第一章 第二節
扉の先には、空が広くて道が狭く薄暗い場所が広がっていました
赤錆だらけの壁に鉄と木が不規則に並ぶ床の通路は、歪んで捻じれながらも八方へと広がり、様々な大きさの配管が上や下に伸び、空は見えず、変わりにピンク色のキラキラしたなにが塞いでいるようです
そして何よりも、沢山の大きな機械の動く音がそこら中で響いています
(本当に、なんだろうここ、どうして私はこんなところに?)
ルルはどうしてこんな場所にやってきたのか考えてみました
ですが、いくら思い出そうとしても思い出せません
(変なおうちに入っちゃったのかな?それとも、落とし穴に落っこちたのかな?)
考えても考えても、考えても考えても考えても思い出せない
そのせいでルルはとても不安になり、とても怖くなり、俯いて眼を閉じ、ただ闇雲に歩くことにしました
すると突然、ルルは何か固い物に強く頭をぶつけ、小さな悲鳴を上げて倒れてしまいした
ですがもっと大きな悲鳴を上げたものがいました
ぶつかられた方です
「うわぁ!なんだ一体!?」
ぶつけたおでこをさすりながらルルが顔を上げると、そこには大きな大きな『猫の石像』がありました
その身体と長い尻尾は白くて頑丈な石で出来ており、顔は丸くて可愛らしく、その目はもっと丸くて赤い、綺麗な宝石のよう
おかしなことにお腹のとこは灰色の骨がむき出しになっていました
そして不思議なことに、(もう十分不思議ですけど)とっても驚いた表情でルルを見ていたのです
でも、もっともっと不思議なことが起きました
その像が突然喋ったのです、人間の声で!しかも小さな男の子の!
(もっとも、さっきも同じ声で叫んだのですがね)
「なんだお前!」猫の像が声を張り上げます
「人間か!人間が何してるんだ!・・・ あれ?随分とちっぽけだけど、人間だよね?見たことないからよくわかんないけど・・・ うん、やっぱり人間だな!多分きっとおそらくそうだ!違っててもいいや!僕はお前を人間だと思うから人間なんだ!おい、やせぽっちの人間!なんでこんなところにいるんだよ!」
大きな声で精一杯怖そうにしていますが、どうしたって怒った子供のような幼さが隠し切れません
これを読んでいる人はきっと「なんだか可愛らしいな」と思うでしょうが、ルルは大変驚き、そして声を出せないでいました
だって仕方ありません
ルルは痩せてちっぽけ女の子ですが、相手はとても大きくて危なそう、その上身体は固い石で出来た猫なのですから
しかも顔をしわだらけにして怒っており、器用にもその前足でルルを指差しているのですから、ちっぽけなルルはすっかり怖くなってしまい、ただただ怯えるしかありませんでした
でもそんなことお構いなしに猫の像はもっと怒鳴ろうとしましたが、
「ああ、ダメだダメだ」
と言って突然悲しそうな顔をすると弱々しく首を振り
「また怒鳴ってしまった。こんなんじゃいつまでたっても『貴族』にはなれやしないや」
そうため息交じりに呟くと、綺麗に4本の脚を揃えて姿勢を正し、ルルに向き直って偉そうに胸を張って言いました
「我が名は『白磁猫』!新たなる『貴族』となるものだ!貴様、無礼であるぞ!『礼儀』を弁えよ!そして名を名乗るがよい!」
まさに「えっへん!」と言わんばかりにふんぞり返る白磁猫殿
対してルルはあっけにとられるばかりで何も言えずにいました
それからしばらくの間、赤錆だらけの通路で2人(1匹と1人、が正しいかも)はお互いに
白磁猫は威張ってふんぞり返り(ふんぞり返り過ぎて後ろに倒れそうになっていました)
ルルは不思議そうな顔でそれを見ながら、ただただ立ち尽くしていました