第五十九章 全ての下見
サラを見送り終わると、ミューが振り返る。
「で?ルイは何処なの?」
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目覚めた時、ルイはその静けさを肌からも感じた。どうやら、此処は疲れ尽きた場所では無いようだった。
「B…ルイが起きた。」
ミューの声。
ルイはベッドの上に居た。
「 」
ルイは呟いた。
「ルイ…起きたか。本当に良かった。」
Bがわざとらしくルイを抱きしめる。
「少し休みたまえ。後で大事な話が有る。」
そして、Bはベッドの横にマグカップを置くと部屋から出て行った。
「 」
我が家に戻った事実にルイはまた呟いた。
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コンコンコン
ノックの音が聞こえたかと思うと、Bが部屋に入って来た。
「やぁ。調子はいかがかね?」
Bはそのままベッドの隣に腰掛けた。
「さっき大事な話が有ると言ったね?」
声のトーンが慎重になる。
「実はだな…サラから貰ったデータに政府関係施設の設計図が沢山出てきた。これで、抜け道を見つけられる。だから…近々、メインタワーに乗り込もうと思う。」
「 」
「といっても革命を起こす前の下準備としての、偵察だ。大した事はしない。」
「 」
「しっかりと準備しておいてくれたまえ。頼んだぞルイ。」
Bは握手を求める様に手を差し出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜今晩〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ルイ…ルイ!起きて。」
ミューの揺さぶりと声で目を覚ます。
「 」
「ルイ…聞いて。今から本当に大事な事を話す。」
ミューはやけに真剣な声でルイに語りかける。
「ルイ…もしルイがこれを聞いたら貴方は決断をする事になる。でも大事な事…だから聞いて。」
「 」
フゥ
ミューが深呼吸をする。そして、口を開いた。
「私達が最初にあった場所覚えてる?」
ルイは頷く。そこは、燃える祖母の家だった。
「懐かしいよね…なんか…。」
ミューの口が淀む。
「あの!それでね…。」
ミューははっきりと言う。
「Bが貴方の祖母を殺したの。」
一瞬沈黙が生まれる。この旅が始まったのは全てあの日が原因なのだ。
「家を焼いたのもアイツ…。貴方の家が政府軍に襲われた時、Bは貴方が祖母の家に来ると確信した。だって貴方、父方の祖母しか会った事ないでしょ?それで、貴方の情報収集も兼ねて家に行ったの。その時、貴方の婆さんがあまりにうるさいから撃っちゃった。」
ルイは真剣に話を聞いていた。
「その後、私達は考えたんだ。貴方が地上で唯一の孤児院に行く可能性を。だから、念のため家を焼いとけば、必然的に貴方が孤児院に来るとアイツは考えた。その結果が、焼いている最中、貴方が来て上手く勧誘出来たって訳。待ってた甲斐もあった。貴方も不思議に思わなかった?こんな都合良く事が回るって…誰かに動かされてるみたいに。」
麻袋で隠れて見えないが、ミューが笑った気がした。しかし、ルイはひたすら黙って聞いていた。
「それだけ…貴方がアイツをどう思うか貴方の自由。でもね、これだけは言わせて。アイツは革命の為なら犠牲を厭わない。そんなアイツの為に最後まで付き合うかよく考えといて。」
ミューはベッドから離れ、扉の前で立ち止まった。
「それと、私は明日に備えてもう寝るね。」
ミューはもう行ってしまった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜次の日〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Bが銃のボルトを引く。
「準備は出来たか?」
「 」
「出来てる…。」
「では、行くぞ。今日はあくまで偵察だからな。派手な真似は控えてくれたまえ。」
「わかってる…。」
三人は借りてきたボロい車に乗り込むと、地上世界に向かった。
昨晩ミューに言われた事を思いながら、窓の外を眺める地上の景色。
