだよ。それと、一人じゃなくてひとつって数えるし、沢山いるんだよ」
興味津々な顔になったルルに微笑みを向けながら、白磁猫は言葉を続けます
「怖い、かどうかはなんとも言えないなぁ・・・ あ、でもでも、みんな『礼儀』が大好きだし、大切にしているよ!だから、ルルも『礼儀』を大事にすれば大丈夫だよ!」
なるほど、という顔をしながら、ルルはふと『礼儀』について考えてみましたが、正直よくわからなかったので空想のなかで『礼儀』という名前の子猫を数匹の白磁猫達があやしているところを想像していました
ですが、白磁猫がまた話し始めたので空想の猫たちにバイバイとあいさつし、耳を傾けました
「それでねそれでね!『貴族』はね、みんな国を持ってるんだ。僕もたくさんは見たわけじゃないけど、どれも素晴らしい場所だったよ!そこには『貴族』以外にも僕みたいに色々・・・ お、ネズミ達だ」
と、白磁猫がおしゃべりをやめたので何事かと前を見てみますと、ルル達の行く道に横から階段が上や下からいくつも合流しており、そこから何匹もの、何千匹ものネズミ達が湧き出して進んでいます
それは板バネのような足と渦を巻いた尻尾の赤い毛並みのネズミたちで、ちっぽけなルルよりもずっとちっぽけなのに、その尻尾で器用にピンク色の岩や真っ白なパン等を運んでいます
大行列は大きな道一杯に広がっており、そしてよくよく見てみますと、何匹かのネズミは器用に太鼓や笛、バイオリンなどを弾いて陽気な曲を演奏しており、遠くて聞き取れませんが、そのリズムに合わせて歌っており、彼らもまた、ルル達と同じ方向へと向かっているようで、周囲は彼らの歌声と音楽に包まれ、そして、彼らの歌はこういうものでした
♪~
由来は知らぬ
来たなら進め
我らは知らぬ
主も知らぬ
一等賞ならこねよう
そのほか捨てよう
健闘賞も捨てよう
そのほかさようなら
尻尾を切られた白トカゲ
拒み知らずのお月様
ぐっすり眠った赤スズメ
ふっくら膨らむ太陽さん
出来上がりは知らぬ
出来たら追い出せ
仕上がりは知らぬ
出来たらさようなら
選んだのが悪いのか
選ばれたのが悪いのか
選んだの誰だ
選ばれたらさようなら
由来は知らぬ
来たなら進め
我らは知らぬ
誰かさんが悪い
~♪
「陽気な力持ちで面白いでしょ?」
可愛らしい大行進とおかしな歌にすっかり夢中になっていたルルが振り返りますと、白磁猫が何故か自慢げな顔をして彼女を見つめていました
「彼らは『揺籠鼠』。この世界で『貴族』の為に働いてる子たちなんだ。名前の由来は知らないけど、ああやって色々運ぶのがお仕事なんだ。赤いのは壁を舐めてるからなんだって!たまに何言ってるのかわかんなくなるけど、気の良い奴らさ!」
「ねぇ、白磁猫さん」
と、すらすら自分のことのように説明する白磁猫に興味津々な顔を向けていたルルは、ふと疑問を口にしました
「猫とねずみなのに、仲良しなの?」
「え?尻尾と同じくらい仲良しだけど?」
思わぬ問と答えに顔を見合わせ、きょとんとする白磁猫とルルでしたが、すぐに白磁猫がコホンと咳払いをして口を開きました
「まぁとにかく、それぞれの国には僕や彼らみたいなのが沢山いるし、何より『貴族』がいる!『貴族』の数だけ国があって、『貴族』が国を創れるんだ!」
そう言って白磁猫はうっとりとした顔になって「僕はいつかは国を創りたいんだよね」と呟きましたので、ルルはふと(どんな国になるのかな)と考えてみました
が、さっきの想像にもう一匹の白磁猫が登場したぐらいのものしか思いつきませんでしたので、気を取り直し、
ネズミ達をうっかり踏まないようにしながらどんどん先へと進むことにしました
(もっとも、踏んでしまう心配はなく、むしろ頭をピョンッと踏まれて飛び越されてばかりでしたけね)