第5i賞 観測者に告げる
「おい上位個体」
聞きなれた声が聞こえた
「さっさと起きろ、拘束に失敗したから今更何かしようとも思わん」
だが起きようにもどうすればいいのかが分からない、いつも通り過ごしていた日常に戻る手段が見当たらない
「おまえは何を言っているんだ、いつも通りに戻りたいなら今すぐボクたちの観測を辞めればいいだろ?そうすればこの世界がどうなるかはわかるだろうけどな」
分からない人もいるんじゃないのか?
「まあそうだな…説明してやるよ、この虚数世界で行われたこともな」
あぁ
「まず、だ、さっき観測を辞めたらどうなるかって言ったろ?答えは簡単だ、この世界は放置されたゲームのように動かなくなる、ボクはそもそも止まっていることにすら気づけない。何故かわかるか?観測されなければ何も起こらないんだよ。観測者ありきのこの世界ではその行為がとてつもなく重要だ、分からなければシュレディンガーの猫について調べてこい」
続けて
「そしてこの世界はとある人物によって作られている。」
とある人物…
「あとこの世界で行われたことだが、銃器の作成は問題なく行われていた。が…」
が?
「…あの世界に送り込む過程で気付いたんだ、現実世界にも干渉できるんじゃないかってな。それで干渉してお前をこの世界に引き込もうとしたんだ、その現実改変能力を利用して、この世界の消失を防ごうと思ったんだ」
世界の消失?
「お前が見ることを辞める…それならばまだいい、誰がお前以外の別のやつが見れば世界はまた動き出す。だがな、この世界自体が消失してしまう時がいつか来るんだ、それは明日かもしれないし、▉▉が死んだ何十年も後かもしれない。それを防ぐ必要があると思ったからお前をこの世界に永久に閉じ込めようと思ったんだ」
でも何も起こらなかったぞ?
「お前に対して部隊を何回も送ったが全部時間が戻るか現実改変で無かったことにされたよ、だから無駄だった」
そうか
「まあ、あの世界での物語も終わりだ、ボクはゆっくりと止まったり遡っては動いたりする時間を楽しむとするよ。ま、どこか別の世界の虚数時間軸でひょっこりと現れるかもしれないけどね」
どこか別の世界?
「そう、どこかでね。君がこの世界をもう一回見たとしても時間が逆戻りするだけだ、意味は無い。」
そうか
「無意味…残念ながらな…」
「代理人は立てない方が良いとあれだけ言ったでしょう?」
「は…はい。すみません。」
「別に攻めてる訳じゃないの。ただ、貴方の苦悩はよくわかるわ。だから代理人を立てるのをやめた方が無駄な負担も減るし……そもそも、貴方は彼を信じて無いの?」
「誰よりも信じてる。でも、もしもの時の為に私は最後まで…最後までしてあげたいから。」
「ふふ。わかったわ。貴方の志には感服ですね。私に出来ることが有ればなんでも言いなさい。その時には手を貸しましょう。」
「はい。ありがとうございます。」
「優しく子ね…。」
「いや、優しいんじゃないわ…。」