( )
心の中で思いながら、車内をチカチカ照らす広告の光に打たれていた。
「二人とも。」
Bの言葉に二人は振り向く。
「君達は私の事をどう思ってる…?」
「…っ!」
ミューは込み上げてきたものを止める様に喉を鳴らした。
「私はまだ幼い君達を戦わせて来た…子供を戦わせるなんて、おかしなはなしだ。申し訳ないと思っている…。本当に…本当に。」
車内が一瞬暗くなった。
「でも…訳があるんだ。訳が…。」
「別になんとも思ってないよ…。」
ミューが急に口を開いた。
「ありがとう…この改革が終わったら全て話そう…私の罪を。」
「フッ…聞けたらね…。」
ミューが嘲蔑する様に言うった。
「あぁ…話すさ。必ず。」
メインタワーが見えて来た。
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「今回は武器庫と放送スタジオに行く。よし、この地図を見てくれ。」
Bがホログラムで立体的な地図を映し出す。
「ルイのチカラが有れば、中には簡単に潜入出来る。しかし、問題はここからだ、ダクトは小さ過ぎる。ミューなら入れるが…行けるか?」
ミューは首を横に振った。
「しょうがない…では、ルイと一緒に放送スタジオを漁ってくれ。」
ミューは頷いた。
「では、輸送用の通路から潜入しよう。」
そう言って、ホログラムを閉じるとメインタワーに足を踏み入れた。
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「ルイ!ミュー!放送スタジオの探索は済んだか?」
「 」
「うん…。」
「では出るぞ!長居は禁物だ!」
輸送用のクレーンとホバリングする貨物を飛び越える。
「よし出口だ!さっさと出るぞ!」
輸送路の扉を勢いよく開ける。
「動くな!」
一面に広がる政府軍が銃を向けていた。
「手を後ろで組んで、跪け!」
「なんでだ?警報に引っかかったか?」
ミューは首を横に振った。しかし、何処か愉快なそうだった。
「いいから動くな!」
「ルイ!ミュー!抵抗できるか?」
ミューは首を横に振った。
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「やぁやぁ。お目覚めだね。」
真っ白なホールが眩しい。此処は?
「よくやってくれたね?ぇールイ君。」
目を開けると、B位の身長をした男が立っていた。ハイドファーを被っておらず、代わりに、別の人の顔の皮膚を縫いつけられていた。
「でも君が連れてくるのは彼らじゃ無いだろう?」
男が指を刺した方には、Bとミューが銃を向けられ、固定されていた。
「ふん…残念だ…残念だよ。君が間違えた仕事をした事も、君達が何か勘違いしている事も。」
男がBの周りを歩き回る。
「おっと自己紹介を忘れていたね。私は…あーどうしようか…。では、私はα(アルファ)とでもしておくか…。君達が殺そうとしていた本人だよ。」
男はBの脚を思いっきし蹴った。
「はぁ、君達。確かに私を殺せば、社会は変わる…でもだ、君達はそれ以上に罪深い事をした事を分かっていない。」
αが突然、小型の銃をBのハイドファーに近づけた。
「私が理不尽な社会を作ってると思ってる。でもだ…私が作ったんじゃ無い。」
αがBにニヤリと笑うと話を続けた。
「それはさておき、この社会は危機に迫ってる。特に君達のせいと言っても過言じゃ無い。」
αはミューの周りを一周してルイの目の前に戻ってきた。
「テュケ。分かるな?アンドロイド反乱の張本人。君達はテュケーに協力して来た。まぁ彼女の本性を知らなかったなら仕方ない。彼女は"計画"を実行しようとしている。」
αがルイの胸に銃を突きつける。
「その"計画"。まぁ簡単に言えば、'人類は誰も生かしておく価値が無いから殺してしまえ。'ってゆう計画さ。そこでだ、唯一テュケと接点のある君達が彼女を殺して来てくれ。」
男が銃口を押し付ける、その銃はBの銃だった。
「タダでとは言わない。私も鬼じゃない。そうだな…もし彼女を殺せたら、このゲームを終わらせよう。意味は分かるな?」
ルイは自然と頷いていた。
「よし、交渉成立だ!敵の敵は味方。共に世界を危機から救おう!」
パンパン!
