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転生編3

剣の稽古に励み、時々遊びに来る幼馴染と遊ぶ。

そんな充実した生活を送っていると、もう転生してから八年が経った。

現在八歳であるが、剣術はまだまだ基礎から脱していない。

まだまだ焦るべきではないと師匠に言われているので、特に疑いもせずに従っている。

まあ、まだ体が出来ていない状態で無茶をするのはよくない。

それは自分でも分かっているので、何も不満はない。


「はっ!やっ!」

「ゼロ君!」


今日も素振りを続けていると、涼やかな声が聞こえた。

もう見慣れた銀髪の少女、シルがこちらに向かって手を振っていた。

それに応えるため、手を振り返す。

今日もこの後はシルと過ごすことになりそうだ。

そう考えながら稽古を中断し、シルがこちらに来るのを待つ。

やって来たシルは、こちらの予想とは違って少し曇った表情をしていた。


「どうしたんだ?」

「え?」

「何かあったって顔してるぞ」


指摘すると大きく目を見開いて驚いた顔をする。

誰でも分かるほど顔に出ていたのだが、まあ言わないでおいてあげよう。


「えっとね……実は私、お引越しすることになったんだ」

「……え?」


引っ越し?

貴族が引っ越しなんてするのか?


「普通貴族は引っ越しなんてしないよな?」

「そうなんだけど……私にはね、剣術の才能があるんだって。それで剣術を習いたい子が集まるところに行って、私も学ばなきゃならなくなったの」


英才教育というものだろうか。

それが本当なら喜ばしいことだ。

だがなぜかあまり喜んでいない自分がいる。

シルとは離れたくない、そういうことなのだろう。


「えっと、それって大丈夫なのか?胡散臭いやつらに騙されてるとか……」

「お父さんのお友達が言ってたから、間違いないと思う」

「……そっか」


もうすでに決まっていることだろうし、今更何を言ったところで無駄なのだろう。

それならば、せめてしっかりと送り出してあげないと。


「それじゃあ、しばらくお別れだね」

「……うん」


明らかにシルの表情が暗くなる。


「そんな顔しなくても、またすぐ会えるって」

「そう……かな」

「ああ、また一緒に遊べる時が来るよ。それに今度はシルも剣術を学んで強くなってるはずだ。一戦交えてみるのも面白いかも」

「私とゼロ君が戦うの?」

「お互いどれだけ成長したか見せ合うだけだよ。それに前も言ったけど、この世界は剣が全て。剣を極めれば俺達が会うことくらいすぐ出来るさ」


そう言うと少し考え、やがて顔を上げたシルは笑顔で言った。


「うん、分かった!その時までに私、強くなるね!」

「ああ。約束だ」

「うん、約束!」


こうして幼馴染と再会の約束を交わし、シルのお父さんとお母さんが来るまで二人で遊ぶのだった。




シルが帰った後、一人で木剣を振るっていた。

約束を果たすため、強くならなくては。

そう思い一生懸命に木剣を振るう。


「シルとは別れの挨拶を済ませたかい?」


師匠がいつの間にか近くまで来ており、そう声をかけてきた。


「はい」

「そうか」


それ以上は何も言ってこない。

ただ優しげに微笑んでいるだけだ。


「……師匠、俺は強くなります」

「どうしてじゃ?」

「自分のエゴを通すためです」


シルにもう一度会うためだけじゃない。

これから先、思い通りにならないこともたくさんあるだろう。

そんな時、もっと強ければなんて後悔したくない。

素直な思いを吐露すると、師匠はおかしそうに笑った。


「はっはっはっ、自分のエゴを通すためか。清々しいほど正直な答えじゃな」

「着飾った言葉や欺瞞なんて意味がないですからね。俺は俺を貫き通す、それがモットーです」

「うむ、いい答えじゃ。まあシルと会った時にお前さんの方が弱いなんてことがあっては面目が立たんからの。そろそろ次の段階に進むかの」


次の段階?

それは剣術の稽古のことだろうか。


「ついに技みたいなものを学べるんですか?」

「そうじゃ」


おお!

これまでの素振り生活から、ついに技を覚える段階に至ったぞ!


「それでは早速じゃが、基礎の基礎を教えてやろう」

「はい!」


前のめりになって師匠を凝視する。

師匠は一つ咳払いをすると、技について話し始めた。


「剣の技、すなわち剣技じゃな。これは一朝一夕で体得できるものではない。何度も繰り返し練習し、体に染み込ませるのじゃ。それでは手本を見せてやろう」


そう言って木剣を持った師匠が構える。

剣を下段に構えた姿はまさに猛者の風格だ。

そして次の瞬間、師匠の木剣が淡く光り輝く。


「ライトニング・ストライク」


そう呟いた瞬間、師匠の姿が消えた。

そして次の瞬間には五メートルほど離れたところに、斬り上げた状態で止まっている師匠がいた。

いや、もちろん実際に消えたわけじゃない。

とてつもない速さで前進し、そのまま下段からの斬り上げを放った……と思う。

実際のところは見えなかったので違うかもしれないが、大体は合っているだろう。


「こんな感じである特定の構えをすると剣が輝き、そして剣技が発動する。ただしその後の動きもその剣技の通り動かんと、失敗に終わるから気をつけるんじゃぞ」


そう言ってこちらを向く師匠。

しっかり剣技の動きをトレースしないと発動しない。

だから師匠は体に染み込ませるように言ってきたのか。

一見簡単なようで難しいな。

イメージトレーニングも重要になってくるだろう。

それにしても、この世界の剣技というものを初めて目の当たりにしたがとても面白い。

ゲームのように剣が発行するのはどういう仕組みなのだろうか。


「あとは剣技には連続剣技もあるのじゃが、それはまた教えることにしようかの。それから、剣には特殊能力も備わっておる。それは強力じゃが、基礎を疎かにしてはいかん。足元を掬われるからの」


特殊能力なんてものまであるのか!?

思わず木剣を見つめる。


「その木剣には特殊能力はないぞ」


考えを見透かされ、恥ずかしい気持ちになりながら木剣を下ろす。


「そ、それじゃあどんな剣に特殊能力が?」

「剣であれば何でも特殊能力がある。製作過程で能力に違いは出てくるがのう。その木剣は剣のような形をしておるだけで剣ではない。じゃから特殊能力はないんじゃ」


自分の持つ木剣を見つめる。

どっからどう見ても剣の形だが、何か判定基準のようなものがあるのだろうか。


「……あ!」


木剣と思っていたから気づかなかったが、よく見ればこの木剣は刃を模した構造も柄もない。

師匠の木剣にはそれらがあり、明らかに違うのが分かる。


「これ、よく見たらただの棒なんじゃ……」

「ほっほっほっ、今頃気づいたのかえ」


師匠はおかしそうに笑っている。

いや、何でこんなものを持たせているんですか!


「ちゃんとした剣がほしいです!」

「棒切れもまともに振れんようではこの先やっていけんぞ。まあお前さんはそれをつかいこなしたようじゃし、剣技を覚えるためにも剣は必要じゃの」


そう言って自分の持つ木剣を渡してくる。


「これからはこれを使うとよい。特殊能力は回復力向上じゃ。これから稽古で疲れても、ある程度は回復するじゃろう」


木剣を受け取る。

これからこの剣を使いこなし、絶対に剣技を習得する。

そう心に決め、さっそく稽古を再開するのだった。

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