αが手を叩くとB達の拘束が取れ、三人の武器が目の前でばら撒かれた。
「彼女が死んだかは証拠がなくても分かるから大丈夫だ。君には期待してるよ。世界の平等と平和がかかってる。」
αはルイの頭を撫でるとルイは急に眠気に襲われた。
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ルイが目覚めた場所はいつもの場所だった。しかし、いつもと様子が違う。いつも上からしか降らない光がとある一方から強力に照らされていた。
「どうも…。」
テュケーだ。
「お話しの前に此方へ。」
ルイは何故か言う事に従った。まるで人が創造主のお告げを聞く様に。
「貴方には疑問に思う事が沢山あるでしょう。」
ルイは黙ったままでいた。
「此方にお掛けになって。」
そこには、古い椅子が二つと鉄の机が一つ置かれていた。
「何処からお話しすれば良いか…そうですね。シナリオ通りに進めましょう。まず貴方が目覚める度此処に来る理由。簡単な話です。私が貴方のお仲間に会える様、お膳立てする為です。といっても今日は違いますが…。」
テュケは悲しげに微笑むと話を続けた。
「次に私が貴方を助ける理由…。」
「彼女曰く、貴方は"計画"の話を聞いたようですね。その話からしましょう。計画…アダムとイヴ計画。それは私に最初にプログラムされた計画。これを発動するのはこれで二回目。一回目は地上で生きている方々の先祖。いわばこの社会を作り上げた方々です。突然地上に人が現れる訳ないでしょう?でも今の人間が考察した歴史はあながち間違ってませんね…アダムとイヴの様に。そして"計画"はこの話につながって来ます。この"計画"とは、人類を全て殲滅してリセットされた世界に二人の人類を放つ事。しかし、今私はアダムとイヴを作る機能を奪われてしまいました。」
ルイはαから貰った銃を握りしめるがうまく動かない。
「アダムとイヴ。劣勢遺伝子を持たない。完璧な人間。いわば親近相関しても奇形児が生まれない遺伝子的に完璧な人間。私はそのクローンを作り出せた。今は…もう、ですが。」
テュケが急に立ち上がった。
「ルイ、ルイよ。まず、真実を知った貴方にはこれを託す必要があります。」
テュケは鉄で固められた二つの注射器を差しだした。
「これらはナノマシンが入っています。しかし、互いにプログラムされている内容が違います。右は"計画"を実行する為の破壊的なプログラム。左は遺伝子汚染を止める、薬としてのプログラム。右の方をメインタワーにある、私の一部に流し込んで下さい。左はもしものことが有れば使って下さい。」
ルイは二人の注射器を受け取った。
「これを貴方に託したのは他でもない、貴方が私の求めていたアダム。劣勢遺伝子を持たない完璧な人間。そして、貴方は私から生み出されずに出来た。それはいわば神からの贈り物。さぁ、ノアの洪水を起こす時。そのチカラは偽物じゃない。世界を浄化しま…」
バン!
後ろから銃声が聞こえた。
「ルイ!」
「ルイ君!」
Bとミューだ。
「テュケーを倒せたな。これで…これで世界が…」
Bは泣いていた。こんなの初めてだ。三人は初めて本当の安堵を感じた。素晴らしい時間だった。
「君達…ありがとう…こんな私の為に。」
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三人はメインタワーの前に着く。
「これでようやく終わるな。」
「うん…。」
「ルイ君…ありがとう。」
「 」
「では、行こう。」
三人はメインタワーに入っていった。
ガラス張りの社長室。モルテックと大きく書かれた社長室。悪趣味だ。
「α、やって来たぞ。」
「あぁ。勿論知ってるさ。お疲れ様。」
「約束は…」
「約束は守るさ、勿論。」
「では…。」
バン!
火薬銃の銃声が室内に鳴り響く。
そこには額を撃ち抜かれたBの姿があった。
「ゲームエンドだ。Bさん……いや兄さん。」
Bのハイドファーが転がり落ちBの素顔が見える。
顔に皮膚が無い悍ましい顔だ。
「話が違う‼︎」
ミューが怒鳴る。
「いや違くない…。何も違くない。始まりは全て兄さんさ。そうモルテック社、社長の兄さん。君達が理不尽に感じていたものも全て彼が仕組んだのだよ…。」
αの銃口がルイに向く。
「あと…ルイ君。私はゲームを終わらせるとしか言ってない。分かるな?」
αがニヤつく。
「君達は本当に良い仕事をしてくれたよ。ルイ君。ありがとう。」
バン!
銃声と共にガラスの破れる音が聞こえる。
「ルイ‼︎」
ミューがルイを押し、αの弾丸をかわす。
「ルイ!逃げるよ!」
ミューはルイの手を力強く握りしめると、破れた窓から飛び降りた。
おかしい、何かおかしい。“彼"の言動に可能性があるなら何故蝶のように分かれない?おかしい、何かおかしい。“黒幕"が隠れてる。




